第十二話:秋の香りと、大賢者が立ちあがった日
体育祭でのクレーターを綺麗に埋め戻した私達は、数日後。
見事なサツマイモ畑へと成長した、施設の裏庭に来ていた。
秋の心地よい日差しの中、私は頭に手ぬぐいを巻き、軍手をはめてスケッチブックを掲げていた。
【今日は芋掘り。大きなお芋をたくさん掘りましょう】
「ふむ……。土の底に眠る大地の恵みを、我が手で引きずり出すというわけだな」
ベルゼおじいちゃん(1200・元魔王)が、
禍々しい闇のオーラをまとわせながらスコップを構える。
「魔王よ、お前の大雑把な力では芋が潰れる。ここは我が剣技で、土だけを音速で切り裂くのが正解だ」
フォードおじいちゃん(82・元剣聖)が、神剣を抜こうとして火花を散らしている。
(武器は閉まって普通に手で優しく掘って……。お芋が傷ついちゃうので……)
私がジト目を向けると、二大巨頭は「ハッ!す、すみません……」と小さくなって、大人しく土をいじり始めた。
そんな中、車椅子に揺られながら、金髪をなびかせたおばあちゃんが微笑んでいた。
彼女の名前は、エルミナおばあちゃん(推定800歳)。
普段はおっとりとしていて、施設のハーブティーを飲むのが趣味の
可愛いおばあちゃんだが……。
その正体はかつて世界樹と契約し、大陸すべての植物を操ったというエルフの国・元最高指導者(大賢者)である。
今日のエルミナおばあちゃんは、農場の土や植物の匂いを感知して
魂が全盛期の「大賢者」へと巻き戻りしてしまっていた。
「ほほ!芋掘りなど、この私に任せなさい!大地よ、世界樹の息吹をまとわせ……
眠れる黄金の果実を我が御前に捧げよ!」
エルミナおばあちゃんが、全盛期の古代エルフ魔法をブツブツと呟き発動した瞬間。
裏庭の地面が緑の光で輝き始め、激しく脈打ち始めた。
ゴゴゴゴゴ……!!
「なっ、なんじゃ?!」
「エ、エルミナ大賢者が本気の神聖植物魔法を……!?
チーフお祖母ちゃんから離れて!大地が怒り狂ってる!」
近くでツルをまとめていたロイドくん(本日まだ無傷)が、叫んだ次の瞬間。
ドゴォォォォォン!!!
地割れと共に土煙が舞い上がり、畑の底から現れたのは、ただのサツマイモではなかった。
エルミナおばあちゃんの過剰すぎる魔力を吸い上げ、変異を遂げた
『超巨大・動く魔導サツマイモ(推定体長10メートル)』が、無数のツルを触手のようにウネウネと蠢かせながら咆哮したのだ。
「キュキュゥゥゥゥーーーッ!!(お芋の咆哮)」
「ひ、ひぃっ!?芋が生命を持って暴れ出したぞ!?」
ロイドくんが必死に「防御結界」を張るが、魔導サツマイモの巨大なツルは難なく貫通していく。
結界はガラスのように砕け散り、ロイドくんは本日一発目の
「ツルでがんじがらめになった、お芋の甘い香りの黒焦げ」になって壁に叩きつけられた。
暴走する巨大サツマイモは、その巨体で施設を押しつぶそうと突進を始める。
「あらあら、ちょっと魔力を込めすぎちゃったかしら?
お芋ちゃんダメよ~そっち行っちゃ」
エルミナおばあちゃんはのんきに首を傾げているが、魔法の制御が効いていない。
だが、私は一歩も引かなかった。
なぜなら、今日のおやつのメニューは、この掘りたてのお芋を使った
『特製スイートポテト(濃厚バター風味)』と決まっていたからだ。
これほど巨大化して繊維がバキバキになっては、なめらかな口当たりのスイートポテトが作れなくなってしまう。
私は、いつもの「真顔(本日一番のブチ切れ超ジト目)」になり。
懐からスケッチブックを引っこ抜いた。
マジックペンを凄まじい風切り音と共に走らせる。
迫り来る魔導サツマイモの顔面(らしき部分)に、バッと力強く掲げた。
【大人しく縮みなさい。それ以上動いたら、すり潰すから】
少女が放った、「おやつのクオリティを妥協したくない執念(大気をも震わせる威圧感)」。
それを正面からまともに喰らった魔サツマイモは、核に電流が走ったかのように、その場で硬直した。
植物としての本能が、生存本能が警報を鳴らしていた。
(殺気が凄まじい……!スリツブス……。この小さき子に、我を消す能力が宿ってるというのか?!怒らせたら根こそぎ除草剤(デス・魔法)で消される……!!!)
シュルシュルシュル……。さっきまで施設を破壊せんばかりだった巨大魔導サツマイモが、急速に縮小していく。
最終的には、丸々と太った非の打ち所がない
「スイートポテト用サツマイモ(適正サイズ)」へと姿を変え、
私の足元にゴロゴロと自ら収穫されに転がってきた。
それを見たエルミナおばあちゃんは、大きく口を開け車椅子から立ち上がっていた。
「はぁぁあ?!エルミナさん立ったあー!?」
ロイドくんが、大声で叫ぶと一斉にエルミナおばあちゃんへ皆の視線が集まった。
「まぁまぁ!エルミナさん凄いわ!」
「治ったのか?!これはまさに、奇跡じゃ!!」
エルミナおばあちゃんを囲んで、他のおじいちゃんおばあちゃんが拍手をし始めた。
「ま、まさか……。世界樹の魔力を得て暴走した大地の精霊が
紙切れ一枚と、あの眼光だけで完全に『調教(品種改良)』された……!?嬢ちゃん……あんた、ただの人間じゃないね……。植物の生死を指先一つで操る、真の『豊穣の女神』なんだねぇ……!」
ブツブツ言いながら、ふと私の方をみたエルミナおばあちゃんは
ゆっくりこちらにやって来た。
「私……歩けるようになったわ!マスター、ありがとうね」
おばあちゃんは静かに涙を流し、両手でルルの手を握りしめる。
(私、何もしてないんだけど……。喜んでるし、まぁいいか。)
横では、お芋の安全を爪でツンツンして確認しているベルゼおじいちゃんたちがいた。
「流石は我が主、植物の魂まで支配するとは……」
深く一礼している。
壁際でツルに縛られたまま煙を上げているロイドくんが、ガタガタと震えていた。
「せ、世界樹の大賢者すら制御できなかった古代の魔導植物を、ただの真顔と『おやつの調理法』だけで一瞬にして完全服従させるなんて……。ルルチーフは、この世の全ての有機物を統べる、文字通りの『全生物の長』なんだ……!」
(いや、美味しいお芋のためなんだけどな。……。それよりロイドくん、ツルをハサミで切るから、そのままジッとしててね?)
暫くして。枯葉とツルたちで焼き芋を焼いていた施設長の声が響いた。
「はい!出来上がりましたよ~熱いから、この新しい軍手をつけて食べてくださいね~」
施設長が余った芋で焼き芋を作り、先に食べさせていた。
「おい!ずるいぞ!我のより、芋がデカいではないか!」
「ふふふ。いいじゃない。その分2本食べれば」
皆、ハフハフ言いながら美味しそうに食べて笑顔になっていた。
こうして、その日に収穫されたサツマイモたちは……。
15時のおやつの時間になると、ルルの手によって絶品のスイートポテトへと調理された
おじいちゃん、おばあちゃん達は、口の中でとろける甘さに大喜びで万歳三唱する。
少女は今日も真顔のまま、世界で一番危険で、世界で一番美味しい秋の味覚を配り続けるのだった。




