第84話 3人の役割分担
放課後。丘の下の空き地に、三人が集まった。
「改めてね。——アリサ・ヴァイスフェルトです。よろしく、ティナさん」
「ひゃ、ひゃい! ……は、はい! ティナ・レーゲンタールです!」
週末の教室で、顔はいつも合わせている。でも、こうして面と向かって話すのは、初めてだった。学園史上最高の天才は、間近で見ると、びっくりするくらい姿勢がきれいだった。
「ふふ。いつも、教えてほしい子たちの取り次ぎ、ありがとう。助かってるわ」
「い、いえ、そんな……!」
「噂も聞いてるわよ。水の子でしょう」
「う、噂……?」
「ピリカがね、『ティナは苦労してるタイプだから、きっといい表現で伝えられる』って。……それはもう、自信満々に」
「そ、それ、褒めてるの……?」
「私も最初、煽ってるのかと思ったわ。——でも、あの子の中では、最上級の褒め言葉よ」
アリサ様が、くすくすと笑った。思っていたより、ずっと、話しやすい人だった。
-----------
「それで、章立てはどうしようかなって」
挨拶がひと段落すると、ピリカちゃんが切り出した。
「火、水、風で、いいんじゃないかしら。基本属性の、伝統的な並びだもの。読む子にも、馴染みがあるはずよ」
「さすがアリサ、私もそれがいいかなって思ってた! じゃあ、その並びで——火はアリサ、水はティナ、風は私ね! それぞれ、いちばん自分のことばで書けるやつ!」
「が、がんばります……!」
第1章 火を起こす——アリサ
第2章 水を出す——ティナ
第3章 風を起こす——ピリカ
あっさり決まった。
(ま、真ん中だ……)
学園史上最高の天才と、その天才の先生の間に、自分の名前が挟まっている。ティナは、嬉しいような、胃が痛いような気持ちで、もう一度「がんばります」と、心の中で唱えた。
--------
帰り道。
夕陽の丘を下りながら、ピリカは頭の中で、もう冊子の中身を考え始めていた。
火の章は、アリサ。教えるのは苦手でも、書くなら——私と一緒に言葉を探せば、きっと書ける。何しろ、本物の天才の章だ。
水の章は、ティナ。できなかった側から、できた側になった子の言葉は、誰よりも初心者に近い。
風の章は、私。そこにある空気を、動かすこと。掌のすぐ先だけでいいこと。みんながつまずいた場所は、ぜんぶ知ってる。先回りして、書いておける。
(……あれ?)
ピリカは、ふと足を止めた。
(これ、けっこう——すごいものに、なるんじゃ……?)
夕焼けの丘の上で、三人の影が、長く伸びていた。




