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魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】の各話一覧  作者: Koh


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第72話 助っ人、見参

 数日後の、夕方。


 グリモワルドの家で、ピリカは今日も手紙の山と格闘していた。


 返事を一通書くたびに、新しい手紙が二通届く。さばいても、さばいても、山は減らない。


「うう……手が、もう一組、欲しい……」


 そのとき、扉が叩かれた。


 開けると、アーサーが立っていた。


「お兄様? どうしたの、急に」


「ピリカ。——助っ人を、連れてきた」


「助っ人……?」


 アーサーが、すっと身体をずらした。


 その後ろから、見慣れた姿が、一歩前に出た。


「お嬢様が、なんだか大変とお聞きしまして」


「————ローザっ!!!!」


 ピリカは、手紙を放り出して飛びついた。ローザは、ふふ、と笑って、昔と同じようにそれを受け止めた。



「で、でも、どうして……」


「アリサ様から、若様にお手紙がありまして」


「アリサが?」


 ——数日前。机に突っ伏した私の上で、アリサとティナが顔を見合わせていた、あの昼休み。


 あの後、アリサはすぐに動いてくれていたらしい。『ピリカが限界です』と、アーサーに手紙を。アーサーは実家でそれを広げ、ミランダは「あらあら、やっぱり」と頷き、そして——ローザに、白羽の矢が立った。


「父上には、きちんと話は通してある」


 アーサーが言った。


「『自由に手伝ってもらえ。軌道に乗ったら、ちゃんと雇え』——とのことだ」


「ちゃんと、雇え……」


 タダで貸してやる、ではないのだ。いずれ対等な雇い主として、給金を払って雇いなさい。——お父様らしい、不器用で、まっすぐな筋の通し方だった。


「うん。……うん! 絶対、ちゃんと雇えるようにする!」



 ローザは、その日のうちに動き始めた。


 まず、机の上の手紙の山を、ひと束、手に取る。


「お預かりします」


 しゅっ、しゅっ、と封を検めて、見る間に四つの山に分けていく。


「こちらは至急のお返事が要るもの。こちらはお礼状のみでよいもの。こちらは、お断りすべきもの。——こちらは、お嬢様ご自身のご判断が要るもの」


「は、はやい……」


 四つ目の山は、たった三通だった。さっきまで、全部に自分で返事を書こうとしていたのに。


「ご予定も、まとめます。職人ギルド様、石鹸職人様、ヒアリングのお約束、学園の行事——一枚の表にいたしますので、お嬢様は毎朝それだけご覧ください」


「ひょ、表……?」


「お問い合わせの窓口は、今後、私が承ります。ミランダ様経由のお手紙も、まず私が拝見して、要点だけお伝えします」


 てきぱき、てきぱき。


 散らかっていた机が、みるみる整っていく。十年以上、侯爵家を切り盛りしてきたメイドの手際は、商売の事務にも、まったくそのまま通用するらしかった。



「なんじゃ。人が増えとるの」


 奥から、グリモワルドがコーヒー片手に顔を出した。


 ローザが、すっと姿勢を正して、深く頭を下げる。


「お初にお目にかかります。ベルフォード家にて、ピリカ様にお仕えしておりました、ローザと申します。——以後、こちらに出入りのご無礼を、お許しくださいませ」


「ふむ。よくあの兄と一緒におった、メイドじゃな」


「っ……お見知りおきとは、光栄です」


「平民と見えるが——お主とピリカは、まるで姉妹のようじゃな」


 ローザが、一瞬、目を瞬かせた。ピリカが、すかさず口を開く。


「姉代わりで、ずっと一緒に育ったんです。——なんなら、本当のお姉ちゃんだと思ってます」


「お嬢様……」


 ローザの声が、かすかに震えた。目の縁が、じわりと赤くなる。


「なんじゃ、涙脆いメイドじゃな」


 グリモワルドは、コーヒーをひと口すすった。


「——最近、そやつはやけにいっぱいいっぱいじゃった。せいぜい助けてやれ」


 それだけ言って、奥に戻っていった。


 ローザは、目元をそっと指先で押さえてから——静かに、頷いた。


「……はい。お任せくださいませ」



 それから、数日。


 ピリカの毎日は、嘘みたいに変わった。


 朝、ローザの作った一枚の表を見る。今日やることが、ぜんぶそこにある。手紙の山は消えて、判断の要る三通だけが机に載っている。納品の日取りも、ヒアリングの順路も、石鹸職人さんとの次の約束も、ぜんぶ決まっている。


「ローザ、すごい……私、昨日まで何に追われてたんだろう……」


「お嬢様は、考えることと、教えることに集中なさってください。——それ以外は、私が」


 ローザは、当たり前のことのように言った。


 アーサーの前では「ピリカ様」と呼び、二人きりになると「お嬢様」と呼ぶ。今後を見据えたその使い分けも、いつのまにか始まっていた。



 その夜。


 ピリカは、久しぶりに、庭に出た。


 掌の上に、真空の玉をひとつ。ゆっくり、丁寧に、維持する。——何日ぶりだろう。少し、鈍っている。でも、思ったよりは、忘れていない。


 (明日は……ティナたちのところに、行けるな)


 教えてほしいと言ってくれた、6人の子たち。ずっと待たせてしまっていた。


 夜空の下で、ピリカは真空の玉を、ぽん、と弾けさせた。


 風が、ふわりと頬を撫でた。


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