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魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】の各話一覧  作者: Koh


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第54話 ただいま、お師匠様!!!!!


 夜遅く。馬車が一台、グリモワルドの家の前に止まった。


 扉が開いて、ピリカが降りた。目の周りが真っ赤だった。鼻も赤い。泣き腫らした顔が、隠しようもなかった。


 ——でも、表情はすっきりしていた。憑き物が落ちたような、軽い顔をしていた。


 続いて、フレデリックが降りた。


「ピリカを当家に来させるのがずいぶん遅くなりましたね」


 玄関の明かりがついた。扉が開いて、グリモワルドが顔を出した。


「ふん、わしのせいじゃないわ。あんな簡単なこともすぐ決められん、学園のやつらに言え」


 フレデリックが一瞬、目を見開いた。——それから、小さく笑った。


「……仰る通りですな」


「お師匠様!」


 ピリカがじとっとした目でグリモワルドを見た。——お父様に向かって、その言い方。


「グリモワルド様」


 フレデリックが一歩前に出て、軽く頭を下げた。


「改めて。娘がお世話になっております。これからも、どうかピリカをよろしくお願いいたします」


「任せておけ」


「それと、本日は——妻も大層喜んでおりました。あの魔道具には、驚きました。魔道具といえば攻撃魔法と思っていたんですが、あのようなものは初めてです」


「かっかっか。そうじゃろう、そうじゃろう。一緒に持たせたシャンプーも使うとな、髪がツヤッツヤになるぞ」


「それは……妻が聞いたら大変なことになりそうですな」


 フレデリックは小さく微笑んで、馬車に戻った。


 馬車が走り去るのを、ピリカは見送った。それから、家の中に入った。



「それで、どうじゃった?」


 グリモワルドは椅子に座って、コーヒーカップを傾けた。いつも通りだった。


「その前にお師匠様」


 ピリカが鞄を下ろした。


「一発、お殴りさせてくださいませんか」


「ええぞ」


 グリモワルドがあっさり頬を差し出した。



 ピリカは手袋を嵌めた。


 メリケンサックを装着した。


 メリケンサックに、バチバチと雷が帯電した。


 グリモワルドは頬を差し出したまま、にやにやしていた。


 ——思いっきり、振りかぶった。


 ガンッッ。


 拳が止まった。頬の数ミリ手前で、見えない壁にぶつかった。


「……は?」


「圧縮した空気の壁じゃ。まぁまぁ硬いじゃろ」


「そんな話はしてないんですよ!!!」


 もう一発。ガンッ。止まる。


 もう一発。ガンッ。止まる。


 右。左。右。右。左。全部止まる。角度を変えても、速度を変えても、フェイントを入れても、全部同じ場所で止まる。


「く、くっそ……全く届かない……」


「かっかっか! 貴族のご令嬢が、口調が崩れておるぞ」


「もう! 貴族じゃ! ないです!!!!!」


「ほう?」


 渾身の一発を叩き込んだ。帯電したメリケンサックが空気の壁にぶつかって、バチッと火花が散った。


 ——びくともしなかった。



「はぁ……はぁ……」


 ピリカは肩で息をしていた。メリケンサックを外して、手袋を脱いだ。


「それで。一応聞くが、和解はできたのか?」


 グリモワルドが、何事もなかったかのように聞いた。頬を差し出したままの姿勢を戻して、コーヒーをすすっている。


「……はい」


 ピリカは息を整えながら答えた。


「結果的に勘当は継続ですが、このまま——家族として関わっていくことになりそうです」


「それはよい! 貴族なんてなっても、いいことはないわ」


 グリモワルドはカップを置いた。



「それと、お師匠様」


 ピリカが、少し改まった声で言った。


「お師匠様が——退学に反対してくださったんですか?」


「……?」


 グリモワルドが、きょとんとした顔をした。本当に、何のことかわからないという顔だった。


「お父様から聞きました。ボルトラン様と、お師匠様と、宮廷魔法使いの主席と次席が連名で、学園に退学撤回を申し入れたって」


「おお!」


 グリモワルドが手を打った。


「あやつにわしの名前を使っていいか聞かれたのう! ええぞと言ったわ」


「……そ、そんなことだと思った」


 ピリカは脱力した。——連名で反対した、と聞いた時の感動を返してほしい。


「というか、中身も聞いてなかったんですか?」


「聞いたかもしれんし、聞いてないかもしれん。覚えておらんわ」


「ひどい……」


「まぁ、当たり前のことじゃからな」


 グリモワルドがコーヒーをすすった。


「お前を退学にする理由がないじゃろう。ファイアボールが撃てんからといって、魔法が使えんわけではない。——あんな試験、くだらんわ」


 グリモワルドが、少しだけ遠い目をした。


「それと、あやつが動いたのは、もう一つ理由がある」


「……?」


「アリサじゃよ」


 ピリカが目を丸くした。


「あやつの孫であるアリサが、お前と仲良くしておるじゃろう。——お前が退学になれば、せっかくできた友人がおらんくなる。あやつはそれを嫌ったんじゃ」


「……アリサのため、ですか」


「表向きは正論を言っておるだろうがな。"試験の趣旨に照らせば"とか、"学園の信用に関わる"とか。——じゃが、本音はそこじゃよ。孫の友人を守りたかっただけじゃ」


 グリモワルドは、少しだけ懐かしそうな顔をした。


「昔からクソ真面目で、身内には甘いやつじゃ」


 その声は、悪口のようでいて、どこか温かかった。



 しばらく、沈黙が流れた。ピリカの荒い息と、グリモワルドがコーヒーを飲む音だけが響く。


「家族、仲良くな」


 ぽつりと、グリモワルドが言った。


「……? はい。これからも仲良くやれると思います」


「よいことじゃ」


 グリモワルドはそれだけ言って、コーヒーに口をつけた。いつもの、何でもない顔だった。


 でも、数ヶ月一緒に過ごしたピリカには少しだけわかった。


 たぶん、今まで見た中で一番機嫌がいい。それこそ⸻魔法大会で優勝した時よりも。



「さて」


 グリモワルドがカップを置いた。


「ひとまず魔法大会優勝はした。家族との件も解決した。——これで《《お試し期間》》は終了、といったところじゃの」


 ——お試し期間。


 そういえば、弟子入りした日にそんなことを言われた。『ま、いくあてもないんじゃろ。最初のお試し期間ということで』——その流れで、『世代一位を目指して魔法大会で優勝』なんて言われて、正気を疑ったのだった。


「はい。……それで、終了すると、どうなるんですか?」


「うむ」


 妙に、もったいぶった間だった。


「お主——《《金を稼げ》》」


「…………え?」


「食費、家賃、雑費。自分で使う費用くらいは自分で稼いでこい」


「か、稼ぐって……!」


「猶予は半年じゃ」


「半年ぃ!?!?」


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