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魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】の各話一覧  作者: Koh


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第15話 炎の理由

 グリモワルドがコップをテーブルに置いた。


「……面白いことを言うのう」


 低い声だった。さっきまでの気楽な調子とは、少し違う。


「炎を防げるか、と聞いたな」


「はい」


「結論から言えば——防げる」


 ピリカの目が見開かれた。


「ただし、理由が違う」


「……理由が違う?」


「お主は今、『熱が伝わらないから炎も防げる』と考えたじゃろ」


「……はい」


「それは半分正しくて、半分間違っとる」



 グリモワルドが片手を上げた。指先に、小さな炎が灯った。ゆらゆらと揺れる、オレンジ色の火。


「炎というのはな——燃えるために空気が必要なんじゃ」


「……空気が?」


「そうじゃ。正確には、空気の中に含まれる『ある成分』が必要なんじゃが——まぁ、今はざっくり空気と思っておけ」


 グリモワルドがもう片方の手を、炎の横にかざした。


「つまり——炎の周りから空気をなくしてやれば」


 ふっ、と。


 炎が消えた。息を吹きかけたのではない。手をかざしただけ。


「——炎は、燃え続けられない」



 ピリカはその指先を凝視していた。


「……空気がないと、炎は消える……」


「そうじゃ。真空断熱が熱を遮るのは、空気がないから熱が『伝わらない』。炎を防ぐのは、空気がないから炎が『燃えられない』。似ておるが、仕組みは違う」


「……」


「お主の発想自体は悪くない。真空が炎に効く、というところまで辿り着いたのは上出来じゃ。じゃが、理屈を間違えたまま進むと、後で躓く。——きちんと覚えておけ」


「……はい」


 ピリカはコップを置いて、背筋を伸ばした。



「お師匠様」


「ん?」


「真空の魔法——教えてください」


 グリモワルドがコーヒーを啜りながら、こちらを見た。


「ほう?」


 老人の目が細くなった。値踏みするような、でも楽しそうな目。


「どうして炎にこだわる。それを言ってからなら良いぞ」


「……理由は、二つあります」


 ピリカは膝の上で拳を握った。


「一つは——学園に、歴代最高の才能と言われている人がいます。同い年の。その人の得意魔法が、炎なんです」


「ほう」


「もう一つは——」


 ピリカは少しだけ俯いた。


「——私が、結局最後まで使えなかった魔法が、ファイアボールだったから。……ちょっぴり、悔しいので」



 グリモワルドが、ふふ、と少し笑った。


「ふむ、やる気は大事じゃな。そしたら最初は"真空"からいこうか」


「あ、ありがとうございます……!」


「どうせなら実戦で試そうかのう。その歴代最高とかいうのと戦う機会はないのか?」


「授業での模擬戦なら……二週間後くらいに。私から申し込めば、たぶんやれます。私と同じで、向こうもいつも組む相手に困っているので」


「なぜ二人とも、組む相手に困っとるんじゃ?」


「向こうは……強すぎて、到底誰も敵わないからです」


「ふむ。お主は?」


「……弱すぎて、練習にならないからです」


「かっかっか! これは悪いことを聞いた」


「笑い事じゃないんですけど……」



 グリモワルドがコップを置いた。


「ま、ひとまず二週間後の模擬戦で、そいつと戦ってみることじゃ。それまでに仕上げるぞ」


「……二週間で、ですか?」


「なに、真空なんて簡単じゃ。すぐ終わる」


「本当ですか……?」


「わしが教えるんじゃぞ。嘘は言わん」


 ピリカは半信半疑だった。でも——この老人が言うと、なんだか本当にできそうな気がした。昨日から、この人の「普通」は全部とんでもないことだったけれど。



 ——その日の夜。



「お主、本当にセンスないんじゃのう……。こんな簡単な動作がうまくいかないとは……」


「お師匠様の教え方も悪いですよ!!! 空気というものがあるから押し除けるように、ひゅっとか、ぎゅーっとか——全然わからないです!」


「む、でもわしそれでできるからな……」


「この天才め……」


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