↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】の各話一覧  作者: Koh


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
108/108

最終話 小さな灯火

後書きに重要なお知らせあるよ!


 グリモワルドの家は、静かだった。


 あの日から、ずっと静かだ。


 ピリカは、窓辺の椅子に座っていた。お師匠様が、いつもコーヒー片手に座っていた場所。ここから、丘の下の空き地が見える。


 私が失敗し続けた場所。雨の日に、拾われた場所。みんなに、魔術を教えた場所。


 ——お師匠様は、毎日、この景色を見ていたんだ。


 テーブルの上では、アリサが淹れてくれたコーヒーが、湯気を立てている。


⸻


「ピリカ」


 向かいの椅子で、アリサが、コーヒーをふうと吹きながら、こちらを見ていた。


「なにか考え事?」


「うん。……お師匠様から教えてもらったこと、もっとちゃんと広めたいなぁ、って」


「教科書なら、進んでいるじゃない。ティナが章立てを整えて、お祖父様が監修について——あの16ページの冊子が、もうすぐ、ちゃんとした一冊になるわ」


「うん。……ボルトラン様が名前を貸してくださってから、風向きが変わったよね。学園の先生にも、授業で使ってみようっていう人が、出てきたし」


「頭の固い方々は、いまだに『魔術など邪道』と仰ってるけれど。……柔らかい人から、少しずつ、変わってきているものね」


「うん。だから、それだけでも全然ダメじゃないんだけどねぇ。……でも、まだ足りない気がして」


 窓の外を見る。空き地の草が、風に揺れている。


 本は、読める子のところにしか届かない。お店は、買いに来られる人のところにしか届かない。


 今もどこかに、あの頃の私みたいな子がいる。才能がないと言われて、仕組みを何も教えてもらえなくて、一人で泥だらけになって、倒れているような子が。


「……何か、やりたいなぁ」


「何が、いいかしらねぇ」


 アリサも、窓の外を見た。


 二人分の湯気が、ゆらゆらと立ちのぼって、消えていく。


「参考までに私の話をするとね——魔法を、残していきたいのよね」


 ぽつりと、アリサが言った。


「魔術の時代が来るのは、きっと、もう止まらないわ。それで、いいと思ってる。でもね、詠唱をして、世界にお願いして、応えてもらう——あの感じ。効率では、負けるのかもしれないけれど。……だって、きれいでしょう」


「……うん」


 ピリカは、思い出した。


 三人で稽古をしていた頃——お師匠様は、アリサの魔法を、よく褒めていた。「ほう」とか、「悪くないのう」とか、あの人にしては珍しいくらい、素直に。詠唱に応えて、世界が動く。その一瞬を、コーヒー片手に、目を細めて眺めていた。


 (……あれ? そういえば私、魔法を褒められたこと……たぶん、一回も、ない……?)


 (——いや、うん。今は、どうでもいいか……)


 思い返せば、いつだって、そうだった。


 雨の決勝の日、空を覆った、炎の鳥。怖くて、強くて——とても、きれいだった。


 ドラゴンの森で見た、お師匠様のソーラーレイ。世界から光が消えて、真っ暗になった空から、白い柱が一本、まっすぐに落ちてくる。世界で一番怖くて——世界で一番、きれいだった。


 それから、この家の庭で。アリサが詠唱するたび、応えるみたいに立ち上がった、炎や、水。稽古だってわかっているのに、私はいつも、ほんの少しだけ、見とれていた。


「魔法は、きれいだよ。なくしちゃ、だめだ」


「ふふ。じゃあ、私のやりたいことは、決まり」


「いいなぁ、アリサは。……私のは、何がいいのかなぁ」


「何が、いいかしらねぇ」


 同じ言葉を繰り返して、二人で、ちょっと笑った。


 急がなくても、いい気がした。


 あの人がくれたものは、どこにも行かない。この家も、あの空き地も、私たちの中の知識も。——ぜんぶ、ここにある。


⸻


 窓から、風が入ってきた。


 空き地の草が揺れて、丘の上の家まで、草の匂いが届いた。


 お師匠様が好きだった、晴れた日の匂い。


⸻


 丘の下の広い空き地は、膝丈の草が風に揺れて——《《今はまだ》》、ただの草っ原だった。


 ——ここに、たくさんの小さな灯火がともるのは、もう少しだけ、先のお話。



----

【作者からの重要なお知らせ】

才無し侯爵令嬢、書籍化しました(自力で)

詳細は下記へ!


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/314193/blogkey/3700583/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
うわぁぁぁ書籍化!?ありがとうございます!!!!!!!! 本当に素敵な物語と時代の変わりようと人の優しさが素敵なお話でした、書き綴って下さってありがとうございました…!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。