第三十八話
創世主を探してほしい。
天之御影の言葉は。
あまりにも突飛だった。
「いや無理でしょ。」
トワは即答した。
会議室が静まり返る。
天之御影も固まる。
「無理?」
「だって。」
トワは真顔だった。
「神様たちが見つけられない人を、
私が見つけられるわけないじゃん。」
数秒。
沈黙。
そして。
アマツが吹き出した。
「ははははっ!」
レンが顔を覆う。
「だから言った。」
ミコも少し笑っていた。
天之御影はしばらく考え。
苦笑した。
「確かにその通りですね。」
「でしょ?」
「ですが。」
神の瞳が真剣になる。
「あなたしか行けない場所があります。」
トワの表情も変わる。
「どこ?」
「高天原の最奥。」
その言葉に。
レンが立ち上がった。
「駄目だ。」
即答だった。
「レン?」
「行かせない。」
珍しく強い口調。
トワは少し驚く。
レンは滅多に命令しない。
けれど今は違った。
「最奥は危険だ。」
「何があるの?」
レンは答えない。
代わりに。
ミコが静かに言った。
「神墓。」
部屋の温度が下がった気がした。
「神様のお墓?」
「うん。」
ミコは頷く。
「死んだ神が眠る場所。」
トワは言葉を失う。
神も死ぬ。
当たり前なのかもしれない。
でも。
どこか信じられなかった。
「高天原の最奥には。」
天之御影が続ける。
「神々の記憶が残されています。」
「創世主に関する記録も。」
「ただし。」
そこで言葉が止まる。
「ただし?」
「誰も辿り着けない。」
トワは首を傾げた。
「なんで?」
「拒絶されるからです。」
静かな声。
「神も。」
「魂も。」
「記憶も。」
「全て拒まれる。」
だが。
天之御影はトワを見る。
「あなただけは違う。」
「神籍の主だから?」
「いいえ。」
神は首を振る。
「あなたが"記録する者"だからです。」
トワは理解できなかった。
しかし。
ヨルが小さく目を見開いた。
「そういうことか。」
アマツも何かに気付いた顔になる。
「だからトワだったんだ。」
レンだけが黙っている。
嫌な予感がしている。
その時だった。
会議室の警報が鳴り響く。
ビーッ!!
ビーッ!!
「緊急警報!」
カナメが振り向く。
「高天原側から反応です!」
全員がモニターを見る。
そこに映ったのは。
巨大な樹。
天魂樹。
その根元。
黒い腐食部分が。
突然広がり始めた。
「そんな!」
天之御影が立ち上がる。
「早すぎる!」
黒い侵食は止まらない。
まるで。
何かが目覚めたように。
そして。
腐食の中心から。
声が聞こえた。
《見つけた》
全員が凍りつく。
その声。
聞き覚えがある。
一年前。
世界の外側で聞いた声。
だが。
違う。
もっと近い。
もっと人間的。
そして。
モニターの黒い闇の中で。
一人の人影が目を開いた。
長い黒髪。
白い装束。
男とも女とも分からない姿。
その人物は。
まっすぐトワを見た。
そして。
微笑む。
「やっと。」
優しい声だった。
「会えたね。」
その瞬間。
ヨルが立ち上がる。
アマツが息を呑む。
ミコの顔から血の気が引く。
レンの瞳が見開かれる。
全員が。
その人物を知っていた。
いや。
知っているはずがないのに。
魂が覚えていた。
天之御影が震える声で呟く。
「創世主……。」
トワは画面の向こうの人物を見る。
なぜだろう。
初めて会ったはずなのに。
胸の奥が。
懐かしさでいっぱいだった。




