第三十七話
会議室が静まり返る。
高天原。
神籍の主。
あまりにも大きすぎる言葉だった。
トワはしばらく黙っていたが。
「……えっと。」
やがて口を開く。
「帰るって、どこに?」
天之御影は少し驚いた顔をした。
そして。
ふっと笑った。
「なるほど。」
「?」
「やはりトワですね。」
アマツが吹き出す。
「言うと思った。」
レンも額を押さえる。
「そこからか。」
トワは不満そうだった。
「だって意味分からないし。」
天之御影は頷く。
「その通りです。」
そして。
神は真剣な顔になる。
「説明しましょう。」
部屋の中央に光が浮かぶ。
立体映像。
世界地図。
その上に。
無数の光点が現れる。
「これが神籍。」
「魂?」
「はい。」
光は脈打っている。
人々の魂。
動物の魂。
まだ生まれていない魂。
全て。
神籍の中に記録されている。
「そして。」
天之御影が指を動かす。
世界地図の上。
さらに巨大な光が現れた。
空を覆うほど大きい。
「これが高天原です。」
トワは息を呑む。
それは場所ではなかった。
世界を包む巨大な樹。
根は地上へ。
枝は星々へ。
無数の魂が実のように輝いている。
「魂樹。」
ミコが呟く。
天之御影は頷く。
「正式には天魂樹。」
「神々が管理する魂の源です。」
トワは思い出す。
前に、
見たことがある。
ヨルと自分が並んでいた。
あの巨大な樹。
「……あれ。」
天之御影が静かに頷いた。
「そうです。」
「あなたは覚えている。」
その時。
レンが口を開く。
「本題を言え。」
部屋の空気が少し変わる。
天之御影の笑顔が消える。
「ええ。」
神は真っ直ぐトワを見る。
「魂樹が枯れ始めています。」
静寂。
「……は?」
トワだけではない。
全員が固まった。
「枯れるって。」
「そのままの意味です。」
映像が変わる。
巨大な樹。
その根元。
黒く染まった部分が見える。
腐食。
少しずつ。
確実に広がっている。
「五百年前から始まりました。」
天之御影の声は重い。
「百年前に加速。」
「十年前に急激悪化。」
レンの顔色が変わる。
十年前。
京都事件。
シグレが消えた日。
「そして。」
神は続ける。
「一年前。」
「世界の外側が観測されたことで。」
「進行速度がさらに増しました。」
トワは拳を握る。
第一部の最終決戦。
あの目。
あの裂け目。
関係している。
「原因は?」
アマツが尋ねる。
天之御影は答えない。
数秒。
沈黙。
そして。
神は静かに言った。
「分かりません。」
全員が絶句した。
「神でも?」
トワが思わず聞く。
「神だからです。」
天之御影は苦笑する。
「我々は管理者。」
「世界を作った存在ではありません。」
その言葉に。
ミコが目を見開く。
「まさか……。」
天之御影は頷いた。
「世界を創った者がいます。」
静寂。
「神より上?」
トワが呟く。
「はい。」
天之御影は答えた。
「創世主。」
「そして。」
蒼い瞳が細くなる。
「その存在が消えたのです。」
部屋の空気が凍った。
神々ですら探している。
世界の創造主。
その失踪。
それこそが。
魂樹が枯れ始めた理由だった。
そして。
天之御影は。
最後の言葉を告げる。
「高天原は決定しました。」
「神崎トワ。」
「あなたに創世主を探していただきます。」
トワはぽかんとした。
「……私が?」
レンがため息をつく。
アマツが笑う。
ヨルはどこか遠くを見ていた。
そしてミコだけが。
小さく呟いた。
「始まった……。」
「本当の物語が。」




