第二十四話
雨はいつの間にか止んでいた。
古い祠の前。
トワは白い髪の少女を見つめていた。
少女は静かだった。
どこか懐かしくて。
どこか寂しそうで。
そして。
今にも消えてしまいそうだった。
「……私が作った魂。」
トワは呟く。
まだ信じられない。
少女は小さく頷いた。
「あなたは覚えてない。」
優しい声。
「でも私たちは覚えてる。」
風が吹く。
祠の鈴が小さく鳴った。
チリン。
その音を聞いた瞬間。
なぜか胸が痛くなる。
少女は空を見上げた。
「昔ね。」
「うん。」
「トワはずっと一人だった。」
トワは黙る。
何となく。
分かる気がした。
幼い頃。
両親は仕事で忙しく。
一人で過ごす時間が多かった。
友達もいた。
でも。
心の奥にはいつも寂しさがあった。
少女は続ける。
「だから願ったの。」
「願った?」
「一緒にいてくれる誰かが欲しいって。」
トワの胸がざわつく。
少女が微笑む。
「その願いが私たち。」
その時。
肩ユラが胸を張る。
『ボク、ヤサシサ!』
箱ユラも負けじと言う。
『ボク、ユウキ!』
トワは目を丸くした。
「優しさと勇気?」
二匹が同時に頷く。
『ウン!』
『ウン!』
少女は少しだけ笑った。
そして。
自分の胸へ手を当てる。
「私は。」
そこで言葉が止まる。
金色の瞳が揺れる。
まるで。
自分でも分からないみたいに。
「私は何なんだろう。」
寂しそうな声だった。
トワの胸が締め付けられる。
名前がない。
役割もない。
ただ最後まで残っていた魂。
少女は俯く。
「だから私は生まれなかった。」
その時。
レンが後ろからやって来た。
珍しく真面目な顔。
少女をじっと見ている。
「違う。」
少女が顔を上げる。
レンはゆっくり言った。
「生まれなかったんじゃない。」
静かな声。
「生まれるのを待ってた。」
少女の瞳が揺れる。
レンは続けた。
「優しさと勇気だけじゃ、
人は前に進めない。」
トワも聞いていた。
レンは少女を見る。
「最後に必要なのは。」
少しだけ笑う。
「希望だ。」
風が吹く。
祠の鈴がまた鳴る。
チリン。
その瞬間。
少女の身体から、
淡い光が溢れ始めた。
金色。
暖かい光。
少女が目を見開く。
「希望……。」
トワは自然と手を伸ばしていた。
少女の手を握る。
暖かかった。
「じゃあ。」
トワは微笑む。
「名前、決めよう。」
少女の瞳が大きくなる。
「名前……。」
「うん。」
ユラたちも飛び回る。
『ナマエ!』
『ナマエ!』
少女は少し考える。
そして。
恥ずかしそうに笑った。
その笑顔を見た瞬間。
トワの胸に、
一つの名前が浮かんだ。
「ヒカリ。」
少女が息を呑む。
「ヒカリ?」
「うん。」
トワは頷く。
「だって、
希望って光みたいだから。」
しばらく沈黙。
そして。
少女は初めて、
本当に嬉しそうに笑った。
「……ありがとう。」
その瞬間。
金色の光が夜空へ舞い上がる。
まるで。
一つの魂が、
ようやく誕生したみたいに。
だが。
その様子を。
遠くから見ている者がいた。
黒い傘。
黒い外套。
人影は静かに笑う。
「三つ揃ったか。」
低い声。
闇の中で、
赤い瞳が開く。
その胸元には。
空蝕の紋章が刻まれていた。
「ならば次は、
こちらの番だ。」




