13.お嬢様とお姉様
楽しげな笑い声と共に、ご近所の奥様が姿を現す。
続いて見送りに出てきたのは、お嬢様とそのお姉様、シャーリー様だ。
お嬢様はご主人様と同じ金髪だが、お姉様は彼女達の母であるテレノ様譲りの茶髪だ。
中身はともかく見た目は天使!のお嬢様に対し、お姉様は午後の紅茶のようにほっとする容姿で好ましい。
別れの挨拶を交わし、また来てね、と愛想を振りまくお嬢様。その頭上の軒先で、囀る二羽の小鳥が飛び立った。
元気よく振られる小さな手が、ほんの僅かにその動きを鈍らせる。
「あ、おばさま?」
「なんだい?」
「あのね、このあと雨が降るかもしれないから、早めにお洗濯物を取り込んだ方が良いかも」
「おや、そうなのかい。こんなにいい天気なのにねぇ」
「えっとね、なんかジメジメする気がするの。……気のせいかもしれないけど」
自信がなさそうに身を縮ませ、御婦人を窺うお嬢様。
流石だ。己の見せ方をよく分かっている。
案の定、ご近所の奥様は目元を緩ませ、
「いいや、ディアナちゃんの天気はよく当たるからねぇ。気をつけとくよ」
憂いを払うように、その小さな頭を優しく撫でた。
途端にぱぁっと笑みを浮かべる天使に、御婦人の頬がさらに緩む。
ものすごい演技力だ。
生まれてこのかた、被るべき猫を育ててきただけはある。
無邪気な様子で遠退く背中に手を振る姿。それを感心を以て眺めていると、ふと、隣に並ぶシャーリー様が顔を曇らせた。
「ディアナ、あんまり誤解されるようなことは」
「誤解?」
言い難そうに切り出す姉に、お嬢様はコテンと首を傾けた。
「その……あまり他人には分からないようなことを言っていると、魔女だと言われるかもしれないのよ」
「わたし魔法なんて使えないよ?」
「分かってるわ。でもそう思わない人もいるかもしれない。そうなれば――」
「大丈夫だよ! 私達のことは、女神さまが見守ってくださってるもん! 今日だってお祈りに行ってきたでしょ?」
「……そう、だけど」
この世界の宗教は二柱の兄妹神、太陽を司る兄神エオス様と、月を司る妹神リューナ様を信仰するのが主流である。
お嬢様は転生の際に、その妹神様の加護を受けたらしい。故に大丈夫だと言うのだが、事情を知らない者からすると子供の純粋な信仰にしか思えなかった。
祈り、願えば聞き届けられるだろうと信じる幼い妹。その笑みを前に酷な話も続けられず、シャーリー様は迷いながらも口を閉ざした。
本当は、知らないふりをするべきなんだろう。
お嬢様――『千夜』もきっと分かっている。そうすれば、不審がられることはないのだと。
けれど相手が困ると知って言わずにはいられないのは、お嬢様の甘さだ。小鳥が嫌った雨の気配を、気の所為かもと言いつつも、伝えずには居られなかった。
ふと顔を上げ、鳥たちの去った空を見上げる。
出来るなら、私達とも親しくし過ぎない方が良い。理由は幾つかあるけれど、慣れすぎてうっかり人前で会話してしまうのが一番不味い。幼ければ夢見がちで収まることが、年を取るにつれ異常なこととして認識される。
……でも、そうすれば。
お嬢様はどこで『自分』を曝け出せばいいんだろう。
猫を被り、演じながら身を守り、それでも誰かを見捨てない。そんな優しい彼女が自分らしくあれる場所。加護を受けたお嬢様が、孤独に病まずにいられるところ。
それが、お母様の傍以外にもあって欲しい。
同じ目線でものを見て、同じ速度で老いていき。本当の彼女を理解して、そうかと笑ってくれる『人』。
どうすれば、そんな誰かと巡り合う事が出来るのか――。
思考に沈みかけた時、ご主人様の足音が耳に届いた。
お読み頂きありがとうございます!
今日は犬の日❀
我が家のわんこ女子(その2)をよろしくお願い致しますっ




