俺とお前と心の叫び
これから暫く二日ごとの投稿になります。
読んでくださる皆様に申し訳ありませんが、どうぞご理解頂けますようお願いいたします。
これからも宜しくお願い致します。
俺達は今、部屋の中でちゃぶ台越しに向かい合っている。
目の前にいるのは向こうでの部下で腹心のリゼルでありこちらでは、リゼル・草薙で暮らしているそうだ。
「魔王様、ではどうしても駄目だと言うのですか」
「そうだ」
俺達は今、とても重大な事を話し合っていた。
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時は一時間前に遡る。
御子柴青果店に来ていた俺はここで、寅二さんといたリゼルに出会った。
「ま、魔王様」
リゼルは涙眼になりながら俺の所にかけよってくる。
昔から世話焼きだったがちょっと大袈裟じゃないと心の中で俺は思っていた。
「よぉ、元気だったか?」
「魔王様も御壮健でなによりです」
この真面目さ。
リゼルは全く変わっていなかった。
ここではそう思っていた。
まさかあんなになるとは。
「なんでぇ、海斗の友達だったか。じゃあ探してたってぇのは海斗の事だったのか。まぁ、見つかって良かったじゃあねぇか」
寅二さんはそういいながら背中越しに手を振り俺達から離れていく。
俺達はアパート近くの喫茶店に来ている。
ここのおすすめは、ハニートーストだ。
あのバターの香りにあま~い蜂蜜。
トースト自体にも自家製ブレンドの特製ミルクが染み込んで、そのトーストを軽く焼く事で仄かな甘さと香りが更に増し外はパリッ、中はフワッとしてえもいわれぬ幸福感に包まれるのだ。
そのハニートーストが俺達のテーブルにきた。
そう、リゼルの元へと。
俺の前にはおかわり自由の水がある。
それだけだった。
「魔王様はよろしいのですか?本当に私だけで」
「あぁ、それと『様』はやめとけ。外では間皇でいい」
「はい、分かりました。間皇様」
「だから様はやめとけ」
こいつはきっとやめる気がないんだと確信し無駄な時間になりそうだったので、こちらが諦める事にした。
しかしあのハニートーストは旨そうだ。
一瞬奪っちまうかと腹黒いことを考えながら俺は水をあおるのだった。
リゼルはハニートーストを食べながら、俺は水を飲みながら今まででの状況を話す。
それで分かったことはリゼルは今、漫画家をしている。
女性向けの作品を書いているらしい。
相当な人気で毎日が忙しいとのこと。
生活資金は潤沢で俺なんかとは比較にならないくらいの暮らしぶりらしい。
羨ましい限りだな。
しかしハニートーストは旨そうだ。
しつこい、だったら食えって。
金があるなら食っている。
金が無い理由はさっきの店にある。
バナナが安かったのだ。
リゼルは、俺がこの近くに住んでいると知ると是非訪問したいといいだし、俺達はアパートへと向かうのだった。
まさかこの判断があんな悲劇を生むとは誰にも予想出来なかったであろう。
俺達はアパートの前にいる。
リゼルはキョロキョロとまるで一つ一つチェックするように辺りを見回していた。
まるで彼女が彼氏の部屋で他の女の形跡を探すが如く、復讐を誓う嫁が姑の粗を探すが如く。
リゼルからはそのような気配がピリピリと放たれていた。
階段を登り部屋へと向かっていると204号室の扉が開き女が透け透けのネグリジェのままエントランスに現れる。
「あ~、マ~くん。おはにょう」
欠伸をしながら手を振り挨拶してくる。
この人は204号室の皆川 あけみ。
仕事柄いつも昼間は寝ている筈が、今日に限って何故か顔を会わす事になる。
仕事内容は秘密だそうで以前ポロリと溢した言葉が究極の接客業とのことだった。
なにをしに来たのかあけみさんは挨拶終えるとまた、部屋へと入っていく。
俺は横目でリゼルの顔色をうかがうと真っ直ぐ204号室をまるで凍てつくような目で見ていた。
リゼルの肩が小刻みに震え、手は拳を握っているその姿を見てない振りをし、俺は小さなため息をつくのだった。
部屋で俺はリゼルにひとつの案件を持ちかけられていた。
「魔王様、ではどうしても駄目だと言うのですか」
「そうだ」
「何故です。魔王様をこの様な所に住まわせ続けるなど出来よう筈がありません。今一度、今一度ご検討下さい」
「だから、俺にも仕事があるしギガやエリーダに会うのにも都合がいいんだよ、ここは」
何度も話し合うが平行線をたどり些かイライラを覚えていた。
俺は落ち着く為にお茶を入れようと立ち上がると、来客を報せるチャイムの音が部屋の中に響き渡る。
リゼルと少し距離を置くにはいいタイミングであり、此れ幸と思い玄関へと早足で向かうのだった。
『はい、はい』と言いながら扉を開けるとそこには、絵理が後ろ手を組み立っていた。
俺はその時こう思った。
『新たな爆弾投下』だと。
何だろうこの重い空気、ここ俺の部屋ですか?
まるで自分の部屋へ行こうと思ったら、妹が彼氏とイチャイチャしているのを見てしまいあまつさえ、『お兄ちゃん、ちょっと彼の相手してあげて』と言われ、妹の部屋で彼氏と二人きりにさせらるという気まずさを、二百倍に濃縮したような異様な空気が立ち込めている。
「魔王様。では、この者がかの魔召であると」
「そう、魔召のエリーダだ」
既にギガの事と合わせて説明してあったのだが、いざ目の前にするとやはり疑わずにはいられないらしい。
そりゃ、皺クチャババアが金髪美女になりゃ、疑うなという方がおかしいよな。
「で、こっちがあんたの部下の魔人リゼルって訳。ふ~ん、こいつがね」
エリーダいや、絵理も何故か機嫌が悪そうだ。
二人は目線をバチバチと交差させ、リゼルが口を開いた。
「エリーダ、魔王様が世話になったとおっしゃっていた。私からも礼を言う」
「ふ~ん、そう。まぁ、こいつの世話は大変だったけどね。あと、絵理だから」
左手の中指のネイルをいじりながら会話に興味なさそうに絵理は返事をする。
その態度がやはり気に入らないであろうリゼルは絵理に冷たい目線を向け、今度は俺に問いかけてくる。
「魔王様。先程の話しですが、何故ここでなくてはならないのですか?」
俺は叉かと思いため息をつき、再度説得する。
絵理も少しは興味あるのか、目線だけをチラリとこちらに滑らせまた、ネイルをいじりだす。
「だから、俺が抜けると仕事場も大変だし、色々な人に世話になったんだよ。だから悪いがお前と一緒には暮らせない」
リゼルは少し肩を落としショックを受けているようだが決して、納得はしてなさそうだった。
俺の話しを聞き、絵理も興味がでたのか話しに参加してきた。
「何、あんたら一緒に住もうとしてんの?」
リゼルは絵理の返しがやはり気にくわないのか突き放すように返答するのだった。
「貴様には関係無いことだ。口を出さないでいてもらおう」
ここまで言われて黙っていられる絵理ではなかった。
「うざっ、そいつだって自分の生活があんのよ。いちいちあんたに干渉されたくないんじゃないの」
絵理はやはりネイルをいじりながら口先だけで参加してくる。
リゼルはとうとう我慢の限界を越えたのか、ちゃぶ台をバンッと両手で叩き立ち上がる。
「貴様に意見される筋合いは無い。魔王様の事は私が最も理解している。その私が魔王様の面倒を見るのが一番良いに決まっているのだ。貴様の出る幕など最初から無い。関係無い者は引っ込んでおれ」
感情を爆発させ何の根拠も無い言葉をただただ絵理にぶつけている。
『はぁ、これじゃ子供の喧嘩だな』
ため息をつきつつ手をパンパンと叩き落ち着かせようとするが既に遅かった。
爆弾である絵理の起爆剤にも火がついたのだ。
「いちいちうるさい奴だね。関係、関係があればいいんでしょう」
絵理はそう言って徐に立ち上がり俺の横に座ると、俺の腕を取り自分の腕に絡ませ更に、俺の肩に頭をそっと乗せて満面の笑顔でリゼルにいい放った。
「私達いい関係なの。分かるでしょう」
あまりのことに俺もリゼルも固まってしまった。
絵理だけがニコニコとしそこには異様な空気が流れていた。
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ここは202号室。
一人の太った男が壁に耳を付け聞き耳をたてている。
「ぐひゃひゃ、愉しくなってきた。はぁはぁはぁはぁ」
男は白いヨレヨレのTシャツにトランクス一枚の出で立ちで壁に耳を付けるという奇行に走っていた。
他人が見たら即、通報されるであろう程の異様な姿だった。
男の名前は大森 太一。
ネット内での商品の売買や何処からか送られてくる物をネットにアップして販売することで生計を立てていた。
よって安定した収入はなかった。
隣では何やら三角関係の縺れなのか既に言い合いが始まっている。
他人の情事の縺れ程愉しいものはなかった。
言い合いはどんどんエスカレートしていき、太一のボルテージもMAXに差し掛かろうとしていたその時、バーンという音と共に扉が開かれた。
倒れた扉の上には般若の顔をした大家さんが立っていた。
「くぉぉりゃぁぁ。待ってやった家賃さっさと払ぇぇぇ」
大家さんは太一に飛び掛かり、胸ぐら掴んで引き摺りまわす。
金ぇぇ、金ぇぇ、といいながら。
こちらにもどうやら爆弾が、核が投下されたようだった。
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隣の部屋からは泣き叫ぶ声や暴れまわる音が聞こえてくる。
さっきまで言い合っていた二人も流石に、口を閉ざし静かになっていた。
「あんた、凄い所に住んでるわね」
絵理は呆れつつ最もな意見を口にするのだった。
「はっ、そうだ。貴様、魔王様の関係とはどういう事だ。事と次第によっては……」
リゼルの殺気を全身に受けながら絵理は組んでいる俺の腕を更に自分の胸に押し付ける様にして、突き放すような言葉を放った。
「うん。海斗とは私の部屋でお泊まりデートとかしてたから。きゃっ、言っちゃった」
絵理はわざとらしいくらいに頬を染め俺の顔を見上げながら、今日一番の爆弾をリゼルに投げつけた。
リゼルを見ると停止していた。
ただの屍のようだ。
絵理はいまだに俺にくっつきネイルを見せびらかしてくる。
きっとこれもリゼルに対しての攻撃なのだろう。
どのくらい経ったか、ゆっくりとリゼルは立ち上がり、覚束ない足取りでふらふらと後ろに下がり、突然ペタンと内股をあわせ女の子座りをすると、天に大きく痙攣する腕を差し出し、そのまま背中から床に倒れていくのだった。
「Nooooooo!!!」
リゼルの心の叫びが町中にこだまする。
皆さん大変です。
うちの腹心が壊れました。
っていうかこれ、なんの儀式?
それからというものリゼルは壊れたままで、携帯に仕事関係の人から連絡があり、代わりにでる事で今の状況を伝え、迎えに来てもらうことでリゼルは自分の家へと帰って行った。
リゼルを壊したことで満足したのか絵理も帰って行った。
去り際にまた来るからと笑顔で言って。
今日も疲れる一日だった。
俺は明日にこそ平和で暮らしたいと心の中で呟き、今日を終えていくのだった。




