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【Aルート完結】バドミントン ~2人の神童~【Bルート連載中】  作者: ルーファス
Bルート第1章:新生・稲北高校バドミントン部編
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第104話-B:例え相手が『天才』だろうと

 楓VS静香の3位決定戦、開始です。

 名古屋金鯱もこもこスタジアム。

 今月完成したばかりの新築ピカピカの体育館であり、来年3月に開幕する日本初のバドミントンのプロリーグ・JBLに加入しているプロチームの、名古屋ゴールデンドルフィンズの本拠地となる予定の体育館だ。

 名鉄神宮前駅とJR熱田駅のすぐ近くという立地条件の良さもあり、名古屋からの交通の便も良好だ。

 収容可能人数は2万人で、バドミントン以外にも様々なスポーツやイベントなどで使用される予定であり、12月には愛知県の高校のバスケットボールの、ウインターカップの県予選決勝で使われる事が決まっている。

 事前申請すれば一般の利用者も有料で借りる事が可能であり、既に数多くの団体から利用の申し込みが殺到しているという状況だ。


 そのプレオープンマッチとして、今回の中止になっていた楓VS静香の3位決定戦が、急遽開催される事が決まったのだ。


 バンテリンドームナゴヤにおいて、関係者たちの身勝手なエゴのせいで3位決定戦を台無しにしてしまい、観客たちを消化不良にさせてしまった事に対しての、お詫びの意味合いを込めた試合だというのも勿論ある。

 その為にJABS名古屋支部の新支部長は、チケットの半券所有者の約15000人は入場無料、持っていなくても5000枚用意した当日券をたったの1000円で販売するという、太っ腹な決断をしたのだから。


 だが何よりも今日の試合は、周囲の大人たちの身勝手なエゴのせいで、一生の思い出に残る大切な試合を台無しにされてしまった楓と静香に対し、最高の思い出作りをさせる事が最大の目的なのだ。


 この試合に勝ったからと言って、今更楓と静香が愛知県代表としてインターハイに出られるという訳では無い。

 それでも今日の試合は正式な公式試合として扱われているので、公式記録にも残るし勝者には銅メダルが与えられるのだ。

 隼人たちがバスで体育館まで到着すると、平日の14時開始、しかも昨日の昼に急に決まったばかりの試合だというのに、既に体育館の入り口には客による長蛇の列でごった返していた。

 やはり夏休みの期間中の学生たちが多いようだが、意外にも大人の社会人の客…特に女性の客も相当数いるようだ。


 今日は18時から名古屋金鯱もこもこスタジアムにおいて、人気男性アイドルグループのコンサートが開催される事が決まっている。


 元々それを目的に有給を取ったので、そのついでに折角だからという理由で、今日の試合を観戦に来たという人も多いのだろうか。

 しかもバンテリンドームナゴヤでの県予選の半券を持っていれば、それをそのまま入場券として利用出来ると大々的に通知されているので、尚更だろう。

 チケットを持っていなくても当日券をたったの1000円で購入出来るので、それもこれだけの長蛇の列が出来た理由の1つなのかもしれない。


 『皆様、本日はご来場下さいまして、誠に有難うございます。本日の試合は、名古屋金鯱もこもこスタジアムのプレオープンマッチ、稲北高校1年・里崎楓選手 VS 稲北高校1年・朝比奈静香選手による、インターハイ愛知県予選バドミントンの部の3位決定戦でございます。』


 開場時間の13時を過ぎて客席が次々と埋まっていく最中、真新しいスタジアム内にウグイス嬢の凛とした声が響き渡った。


 『なお本日の試合の審判は、JBL審判部所属の中山裕子が努めさせて頂きます。皆様、試合開始まで今しばらくの間、お待ち下さいませ。』


 ウグイス嬢に案内された20代の女性審判が、客に対して爽やかな笑顔で深々と一礼する。


 「スタジアムにご来場の皆様、そしてズコズコ動画のライブ配信を視聴して下さっている皆様。諸事情により中止になっていた3位決定戦が、今まさに始まろうとしております。」


 その直後にコートのすぐ近くに設置された実況席から、40代男性の実況アナウンサーの軽快な声が、スタジアム全土に高々と響き渡ったのだった。


 「実況は私、CCCテレビの佐々木恵一が。解説はバドミントンの元日本代表の桃山賢太さんに急遽来て頂きました。桃山さん、本日はお忙しい所を御足労下さり、本当に有難うございます。」

 「いえいえ、こちらこそお呼び頂いて光栄です。今日はよろしくお願いします。」


 解説席に座っているのは第68話において、幼少時の静香がバドミントンを始めるきっかけとなった、元日本代表の桃山賢太だ。

 両耳にマイク付きのヘッドホンを身に着け、もうすぐ始まる試合に備えてコート上で準備運動を行っている静香と楓を、とても穏やかな笑顔で見つめている。

 

 「さて朝比奈選手と言えば、幼少時の彼女と桃山さんが運命的な出会いを果たし、強い衝撃を受けた選手だとの事ですが…。」

 「朝比奈君との出会いは10年以上も前の話ですが、僕は今も鮮明に覚えていますよ。デパートでのバドミントン無料体験会の時に彼女が放ったスマッシュに、僕は強く心を動かされました。この子はいずれ必ず、世界を震撼させる程のバドミントンプレイヤーになれるとね。」

 「ええ、そしてその桃山さんのご期待通り、朝比奈選手は『天才』と呼ばれる程の凄腕プレイヤーへと成長を遂げました。」

 「そうですね。あの時の僕の見立ては間違ってはいませんでした。こうして立派に成長してくれた彼女の姿を実際に目にすると、僕も感慨深い物がありますよ。」


 あの日、自分が目をかけた幼い少女が10年近い時を経て、今や世界中から注目を集めている程の凄腕のバドミントンプレイヤーとして、立派な成長を見せてくれたのだ。

 賢太にとって、これ程嬉しい事は無いだろう。

 

 「一方で対戦相手の里崎楓選手ですが、中学までは無名ながらも、稲北高校において一気にその実力を開花させました。」

 「須藤美奈子さんという最高の指導者に巡り会えた事が、彼女にとっての転換期となったのでしょうね。これはあくまでも僕の持論なのですが、例えどれだけ素晴らしい才能を持つ選手だろうと、その選手が立派に成長するかどうかは、8割は指導者の責任にあると僕は考えています。」

 

 平野中学校にいた頃までろくな指導者に恵まれなかった楓は、稲北高校で美奈子という最強の指導者と運命的な出会いを果たす事が出来た。

 だからこそ楓はその素晴らしい実力と才能を、そしてクレセントドライブという素晴らしい武器を、ここまで存分に磨き上げる事が出来たのだ。

 それこそ中学時代は全く歯が立たなかった隼人を、県予選大会準決勝において、あそこまで苦戦させる程までに。


 逆に言うと、もし楓が美奈子に出会う事が出来なければ、楓はその素晴らしい才能を開花させる事が出来ずに、無名の選手のままで終わっていたかもしれないのだ。

 先程、賢太が言っていた、


 『選手が立派に成長するかどうかは、8割は指導者の責任』


 という言葉は、あながち間違っているとは言えないのである。

 楓は美奈子と出会うまでは独学で腕を磨いていたのだが、どれだけ天賦の才能を秘めていようが、独学だけではどうしても限界があるのだ。

 独学だけだと仮にその選手が誤った知識や技術を身に着けてしまった場合、それを正してくれる人が周囲に誰も居ない事を意味するのだから。


 そしてそれを言うなら、静香だって同じ事だ。


 沙也加という最高の恩師と巡り会う事が出来なければ、桜花中学校時代に周囲の大人たちの身勝手なエゴに振り回され絶望した静香は、今頃はバドミントンを辞めていたかもしれないのだ。

 それこそ最悪の場合は静香が道を踏み外し、不良にでもなっていた可能性さえもあるのだから。

 そういう意味では楓と静香は、似た者同士だと言えるのかもしれない。


 試合開始まで残り5分と迫る最中、それぞれのベンチで美奈子と六花が、準備運動を終えてベンチに戻ってきた楓と静香に、穏やかな笑顔でアドバイスを送る。

 今日の試合は美奈子が楓の、六花が静香のコーチ兼任マネージャーとして、2人のサポートに回る事になっているのだ。

 そして電光掲示板の時計が14時を示した、次の瞬間。


 『大変長らくお待たせ致しました。里崎楓選手 VS 朝比奈静香選手による3位決定戦、間もなく試合開始で御座います。』


 ウグイス嬢の宣言と同時に、客席から大歓声が沸き起こった。

 そして電光掲示板に楓と静香の名前と共に『0−0』という表記がでかでかと掲示され、同時に今日の試合の現時点での入場者数が12000人だという事も表示された。

 昨日の昼に急に決まった、しかも平日の真っ昼間から行われる試合だというのに、それだけの人々が今日の試合を観戦に来てくれたのだ。

 それを思うと楓も静香も、何だか感慨めいた物を感じてしまう。


 だからこそ、これだけの大勢の観客が足を運んでくれた中で、無様な試合だけは見せられないと。

 楓も静香も、改めてその決意をあらわにしていたのだった。


 「お互いに、礼!!」

 「「よろしくお願いします。」」


 高台に上がった審判に促されて互いに穏やかな笑顔で、がっしりと握手を交わす楓と静香。

 そんな2人に観客たちが心からの笑顔で、惜しみない拍手と声援を浴びせる。

 身勝手な大人たちのエゴのせいで台無しにされてしまった、楓と静香による3位決定戦が、今ようやく試合開始となったのだ。


 「朝比奈さん。手加減なんかしたら許さないからね?」

 「そんな余裕なんか全然ありませんよ。里崎さん。」


 楓の言葉に、思わず苦笑いしてしまった静香。

 そう、楓は強い。いかに静香といえども手加減する余裕など微塵も無い。全身全霊の力で挑まなければならない強敵だ。

 それは静香が県予選準決勝での隼人との試合を観戦した時から、その身をもって思い知らされた事だ。

 何しろあの『神童』隼人をして、『少しでも油断すれば食われる』と言わしめた楓だ。

 そしてその隼人の言葉通り、楓は敗れたとはいえ隼人をあそこまで苦戦させたのだ。


 だからこそ静香も全身全霊の力で挑まなければ…とは言っても身体への負担を理由に、美奈子から朱雀天翔破の使用だけは固く禁じられているのだが…とにかく楓に勝つ事など出来やしないだろう。

 審判からシャトルを受け取った楓を、決意に満ちた表情で見つめる静香。


 「スリーセットマッチ、ファーストゲーム、ラブオール!!稲北高校1年、里崎楓、ツーサーブ!!」

 「さあ、油断せずに行くわよ!!」


 高々とコールした審判に力強く頷いた楓が、静香に向かって強烈なサーブを放った。

 それを打ち返す静香。さらに打ち返す楓。

 世界最速の競技とされているバドミントン。そのプロレベルの域に達していると評価されている楓と静香による、常人には決して捉え切れない超高速のラリーに、観客たちは大いに熱狂する。

 

 「はぁっ!!」


 そんな中で静香のラケットから放たれた、一筋の『閃光』。

 静香の渾身の維綱が、楓の足元に向かって物凄い勢いで襲い掛かったのだが。


 「させるかぁっ!!」

 

 それを楓は決意に満ちた表情で、あっさりと返してしまったのだった。

 地区予選でも県予選でも数多の対戦相手を情け容赦なく沈めてきた静香の維綱を、楓はこうもあっさりと攻略してみせたのだ。

 やはり隼人を苦戦させた楓の実力は、紛れもなく本物だ。

 その楓の奮闘ぶりに、観客たちは大いに熱狂する。

 それでも静香は取り乱す事無く、楓のコートに向けてシャトルを打ち返したのだが。


 「行くわよ朝比奈さん!!」

 「クレセントドライブが来る!!」


 高々と飛翔した楓のラケットから、渾身のクレセントドライブが放たれた。

 それを迎撃しようと、静香が天照の構えを見せたのだが。


 「くっ…!!」


 野球で言う所のシュートのような、楓の強烈な切れ味のクレセントドライブが、静香の胸元を情け容赦なくえぐったのだった。


 「1-0!!」


 先制点を奪ったのは楓。まさに電光石火の如き一撃に観客たちは大いに盛り上がる。


 「里崎選手が先制点を奪いましたが、今のプレーを桃山さんはどう御覧になりましたか?」

 「今の里崎君のドライブは、恐らく朝比奈君の天照対策の一環でしょうね。反則スレスレなので正直褒められたプレーでは無いのですが…。」

 「ほう、と言いますと?」

 「朝比奈君の天照は…。」


 実況アナウンサーからの問いかけに、冷静沈着な態度で応える賢太。

 相手のスマッシュに対しての、強力なカウンター技である天照。

 だが今のように情け容赦なく胸元を抉られてしまうと、流石の静香も返す時に姿勢が窮屈になってしまうので、天照の構えを解かざるを得なくなってしまうのだ。

 はっきり言って今の楓のプレーは賢太の言うように反則スレスレであり、下手にコントロールをミスって静香の胸元にシャトルをぶつけよう物なら、インターフェアの反則を取られてレッドカードを提示され、ペナルティとして静香に1点を与える事にもなりかねない。

 それどころか何度も繰り返してしまうと危険なプレー、あるいは故意で静香にぶつけたと審判に判断され、ブラックカードを提示されて一発退場という事にもなりかねないのだ。


 それでも楓は何の迷いもなく、クレセントドライブで静香の胸元を抉ったのである。

 自分の代名詞であるクレセントドライブに対する絶対的な自信を、そして今のプレーを可能にするだけの技術と強心臓を、楓は持っているのだから。


 そして今の楓のワンプレーは、静香に対して強烈な二択を迫る事にもなるのだ。

 こうしてクレセントドライブで胸元を抉り、天照を封じるという選択肢を、静香に意識させる事に成功したのだから。

 天照は確かに厄介だが、ならば天照を使わせなければいい。

 その楓の意図を賢太は今のワンプレーだけで、即座に見抜いてしまったのである。


 「胸を借りるつもりとか弱気な事は言わないわよ!!例え相手が『天才』だろうと!!」

 

 さらに楓が静香に対して畳み掛ける。

 今度は野球で言う所のスクリューのような、きりもみ回転しながら静香の手元で高速落下するクレセントドライブが、静香の天照を空振り三振させた。


 「4-0!!」


 静香を圧倒する楓の猛攻に、観客たちは大いに熱狂する。

 やはり最初の楓の一撃が効いているのだろう。胸元を抉るクレセントドライブを警戒するあまり、今の静香のプレーに迷いのような物が感じられた。

 胸元を抉るクレセントドライブを迎撃するには、天照の構えを解かなければならない。

 それを無理矢理意識させられるだけで、ここまで天照のキレが落ちてしまう物なのか。


 「分かっていましたよ、里崎さん。貴女がこれ位やってのけてくる事は…。あの須藤君との試合を観た、あの時からずっと…!!」


 それでも静香は取り乱さない。サーブの構えを見せる楓の姿を、全く冷静さを失わずに真っ直ぐに見据えていた。

 いつもの変則モーションの構えを見せながら、ベンチに座る六花の姿を横目でチラリと見る静香。

 相変わらず穏やかな笑顔で、六花は静香を見つめている。

 まるで娘の晴れ舞台を、優しく見守る母親のように。

 その六花がコーチ兼任マネージャーとして傍にいてくれるだけで、今の静香にはとても心強く感じられた。


 「ですが私は、そう簡単に負けるつもりはありませんよ!!里崎さん!!」


 またしても胸元を情け容赦なく抉る、強烈なシュート回転が掛かったクレセントドライブが静香に迫る。

 だがそれを静香は、今度はいとも簡単に返してしまったのだった。

 一歩下がってシャトルとの間に充分なスペースを作り、余裕を持ってクレセントドライブを迎撃する。


 「4−1!!」

 「ば、馬鹿な…!!」


 まるで楓が胸元を抉るクレセントドライブを繰り出してくるという事が、最初から分かっていたかのような静香のプレーだった。

 事実、楓がスマッシュを打つ前から、既に静香は動いていたのだから。


 「6−4!!」


 その後も静香の猛攻は続く。

 粘る楓を嘲笑うかのように、次々と点差を縮めていき…。


 「8−9!!」


 とうとう逆転してみせた静香が、派手なガッツポーズを見せたのだった。

 そんな静香に対して、観客席から大歓声が届けられる。


 「朝比奈選手にギアが掛かってきましたね。里崎選手を相手に見事な逆転劇です。」

 「どうやら朝比奈君は、里崎君がクレセントドライブを打つ際の癖を見抜いたようですね。」

 「く、癖ですか!?」

 「ええ、プレーに全く迷いが見られなくなりましたから。」


 驚きを隠せない解説の男性とは対称的に、賢太は論理的に分かりやすく、静香の一連のプレーを丁寧に解説したのだった。

 序盤の静香は楓のクレセントドライブに翻弄され、天照を実質封じられてしまっていた。

 それでも静香は持ち味の冷静さと分析能力を存分に発揮し、楓がクレセントドライブを打つ際の僅かなフォームのズレを、プレー中に見事に見抜いてみせたのだ。

 そう、県予選準決勝で、隼人がやってみせたのと同じように。

 それを賢太から解説され、観客席から一斉にどよめきの声が響き渡ったのだが。


 「なっ…!?シャトルが消えた!?」

 「11−15!!」


 それでも楓のフォークのようなクレセントドライブの前に、静香の天照が空振り三振してしまう。

 そう、隼人との試合の時と同じだ。

 静香に癖を見抜かれていようが何されようが、楓は強引に静香を力でねじ伏せてしまう。

 静香はフォークのようなクレセントドライブが来ると分かっていながら、あまりの技のキレにシャトルが消えたと誤認してしまい、返す事が出来なかったのだ。


 「癖を見破られても、お構いなしですか…!!」

 「私は負けないわよ朝比奈さん!!私みたいな『凡人』でも、貴女のような『天才』に勝てるんだっていう事を、私は貴女に勝って証明してみせる!!」


 互いに真剣な、それでも楽しそうな笑顔で、全身全霊の力でぶつかり合う楓と静香。

 そう、六花がいつも言っているように、バドミントンは楽しく真剣に。

 まさに県予選の3位決定戦に相応しい好勝負に、観客席から大声援が届けられる。

 そして。


 「ゲーム、稲北高校1年、朝比奈静香!!16-21!!チェンジコート!!」

 「よおしっ!!」


 死闘の末に楓からファーストゲームを奪った静香が、会心の笑顔でガッツポーズを見せたのだった。

 そんな静香の勇姿をユニフォームの袖で汗を拭いながら、真っ直ぐに見据える楓。

 やはり静香は強い。分かってはいた事だが簡単に勝たせてくれるような相手ではない。

 だからといって楓は静香に対して、簡単に勝利をくれてやるつもりは微塵も無かった。

 これは準決勝ではなく3位決定戦だ。楓が今更この試合に勝利したとしても、隼人や彩花の代わりにインターハイに出られると言う訳では無い。


 だがそれでも今の楓は、真剣にプロを目指しているのだ。


 『天才』と呼ばれている静香に勝つ事が出来れば、JBLも含めた各国のプロチームのスカウトたちに対して、これ以上無いという程の猛アピールになるだろう。

 その為にも、この試合で必ず静香に勝つ。

 楓は改めて、その決意を胸に秘めたのだった。


 『お待たせ致しました。只今よりセカンドゲームを開始します。』


 2分間のインターバルを終え、ウグイス嬢のアナウンスに促されて互いにコート上に戻ってきた楓と静香。

 そして審判からシャトルを受け取った静香が、サーブの構えを見せながら真っすぐに楓を見据える。

 これ程の素晴らしい選手との3位決定戦の機会を与えてくれた、JABS名古屋支部の新支部長に心の底から感謝の気持ちを抱きながら。


 「セカンドゲーム、ラブオール!!稲北高校1年、朝比奈静香、ツーサーブ!!」

 「さあ、油断せずに行きますよ!!」


 決意に満ちた表情で、静香は楓に向けて渾身のサーブを放ったのだった。

 次回、楓VS静香、決着です。

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