12. 幽霊ホテル
まだ暗い明け方、ホテルの1室で目が覚めた。
それは1階でありながら、入り口と逆側の壁は大きな一枚板のガラス張りで、部屋の中は通りから丸見えだった。
ガラスの向こうにこのホテルの正面玄関が見える。
とても大きく、きれいなホテルのようだ。
ホテルの一室からそのホテルの正面玄関が見えるということは、ホテルはコの字を描いているのだろう。
ただ、正面玄関に面しているということは、人通りも多い。
さらに窓にはカーテンがなく、私が就寝している様子は何人かに見られていたかもしれない、と思い、こんな部屋があるのかといぶかしんだ。
◇
私がトイレから戻ると、部屋に仲居さんがいて、片づけている。
「ここは幽霊が出る部屋なのに、間違ってお客様を通してしまいました。別の部屋にご案内します」
という。特に怒りはなかったが、そんなこともあるんだ、と驚き、私は布団を片づけようとめくった。
そこに女がいた。
仲居さんを見返すと
「それが幽霊です」
という。
幽霊らしい女は私に興味があるらしく、明るく話しかけてくる。
私はできるだけその女に嫌われるように会話に乗った。
気に入られたらついてこられそうだと思ったからだ。
それはある程度成功したようだが、女の顔はだんだんと狂気の様相を呈した。
しかし、好かれている相手に嫌われるというのはなかなか難しい。
もしかしたらついてくるかもな、と思った。
そして、目が覚めた。