if、もし、リーナの想いに応えていたら
時は遡り、王都に向かう直前。朝の事・・・。
僕はリーナを起こしに、彼女の部屋に向かっていた。それが、最近の日課になりつつあった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕は思う。僕は果たして、リーナをどう思っているのか?僕はリーナとどうなりたいのか?
最近、リーナは僕にかなりぐいぐいと迫ってくる。それも、色々とアプローチをかけてきて。果たして僕は彼女とどんな関係を望んでいるのか?どうなりたいのか?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・解らない。僕には全く解らない。僕は一体、リーナとどんな関係になりたいのか?それともどんな関係も望んでいないのか?僕には解らなかった。
あるいは、只頑なに解りたくないだけか。それすらも解らない。
そうこうしている内に、僕はリーナの部屋に着いた。ドアをノックしようと拳の甲をドアに向け。
・・・その直後、ドアの向こうからリーナの声が聞こえてきた。
「・・・っ、あん‼」
「・・・・・・・・・・・・」
僕は一瞬、硬直した。ドアの向こうからリーナの艶っぽい声が聞こえてきたのだ。
思わず、僕の頭の中が真っ白になった。えっと、これは・・・まさか。僕の口元が引き攣る。
「・・・んっ、ムメイ。・・・ムメイっ」
「・・・・・・・・・・・・」
どうやら、リーナは少し取り込み中らしい。僕はそっと踵を返した。そのまま立ち去ろうとする。
・・・しかし。僕は直後、その足を止めた。僕の頭の中に、今朝見た夢を思い出させる。リーナとのとても幸せな結婚式。幸せそうな、リーナの顔が僕の頭を過る。
僕の背後で、相変わらずリーナの艶声が聞こえる。僕の意思がぐらりと揺らぐ。
僕は、僕は・・・・・・っ。
僕は、リーナの部屋のドアを黙って開けた。
「っ、え・・・?ムメ・・・イ・・・?」
リーナは愕然とした顔で、僕を見詰めている。その身体に白いシーツを抱き締めて。白い綺麗な裸体を必死に隠している。それが、余計に扇情的だ。
しかし、僕は心に湧いた欲を無心で抑えつける。今は、そんな時ではない。
僕はリーナの瞳を真っ直ぐ見詰め、目線を合わせて問う。
「リーナ、君は僕の事が・・・そんなに好きなのか?」
「え、ちょっその・・・・・・あぅぅっ」
リーナは顔を真っ赤に染めて、僕から目を逸らした。それでも、僕は視線を逸らさない。真っ直ぐに彼女を見詰めるだけだ。
「答えてくれ。リーナは僕の事が、そんなに好きなのか?」
「う、うん・・・・・・大好きだよ。私は、無銘の事を愛してる・・・・・・うぅっ」
リーナは羞恥に染まった顔で、それでも確かに答えた。
そうか、と僕は呟く。そして、静かに僕は瞑目し、やがて再びリーナの瞳を真っ直ぐに見詰めた。
その僕の視線に、リーナも真っ直ぐ僕を見詰める。僕とリーナの視線が交差する。
やがて、僕は静かに決意をした。リーナにその想いを真っ直ぐ伝える。
「リーナ、結婚しよう。幸せにしてやれる保証は出来ないけど、それでも精一杯努力はするから」
愛する努力をするから。幸せにする努力をするから———
その言葉に、リーナは目を大きく見開いた。その瞳は信じられないような、驚愕の色を帯びていた。
やがて、リーナはその瞳に涙を溜めて満面の笑みを浮かべた。
「うん・・・うんっ・・・・・・!!!」
リーナは勢いよく、僕に飛び付いた。僕は思わず、後ろに倒れる。僕の上に全裸のリーナが抱き付いてわんわんと泣きじゃくる。その頭を、僕は苦笑しながら撫でる。
その光景を、ドアの向こうで一人の駄メイドが赤面しながらデバガメしている事にも・・・この時は流石に僕も気が付かなかった。もちろん、その駄メイドは後に説教したさ。
・・・・・・・・・
その後、僕はリーナと結婚し、やがてリーナとの間に一人の子供も出来た。夢の通り、リーナはとても幸せそうに笑っていた。そんな彼女に、僕は苦笑を浮かべる毎日だ。
恐らくは、世間一般的に充分幸せと呼べるだろう日々を過ごす。
相変わらず僕は幸せという物を理解出来ず、そして人を心の底から信じる事も出来ない。
けど、僕にはリーナが居る。リーナと共に居れば、きっとそれを何れは理解出来る日が来る。それを僕は確かに感じていた。だから、僕は必死に今を生きる。
・・・リーナと共に。
あれ?さりげなくハッピーエンド感が漂っている気が?




