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第10話

 10月10日ぶん

 何を書けばいいのか分からなくなったが無理やりでも続ける。

 使命感というのはこんな感覚を指すんだろう。

 時間はかかったがようやく千字埋まった……。

 恰幅のいい女性曰く、この街は東西南北それぞれの地区で与えられた役割に沿って発展しているようだった。

 現在、自分がいるのは南地区。

 どういう理由で選択されたのか分からないが、この地区は静寂が売りだった。


 西地区の祭りを思わせる喧騒が遠くで鳴り響く中、この地区の住人は何らかの形で個室に籠り自然の音を楽しんでいる。

 これも聞いた話だが、音をたてたら罰せられるということは無いそう。だが、住人の視線が痛いのだという。

 たったそれだけで静寂が保てるのかとその時ばかりは疑心に駆られたが、この地区に足を踏み入れ奥に進むとそれがよくわかった。


 歩いているだけで集まる視線。

 はじめて西地区に入った時に集まった視線は全て好奇心からくるものだった。例えるならば、人が滅多に訪れない村にやってきた数年ぶりの来客に向ける子供たちのよう、と言えばいいだろうか。

 そんな西地区に対して、南地区の人間がこちらに向けてくる視線はまるで品定めをしてくるようだ。



「……」



 いたたまれなくなり、飲食店の看板を出している店内に入る。

 店内に入ると、カウンターに立つ男性が礼をするだけで、歓迎の意思を言葉に出して表現することは無かった。

 それに、よくドアについている来店を知らせるための鐘が存在しない。

 他に目新しいことと言えば、入り口の側にメニューと紙、筆記具が置かれ、その横に走り書きで「注文を紙に書いてカウンターまでお持ちください」とあることだ。声を出さないためだろうか。



「……」

「……」



 静かな空間は好きだ。

 無理な会話を必要とせず、ただ心安らぐままに無為な時間を求めることは人一倍に多いと思う。主の側に居ると喧騒が絶えないせいだろう。

 だが、だからと言って無理やり作られた静寂な空間に居たいかというとそうじゃない。


 自分が求める静寂とは、会話の合間に過ぎる余韻に浸るような時間であったり、一人で思考に浸りたい時……。

 なるほど、本来ならそういう状況になった人間がこの地区を利用するのだろう。

 店に入ってしまった手前、何も購入しないわけにもいかず、おすすめ品を書き記しカウンターに立つ男に手渡す。

 男は終始無言のまま紙を受け取ると、注文の品を用意し始めた。


 店内に湯が沸く音と鋭利なナイフが食材を割く音が浸透する。

 それと同時に自分に注がれていた視線は向きを変え、ようやく解放されたような気分になった。

 座って待っていろと書かれていなかったし、カウンター前で料理が出来るのを待つ。少しだけ無言のまま淡々と調理していく男の手さばきを見るのが楽しくなっていた。



「……」

「ありがとう」

「……」

「……」



 気が緩んだところに出来上がった料理が出され、一言。

 店中の視線が背に刺さった気がした。


 今日の筋トレ日記

 腕立て伏せ30回

 腹筋30回

 背筋30回

 これを2セット

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