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立浜高校探偵部  作者: 中上炎
探偵部の事件簿
66/93

10.御守りだらけの男②

 およそ3分、といった所かしら。あるいはもう少し短かったかもしれない。空気すら微動だにしない部室にイガグリ達は平然と帰ってきたのだ。そしてチャラ男と部長が室内を見るや、準備万端の私達を見て眉を顰める。


 一方、イガグリは当然と言わんばかりに笑いながら……座敷童子に熱い視線を送っていた。


 「クククッ! なんとも無駄な努力を重ねたみたいじゃないか、生徒会! だが、その正々堂々戦おう(・・・・・・・)という姿勢(・・・・・)だけは褒めてやっても良いぞ!」

 「はいはい」


 ついで、私……の胸のあたりに視線が吸い寄せられたイガグリが言う。その隙にチラリとだけ閉じたマントの内側が見えた。


 ――胸ポケットに入っていた御守りが、上着の右ポケットに移っているわね。


 「さて、いよいよフィナーレだ! いよいよ神秘の力が佐伯の悪行を克明に抉り出す時が来たのだ! 」


 席に座った全員を前にイガグリが感極まった表情で立ったまま告げた。その際右腕を振ってマントを振るわせるという大層な仕草まで示す。


 ……あなた、演劇部に行った方が良かったんじゃないかしら?


 「覚悟は良いな佐伯! 神子様に授かりし幽体離脱の御業を見よッッ!!!」

 「言ってろよインチキ野郎! 吠え面かきやがれッ!」


 それに呼応するように立ち上がったチャラ男。2人の視線が正面から激突し……すぐにそれて座敷童子へと向かう。


 「令佳! 大丈夫だ! 確かにこいつはトイレの個室で隔離(・・)されていた! 怪しい事なんて何も無いッ!」

 「タカ君っ! 私達も……3人で話し合って決めたの! 絶対に分からないから……!」


 まるで戦いに行く戦士に愛を捧げる恋人のようなやりとりにイガグリが思わず鼻を鳴らす。残念だわ、既に座敷童子の心はチャラ男の物のようね。


 「行くぞペテン師! お前のインチキを暴いてやるっ!」


 同時に詰め寄ったのはチャラ男。胸倉を掴むようにイガグリに迫り――


 「ハート(・・・)の」


 ――室内が凍り付いた。座敷童子の表情が一変したのだ。驚愕、そして混乱へ。それは即座にチャラ男やも伝播していき……


 「6()だッッッ!!!」


 水を打ったように部室が静まりかえった。呆然となった座敷童子が頭を抱えてすすり泣き始め、直ぐに部長が異変を察する。


 「馬鹿なッ!? まさか……本当に当たったのか!?」


 誰も、何も言わなかった。部長が不安そうに頭を振ったところで、辛うじて黒眼鏡が呟く。


 「……部長……その……信じられないのですが……」

 「う、嘘だろおいッ!?」

 「嘘じゃねえ! これが真実だよ佐伯!!! いや、男の風上にも置けない女たらしめッ!!」


 そう。残念ながらそろそろ私が言わなければならないだろう。


 「ハートの6! 愛を司る悪魔ッ! それが貴様の正体だ佐伯隆史ッッッ!!! 彼女に詫びて、部室を去れ――」

 「――その必要は無いわ」


 私は言った。立ち上がって恭しくも申し上げ、隠しきれない微笑みが溢れ出し……


 「あは! 外れ(・・)よお馬鹿さんッ!」

 「な、なにぃッ!?」


 同時にツカツカと机に近づき手を伸ばし、件のカードを白日の下に晒す。同時に座敷童子が驚愕のあまり息を飲んだ。


 そこに書かれていたのは――


 「ハートの……8?」

 「なんで!? 確かにあの時私は6って……!?」


 どうやら黒眼鏡は混乱の局地にあるようね。無理もない。彼女自身は確かに”6”と書いたのだから。


 そこで思わずニヤリと笑っていた。イガグリを威圧するように。奴は驚きのあまり真っ青になっていた。


 「な……馬鹿な……」

 「さて、説明しましょうか……」


 そう。黒眼鏡は確かにハートの6と書いたのだ。


 ただ、その後で私が曲線一本書き加えて(・・・・・)8にしただけで。どうやって? そんなの、カードを調べる振りをした時に決まってるじゃない! だって、このトランプは新品なのよ。わざわざ調べるまでもなく仕掛けなんて無いに決まってるわ!


 「あ、秋風ェ……貴様、まさか防衛魔術を――」

 「――確かに私達は最初に“6”を選んだ。これは全員で相談した結果よ。そしてその後……私がカードを調べる振りしてこっそり“8”に書き換えてから伏せた」


 私も暇ではないから、イガグリの寝言に付き合うまでもない。ここからは極めて単純な推理ね。この細工によって、見破れることが2つある。


 「言い換えれば、そこの詐欺師君は”6”を書くまでは室内の様子を知ることが出来ていたにもかかわらず、”8”を書く時はさっぱり分からなかった。もしこいつが幽体離脱とやらで室内を覗いていたのであれば、この結果は矛盾しているわ」


 私の視線に囚われたイガグリは、蛇に睨まれた蛙のように縮こまっていた。既に私のペットは行動を開始している。奴が逃げ出せないよう、部室の扉の前に佇んでいるのだ。


 「……まさか、堪ってことなのか副会長?」


 そこで生謎解きに興奮したらしい部長が口を挟んだ。でも残念。その発想は低次元と言うほかない。


 「いいえ。あなたは自分の愛の告白をそんな博打につぎ込めるのかしら?」


 答えは否。つまり、イガグリはどうにかして室内の様子を探る手段を持っているのだ。


 「答えは簡単。”ハート”と”6”は私達が相談して決めた結果。一方”8”は私が勝手に決めたもの。もう分かったわね? 詐欺師君は室内を盗み聞き(・・・・)していたのよ」


 そう。座敷童子と黒眼鏡が相談して決めた結果がハートの6なのだ。だからそれを見るのではなく聞いていたイガグリはハートの6を見破ることが出来た。でも、萎縮した2人を尻目に私が勝手に書き換えた8は見破ることが出来なかったのだ。


 「その……待ってくれ。別にこいつを擁護するつもりはないんだがよ……」


 だけれど、そこで口を開いたのは意外なことにチャラ男だった。


 「俺は確かに昨日部室を探ったんだ。もし盗聴器があればそんな物はとっくに見つけているはずなんだが……」


 私はちょっとだけチャラ男を見直した。こいつ、見た目はこんなんだけど、中身は案外フェアプレイを好む紳士なのかしらね。


 「良い質問ね。でも、あなたは一つ勘違いしているわ」


 私に正面から視線を向けてきたチャラ男に向かって言い聞かせる。


 「“盗聴器”を場所(・・)に仕掛ける必要はない」

 「は? それはどういう――」

 「――ま、まさか副会長……共犯者(・・・)がいるってことですか!?」


 まったく、この座敷童子ときたら愛すべき愚鈍さね。チャラ男自身が言ったじゃない。オカルト研究会には仲間(・・)がいるって。


 ――私はそれをあぶり出すために小細工をしたのだから。


 「そう。共犯者は今日この場所に盗聴器を身につけて(・・・・・)やってきた。盗聴器は場所ではなく人に仕掛けられていたってわけね」


 ――そして、共犯者の割り出しも既に済ませている。だって、簡単なことなのだ。


 「誰何だ!? そいつは!?」


 そこで部長さんが言った。そう。共犯者は盗聴器を身につけている以上部室にいる必要がある。なにしろ室内に隠そうにも、私達は円形になって椅子に座っているのだ。そんな目立つ動作は見てれば分かるのよ。


 つまり、くっさいトイレで監視していたチャラ男と部長は除外して良いわ。そして何より簡単な発想だけれど……


「そんなの、盗聴器にハートの6って吹き込んだ人間に決まってるじゃない」


 そもそも、警戒した私達が筆談で済ませる可能性だってあるのだ。実際私は数字もスートも一言も口にしていないしね。


 なにより既に種が割れているのを悟ったのか、共犯者殿はさっきから黙り込んでひたすら震えているのよねぇ。


 さて、思い返してみよう。問1……私、座敷童子、黒眼鏡。この3人の中で数字とスートを口にした人間は?


 「草加さん!? まさか、貴女がオカルト研究会に内通を!?」


 驚天動地のあまり座敷童子が立ち上がって叫んでいた。


 答え……黒眼鏡、でした。良い子のみんな、ちゃんと解けたかな? なんてね。


 しかしながら、黒眼鏡はやけくそになったのか身も蓋もないことを言い出したのだ。


 「ち、違います!? 久瀬さんだってスートは口にしてるし……そもそも秋風副会長だって怪しいじゃないですか!? そうです!? これは文藝部を、ひいては探偵部を陥れるための生徒会の罠――ヒィッ!?」


 あぁ、全く煩い女だ。ただ煩いだけならともかく、この救いようのない愚かさ。この女、今自分で自分の首を絞めたのだ。


 「あは、面白い事言うわね。何か証拠でもあるのかしら?」


 思わず笑った私は、まるで春茅君のように探偵ぶったことを言ってしまっていた。しかし……あぁ、本当にどうしようもない。黒眼鏡は私が言った瞬間、鬼の首を取ったように狂喜したのである。


 「そう、証拠よ! さっきから貴女の言ってることはただの推論じゃないッ!! 証拠を出しなさいよッッ!」


 ――言ったわね?


 「良いわよ?」

 「……え?」


 虚を突かれたらしく黒眼鏡は呆然となっていた。


 「上着の右ポケットよ」


 そう。それが多分答えの筈なのだ。……ま、外れてたら総当たりでやれば良いかしら。


 そんなことを考えていると、黒眼鏡は小馬鹿にしたように笑い出していた。


 「は、ははは!? ご覧の通り何も入ってないわ! お生憎様副会長! 大外れ――」

 「貴女じゃないわ。そこの詐欺師君(・・・・)の学ランの右ポケットの御守りよ」


 ギクリ、と御守りだらけの男が震えた。そして臆病な地が出たのか、逃げるように部室の扉に視線を向けては、そこに笑顔で佇むユウ(私のペット1号)の前に怯えるように視線を逸らしている。


 「詐欺師君があんなに沢山の御守りを持って、しかもわざわざオカルトチックな前口上を述べたのにはわけがある。御守りを……御守りの中に入れた盗聴器の受信機を隠す為よ」


 ――私達に自分が根っからのカルト信者であり、御守りを沢山持っていても不自然ではないと思わせるために。


 さて、ここで突然ですが問い2です。誰がイガグリを(・・・・・)トイレに隔離しろと言ったのか? 言い換えれば、誰が私達を(・・・)イガグリから隔離しろと言ったのか?


 答え……黒眼鏡よ! あは、良い子のみんな、今度はどうかしら?


 つまり、黒眼鏡はイガグリを私達から隔離する振りをして、奴が1人になれる機会を作ったってわけね! 何故? 簡単。1人で御守りの中に隠した受信機とイヤホンで盗聴していたからよ。


 でも、彼はミスをした。私がイガグリを急かすようなことを言ったので、慌てた彼は胸ポケットに入れていた筈の種入り御守りを、上着の右ポケットに仕舞ってしまったのだ。


 「クロヨシ(私のペット2号)

 「おう! 大人しくしろ!」


 動きは速かった。私のペットの内の肉体労働担当が電光石火でイガグリのひょろい身体を締め上げると、苦痛の呻きを綺麗に聞き流してマントに隠された学ランの右ポケットから纏めて御守りを引っ張り出したのである。


 「確か……一番右の学業成就の御守りが最初胸ポケットに入ってたわね……」

 「流石葉月、よく見てんな……っと!」


 同時にクロヨシが躊躇無く御守り袋を開ければ……案の定、盗聴器の受信機とイヤホンのセットがご登場。


 さて、残りは後1人。


 私がゆらりと微笑みを向けると、黒眼鏡は引き攣った表情のまま後ずさりしていく。が、あっという間に部室の隅に追いやられてしまい、そこに平積みされた本にぶつかって転んでしまっていた。


 まるで強姦寸前の乙女みたいな絵面なので、私も思わず一瞬だけ躊躇してしまい――


 「そ、それが何だってんだよ!? 俺は御守りの中身なんて知らなかった! そうだ! 信仰の篤い俺が、御守りを開封するわけ無いじゃないか!?」


 ――イガグリの馬鹿によって躊躇が吹っ飛んでしまった。


 だって、そう言われたら徹底的にやるしか無いじゃない?


 多分イガグリ的には観念して、せめて自分の盗聴器と黒眼鏡が無関係と言いたかったのでしょうけれど……完全に悪手よそれは……。


 「じゃあ、証明しましょうか? 詐欺師君の持っている受信機が、黒眼鏡の持っている発信機と対になっているか?」


 しまった。思わず渾名で呼んでしまった。うっかりだわ。内心はともかく、対外的には名前で呼ぶようにしてるのに。


 「そもそも! わ、私は盗聴器なんて持ってない――」

 「――出しなさい」

 「持ってないって言ってるでしょう!? いい加減にして下さい!?」

 「はぁ……出せって言ったわよ?」


 思わず溜息をついていた。


 なんて馬鹿な2人なのかしら。種が割れた時点で大人しく降参すれば、ここまではしなかったものを。


 「だから、持ってないんです!?」

 「なら、当然それを証明できるのよね?」


 私が口調に冷たいニュアンスを混ぜたのに気付いたのか、黒眼鏡は思わず言葉を飲み込んだ。だけれど、既に啖呵を切ってしまった以上、今更引けないらしく頭を縦に振った。


 よろしい、ならば戦争ね。


 「クロヨシ」

 「あいよ」

 「この女を裸に剥け。アナタは服を調べなさい。私は身体を探す」

 「…………っえ?」

 「おう! 任せろ!」


 残念だけど……敵が抵抗するなら侵略し陵辱し犯しつくし、身体に現実を刻んでやるしかない。戦争って残酷ね。


 「ま、待って……下さい!? じょ、冗談ですよね副会長!? いくら鬼の副会長でもそんなこと……」

 「馬鹿かお前。葉月はやるといったらやるんだよ。都合の良いことに、出入り口は閉まってるしな」


 尚も現実が信じられない馬鹿の制服にクロヨシが手をかけ――


 「分かった!? 分かったから!? 俺達が悪かった! 認めるからそれだけは許してやってくれ!?」


 イガグリの言葉に、思わず呆気にとられて言葉を失っていた文藝部の面々も正気を取り戻したようだ。


 ……残念ね。このまま彼らが止めなければ、共犯にできたのに。




 気がつけば、自然と鼻歌を口ずさんでいた。


 薄暗い廊下を歩いているにもかかわらず、どうやら今の私はとびきりのご機嫌みたい。両横に従えているペット2人、そして前方で案内させている死刑宣告を喰らったような顔のイガグリと黒眼鏡である。


 ……こんな2人、放置したところで大した害はないのだけれど……落とし前はつけさせないといけないからね。


 「……ねぇ葉月、この2人は部室棟の2階にオカルト研究会の拠点があると言っていたけど……本当だと思う?」

 「……表向きは空き部室のはずなんだがな」


 思わずスキップしそうな私をよそに、ペット2人は足りない頭脳を必死で活用しているみたい。


 そう、今の私達はオカルト研究会へと侵攻しているところなのである。


 イガグリと黒眼鏡の2人は私が盗聴と詐欺の事を警察に報告すると言うと、必死になって足下に縋ってきたわ。だから見逃してやる代わりに……こうして敵の根拠地へと案内させることにしたのよね。


 ……今も、絶望したかのような顔色で私達を案内してくれている。既にオカルト研究会幹部には作戦成功の連絡を入れさせた。後は、私達が始末するだけ。


 おそらくこの2人もオカルト研究会にも何か弱みを握られているのでしょう。ただ、それは私の握ってる犯罪者の烙印というカードと比べれば小さい。精々が飲酒か何か、といった所かしら。


 私がそんなことを考えていると、追い詰められた表情の黒眼鏡が振り向いた。


 「副会長……本当にオカルト研究会の拠点まで案内すれば……許して貰えるのですね?」

 「えぇ勿論! 貴方達が自分から企んだ(・・・・・・・)というなら警察に突き出すけど……脅されてやった(・・・・・・・)というなら情状酌量の余地はあるからね!」


 ご機嫌な私がそう言うと、黒眼鏡は物凄い勢いで、それこそ眼鏡が飛んでいきそうな速さで頭を縦に振った。


 大変よろしい。カルトよりも私に従うというのであれば、手駒として使ってあげましょう。


 そうして、私達は部室棟の使われていない部室へと進んでいた。スマートフォンで他の生徒会員に調べさせたところ、今年度の4月から使われていないようね。前に使っていたのは声楽部だけど、どうやら昨年度に不正経理が発覚して解散、正確には前々から交流のあった演劇部に合併されたらしい。


 暗い廊下の先、一際暗闇の深い隅っこにその部屋はあった。既に電灯が切れかかっているのか、ジジジッと不吉な音をたてては明滅を繰り返している。もちろん部室の扉には部活動の名前を示すプレートは外され、中の様子を伺うことも出来ない。


 「あそこかしら?」


 私が眉を顰めて問うと、イガグリは慌てて頷いた。


 「は、はいっ! 今朝ケータイにオカルト研究会の小室せんせ――小室からメールがありましたッ! 部室の机の上に今日の仕掛けを置いておくから、それを使って文藝部で本懐を果たせとッ! そして全てが終わったら、巫女様の御守りは元の場所へ返却するようにとッ!?」


 ――メール、ね。どうせフリーメールか何かで、足取りが掴めるとは思えないわね……。


 私は無言で指図した。同時に肉体派のクロヨシが私の近場で護衛に徹し、ユウの方が足音を消して扉の前に滑り込む。……私は無言で首を振った。


 同時にユウが扉を軋むほどの勢いで開けると同時に中に突入、私とクロヨシもそれにこうとして――


 「これはッ!?」


 彼の驚きに足を止めていた。クロヨシに馬鹿2人を見張らせて、私も部屋を覗いてみる。


 「……何も……ないわね」


 ……部室は完全な空き教室だった。中央に机が一つ置いてあるほか、右側には木製のラックが天井まで伸びているけれど、それだけね。


 剥き出しのコンクリートの壁とボロい窓の他には何もない。


 「おいテメエら! 俺達を騙すとは良い度胸じゃねえか! えぇ!?」

 「そんな、そんなはずはッ!? 確かに机の上にある箱から、御守りを取り出したんです!?」

 「その通りです!? ここから――」


 部室の外で始まった言い訳を聞き流して、件の机を検分してみましょう。この部屋は4月以降使われていない筈だわ。実際それなりの埃が蓄積されている。


 そこで私はスマートフォンを光源にして、机の上を照らしてみた。……確かに、四角い箱のようなものを置いた形跡が埃に残されている。


 ……そうなると、問題は一つか。


 「クロヨシ、詐欺師君の御守りを全て没収しなさい」

 「あ? あぁ分かったよ。だが、そんなことで良いのか?」


 もっとも、クロヨシが何かをするまでもなく必死になったイガグリがそれを献上していた。私は無造作にそれを机の上に放り投げると、一個ずつ叩いて調べていく。


 案の定、そのうちの一つから固い感触が返ってきて――


 「なっ!? これはッ!?」

 「盗聴器……だとッ!?」


 思わず無表情になっていた。手のひらサイズのそれは、間違いなく黒眼鏡から没収したのと同タイプの盗聴器だったのである。


 「そう……そういうこと……」


 苛立ちのあまり床にそれを叩き付けて破壊した後、念のため足でぐりぐりと踏みにじってやる。


 「オカルト研究会は最初からイガグリにも黒眼鏡にも期待なんてこれっぽっちもしてなかった。こいつらは捨て駒だわ。”探偵部の調子が悪そうだから、ちょっかいを出してみよう”。そんな軽い気持ちで出された死兵。失敗前提だからこそ、即座にそれを探知できるように盗聴していたのね……」


 思わず歯軋りする私を馬鹿2人はともかく、ペット2人までもが恐れをなしたように距離を取っていた。あぁ、なんていう事かしら。御守りには何かメモが入っているじゃない。


 無言で私はそれを広げてみる。何処にでもあるノートの切れ端に、無駄に流麗な文字がシャープペンで記されていた。


 “ご苦労様”


 「……誰だか知らないけれど……やってくれたわね……!」


 最後にもう一度強く盗聴器を踏みつぶす。バキリという音と感触が心地よい。


 「私の裏をかいたつもりかしら? 残念ね。私程度でも分かることはあるわ。例えばこの盗聴器、盗聴電波の射程範囲は100メートル前後のはず。言い換えれば、文藝部部室を盗聴していた貴方は、必ず校舎内にいた人間ということになる。そして敗北を知った後は急いで部室棟に戻り証拠を隠した……」


 ――つまり、ついさっきたった一人で校舎と部室棟の間を走り抜けた人間こそがオカルト研究会の幹部ということになる。


 「ユウ! 生徒会員を招集して。証言を集めるわ。クロヨシ! 部室棟を徹底的に調べなさい。私たちはここまでのんびり歩いてきたわけじゃない。まだ近くにいる可能性もあるわ」

 「わ、分かったよ!」

 「おう! 任せときな!」


 弾かれたように走りだす2人を尻目に、私は部室等の出入口を静かに睨んだ。今この瞬間にも、逃げ出そうとしているかもしれないのだ。


 「何処の誰だか知らないけれど……面白い。叩き潰してやる」


 結果として敵の高価な盗聴器2つを潰せたのだ、負けじゃない。だけども高価な盗聴器を捨て駒に使えるのだから、カルトの資金は潤沢ということで……。


 ……まったく、小うるさい蚊は叩き潰すにかぎるわね。


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