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立浜高校探偵部  作者: 中上炎
探偵部の事件簿
65/93

10.御守りだらけの男①

 ……思わず溜息をついてしまった。見苦しいのだ。


 その時私の周りには7人の人間が居て、それぞれ中心の小さなテーブルに向かって車座になって椅子に座っていた。私を入れれば8人だ。一方この文藝部の部室は決して広い方ではない。しかも壁際には所狭しと本棚が並べられ、なおそこから溢れた本棚が床に平積みにされていスペースを圧迫しているのである。おまけに1月はクソ寒いお陰で、窓も閉められている。


 だから当然、麗しい女性である私としては、断固会場の変更を主張したい。したいのだけれど……残念な事にそうは問屋が卸さない。


 内心で辟易としている私に気付かなかったのか、珍妙なる主役殿は調子に乗ってこうぶち上げた。


 「私は、忠実なる巫女様のしもべにして、小室大先生の教え子が1人! 本間正六(ほんましょうろく)だっ!」


 ――ヤバい。何がヤバいって言動もそうだけど、見た目の時点でヤバい。


 この本間なにがし、着ている学ランの上から何十年前に流行ったファッションだと問い詰めたいような、マントを着ているのだ。しかも裾はすり切れてぼろぼろ。これだけでもお腹一杯なのに、まだある。


 こいつが大仰な仕草で演説する度に、マントの内側の学ランに所狭しとぶら下がったお守りが揺れるのだ。私が確認しただけでも上着の胸ポケットに1つ、左右のポケットに2つずつ。それから隠れてるけれどズボンのポケットにも少々。


 御守りだらけの男……と言ったところかしら?


 貴様はマジシャンかと小一時間問い詰めたいところだけど、それをする気も無い。だって、その髪型は野球部もビックリなイガグリ頭だったのだ。……むさ苦しいわね。


 「私は厳しい修行の末……ある神通力に目覚めたっ! ……っ幽体離脱ッ! 魂と肉体の分離方を身につけた私に……見破れぬ謎はないッ!」


 これがなにかと話題の探偵部の部長さんならばスラスラと正体を見破る推理を披露してくれたのかもしれないけれど……あいにくとそういうのは趣味じゃない。


 こんなイガグリ野郎の来歴なんて、興味がこれっぽっちも湧かないしね。


 「そして、その能力を身につけて知ったのだッ!!!」


 冷め切った私と、精々が半信半疑の聴衆を尻目に、イガグリの興奮は絶頂に達したらしい。そこで、まるで”犯人はお前だ!”と言わんばかりに1人の聴衆を、イガグリを睨み続けていた男子を右手で指さしたのである。


 「野球部の万年補欠……佐伯隆史ッ!!! 貴様は補欠の分際で生意気にも彼女を誑かし――」


 ――ちらっとだけ見てみましょう。……チャラい。確かに佐伯氏はチャラかった。色々な形容詞を思いついたけど、それらをいっぱい並べるよりも一言“チャラ男”と形容した方が正確ね。


 「――あろうことか彼女を毒牙にかけるだけに止まらず――」


 怒り心頭のチャラ男は激昂しそうになって……すんでの所で止まっていた。見た目とは裏腹に賢いのか……それとも、彼がその身体で庇っている彼女の方が裾を引っ張ったからか……。


 「あまつさえ三股で、この立浜高校のあらゆる女子に粉をかけているッ! こんなことが許されるだろうか!? いや、許せんッ!!!」


 ――もちろん嘘である。……だって、私は口説かれてないしね。ま、彼氏持ちだから当然だけれど。


 「ふざけんなッ!!!」


 そこでチャラ男がキレた。やっぱり彼が賢いのではなく、彼女が止めたから思いとどまってたのだろう。言い換えれば、彼は彼女を大切にしているのだ。……座敷童子みたいな女子だけど


 「タカ君……」

 「俺が代打の切り札なのは事実だし、令佳を必死になって口説いたのも事実だッ!! だけれど、俺は誓って浮気なんざしちゃいないッ!!!」


 背も低い座敷童子はあまり前に出るタイプではないのか、不安そうに男共を見比べている。


 「笑わせるな! 俺は確かに幽体離脱でお前が他の女としけ込んでるのをはっきりと見たッ! 昨日はお楽しみだったじゃないか? えぇ? 良い度胸だな、久瀬の事は放っておいてよ?」


 ……座敷童子は、久瀬令佳という名前らしい。どうでも良いけど。


 「何が幽体離脱だ! そんなのただのお前の妄想じゃないかッ!!!」

 「じゃあ聞くが……昨日は何処で何をしていたのだ?」


 そうイガグリが言うと、何故かチャラ男の方は呻いていた。言いづらい事でもあったのだろうか? それらをじっと堪えていくのが男の修行よ。


 「昨日は、リョウ……知り合いが死んだ目をしていたから――」

 「あぁ? あの生徒会長殿のことか? 確かに年明け以降ふさぎ込んでるようだが……嘘だ!」


 ――これは本当。そして、親愛なる我らが生徒会長殿が年明け以降死んだような目をしてるのもね。


 「昨日は生徒会の会合の日で、お前と一緒にいる時間など無いッ!!!」

 「――それは……」


 何故かチャラ男は言い淀んで、私に助けを求めるような視線を送ってきた。同時にそれを察した座敷童子が女の本能で冷たい視線を送り始めている。


「とにかくだッ!!!」


 代わりにチャラ男は叫ぶと同時に立ち上がった。


 「お前の幽体離脱なんて嘘っぱちだッ! ただの言いがかりでしかない」

 「言いがかりはお前の方だッ! 何が浮気なんてしてないだッ! 俺は確かに見たぞ! お前が他の女と一緒に誰も居ない教室に忍び込むのを!」


 一方、板挟みになっている座敷童子は……何故かうっとりと頬を染めていた。……きっとあれね。ほら、よくある……2人の男に取り合いをされる1人の女の図。あれを思い浮かべて妄想に浸っているのでしょう。……取り合いされて喜ぶなんて、私には理解できないけれど。


 「じゃあ、証拠を見せてみろ! お前が幽体離脱で見たって証拠を!」


 チャラ男が言った。


 「見せてやるよ! 今日はその為に来たんだからッ! だから……もしお前が謎を解けなければ、久瀬とは別れて貰う。良いな?」


 イガグリも応酬した。それはそれは酷薄な笑い方だったわ。……告白だけに、なんてね。


 やれやれ。それにしてもまったく、長い前置きだった。


 「要するに、怪しげなインチキ霊能力者の謎を解いて欲しい……という事でよろしかったかしら?」


 おもむろに立ち上がって私が言うと、男2人は対照的な反応を見せた。チャラ男は天の助けと言わんばかりにほっとし、イガグリは出会いがしらに罵倒されて怒り心頭、ほら、顔も真っ赤になっている。


 「誰だお前は……!? 文藝部の新入部員か!?」


 イガグリ頭に知能は入ってないらしい。こんな1月に新入部員が入る可能性は極めて低い。しかもそれが決して大所帯とは言えない文藝部ならば尚更よ。


 そこで他の文藝部員達もようやく私に”貴女達は誰?”という視線を向けてきた。そういえばまだ名前を名乗ってなかったかしら?


 「おう! そこのお前、口の利き方には気をつけて貰おうか!」

 「そうだね。場合によっては……報復を覚悟して貰うよ?」


 同時に私のお供の男2人が椅子にふんぞり返ったままで言った。そうそう。男っていうのは偉そうに椅子にでも座ってるくらいが良いのだ。前に出るのであれば……それなりの身なりというべき物がある。


 「生意気な奴らめッ!! 俺がいない間に文藝部はこんな奴らが幅を利かせて――」

 「お生憎様ね」


 ジロリと睨み付けてくる視線を飄々と受け流しながら、私は観察する。イガグリ頭。知能指数……低め、麗しさ…………ニキビが沢山、財力……低め、運動能力……低そう、頭イガグリなのに身体ひょろひょろってどういうことなの? それはともかく。


 総合美味しさ評価……ゴキブリ料理。頼まれたってお近づきになりたくないタイプだわ。


 「私は文藝部の人間じゃないわ」

 「じゃあなんでここにいる!? 部外者は帰れ!」

 「残念、そして関係者でもあるのよね……」


 ――何を言ってるのか分からない。そんな顔をされた。仕方ない。これも仕事だ、名乗ってやるか。


 「私は生徒会の秋風葉月。ただの副会長よ」


 同時に室内を沈黙が満たした。イガグリなんて類い希な阿呆面を披露している。


 ――泣く子も黙る鬼の副会長。ちょっとでも事情に詳しい人間ならば知っているわ。だって、私が積極的に噂を流してるからね。もちろん、こんな風に生徒会に逆らい学校内の風紀を乱す馬鹿共を牽制するために。


 「な……なんで、なんで生徒会がここに!? お前達と文藝部は犬猿の仲じゃ……」

 「あぁ、それなら和解したわ」


 ――昨日、私とチャラ男で。


 そう。チャラ男が昨日誰もいない教室に女と一緒に忍び込んだというのは事実。彼は奇妙なオカルト信者共に目をつけられた彼女を守るため、怨敵である私達生徒会に頭を下げて助けを求めてきたのだ。


 でも、それは野球部の彼だから出来た事。生徒会に思うところのある文藝部に知られたくなかった。だから嘘をついていたってわけね。


 「さて、覚悟は良いかしら? オカルト研究会。どんな神秘を持ち出したかは知らないけれど……一滴残さず暴いてあげる」


 ――それにしても……なんともつまらない結果になった物ね。正直私のキャラじゃないんだけど……偶にはこういうのも良いか。




 改めて状況を整理しましょう。部室には私達生徒会の人間を除いて、5人の人間がいる。男が3人、女が2人。


 男の1人が愉快な道化の”イガグリ”で、残りが野球部で彼女を守るために私にSOSを出してきた”チャラ男”、それから当代の文藝部部長である………………名前何だったかしら? まぁ”部長”で良いか。わざわざ覚える価値もなさそうだし。


 女の方はというと、2人ともよく似た文学少女だ。眼鏡をかけて無くて身長が低い方が久瀬…………もとい”座敷童子”。もう片方の背は高いけれど地味な黒縁眼鏡をかけている方が……まぁ、”黒眼鏡”としましょう。


 それからもう1つ。この文藝部室はとても綺麗(・・)だということ。もちろん埃はいっぱいあるけれど……そういうことじゃなくて。


 昨日依頼を受けた私が真っ先にチャラ男に出した指示は、部室の掃除だった。このオカルト研究会は名前とは裏腹に、その実体は手品部に近い。連中は薬や盗聴器などあらゆる手段を使って神秘を再現する。


 しかもイガグリは文藝部のみならず全校的にチャラ男を糾弾するメッセージを掲載しやがったのだ。


 これほど自信満々に仕掛けてくるとなれば、当然手品の小細工を疑うのが当然と言うべきもの。


 そして、私のペットの片割れと共にチャラ男が掃除したこの部室は、以後今日の解錠まで鍵が掛かりっぱなし。もちろん冬だから窓にもしっかり鍵が掛かっている。つまり、部室の中に盗聴器(・・・・・・・・)のような特殊な仕掛け(・・・・・・・・・・)は無い(・・・)って事ね。


 「上等だ俗物共ッ! 生徒会? それが何だッ! 皆纏めて俺が目を覚まさせてやるッ! だから……久瀬! そんな奴より俺と一緒に……ッ!」


 その瞬間、座敷童子の興奮も頂点に達した。彼氏の事を置いておいて、恍惚としているのである。


 「バーカ! 令佳はお前みたいなペテン師には騙されねーよ!」

 「うるさいッ! 俺はこの力で24時間何時でも久瀬を見守ってるんだ! こいつが浮気している間もなッ!」


 男2人もヒートアップしてきたらしい。一方私と言えば……


 「今、ストーカーの自白をしたわよね? これでしょっぴけないかしら?」

 「って信じるのかよおい!?」


 返ったのはツッコミだった。駄目か。そうか。仕方無い。


 「葉月……それじゃあ相手の言い分を認めてるから……勝利宣言されちゃうよ……」


 ごもっとも。特にプライドがあるわけでは無いけれど、こんなイガグリ頭に騙されたとあっては、生徒会の名前に傷がつく。


 しょうがない。正面から始末するしかなさそうね。


 「良いだろう、見るが良い! 神秘の神髄をッ!」


 などと勿体ぶった奴が右手で取り出したのは……トランプだった。一応気を遣ったのか、それとも単にぞんざいな扱いなのか、パッケージングされた未開封の新品だ。


 「このトランプの中には一枚、トランプでは無いカードが入っている」


 そこでようやく事態の展開に追いついたのか、部長が口を挟んだ。


 「何を言ってるんだ君は……。トランプにトランプ以外が入っていたら大問題じゃ無いか……」

 「……部長。もしかして……社名が入ってるカードでは?」


 今のは黒眼鏡。同時になるほど、と部長が頷いた。そう言えばそんなカードもあったわね。私なら邪魔でしか無いカードなんて捨ててしまうけど、新品だから封入されたままって事かしら。


 「その通り! これだ!」


 同時にイガグリが取り出したのは、案の定黒眼鏡の言う白紙のカードだった。正確には会社のロゴと、印刷会社等のいわゆるスペシャルサンクスがアルファベットで記入されている。


 「俺はこれから部室を出て行く! だから俺を信じない奴らは全員で白紙のカードに好きなスートと数字を書け!」

 「……スート?」

 「ハートとかスペードとかの模様の事だよ、タカ君」


 今度はチャラ男が疑問を口に出し、それに座敷童子が捕捉を加えた。ありがたいわ。うちのペットもスートと聞いて頭に疑問符を浮かべていたのよね。


 「書き終わったらカードは伏せて、俺を呼べ! 俺が幽体離脱で遠視して、カードに書かれた内容をあててみせる! それが外れたら俺の負け、当たったら俺の勝ちだ! 異存は無いな!?」


 それを聞いたチャラ男は力強く頷いた。一方の部長と黒眼鏡の文藝部コンビも少し相談してから了承する。もちろん私も――


 「あるわ」


 異存はある。この男の言ってる事には矛盾があるのだ。だってそうでしょう?


 「何でわざわざ呼びに行かなきゃいけないのかしら? あなたは幽体離脱とやらで部室の中が見える(・・・)のでしょ?」


 そう、勝手に戻ってくれば良いのだ。それをしないということは、何かしら理由があるはずよ。部室が見えないのか……あるいは他の理由か。


 どっちにしろ、椅子に座って机に頬杖付ながら聞くのが丁度良さそうだ。


 「……ふん、客をもてなす気がないとは、文藝部も落ちた物だな。良いだろう」


 私の巻いた疑いの芽が育ちきる前に、イガグリは素直にそれを認めた。これもポイントね。確かに奴は部室の中を探る手段を持っていると言う事なのだから。


 「……いや、それじゃ足りないぜ」


 私が満足していると、唐突にチャラ男が言った。


 「リョウは言ってた。オカルト研究会には沢山の仲間がいると。だったら、お前がいなくなった先で別の仲間と接触するかもしれない。だから、俺が見張らせて(・・・・・・・)貰おう。文句はあるか?」


 ……チャラ男はイガグリとは違って、頭に少しは知能が宿っているようね。無論私もその可能性は考えていた。でも、それを提案しなかったのには理由がある。もっとスマートな解決方法があるからだ。


 「好きにしろ」

 「言ったな? ならば好きにさせて貰う! 例えば……お前が出て行った先も指定させて貰う!」

 「ッ!? ……良いだろう! ただし、幽体離脱は集中力がいる! 俺を一人にして貰うからな!」


 チャラ男の必死に攻勢に、イガグリは偉そうに鼻を鳴らしながら答えた。同時に瞳、もとい眼鏡を輝かせた奴がいる。


 「……佐伯君、それならばトイレの個室が良いのではないですか? あそこならあなたも見張りやすいし、どんな偶然を装ったとしても部外者も入れない」

 「……確かに」


 黒眼鏡である。実にごもっとも。でも、彼女の言う路線には一つ欠点があるのよね。ほら、部長さんも気付いたみたい。


 「いや、それでも足りないな……」

 「え……部長、どういうことですか?」


 流石は文藝部。ミステリーもお手の物。そう、一つだけ欠点があるのだ。


 「もしイガグリ(本間)の言った事が真実(・・)だったとしたらどうする?」

 「え!? 部長……それって……」

 「あぁ、違う違う。僕は親探偵部のオカルト否定派だからね。そうじゃない。僕が言いたかったのは――」


 そこでここまで黙り込んでいた座敷童子が危機を感じたのか、クワッと瞳を開けた。


 「もしチャラ男(佐伯)が浮気をしていて、座敷童子(久瀬さん)と後腐れ無く別れるためにイガグリ(本間)と手を組んでいたとすれば?」


 そう、オカルト研究会は手品師だ。仕掛け人なんてお手の物だろう。仮にイガグリに助手役がいるとすれば、それは喧嘩を装って話の展開を左右しているチャラ男が怪しいのよね。


 ……だとすれば、これは生徒会への明確な宣戦布告だわ。


 「そんなッ!? タカ君は――」

 「――それなら、部長さんが一緒になって見張れば良いわ。あなたは完全に部外者で、今日も文藝部部長だからこそ来たのでしょう?」


 ……彼なら男だから、トイレの中にもついて行けるしね。


 ――まぁ、こんな所かしら? そろそろ前座にも飽きてきたし、本番のマジックショーを見せて貰いましょう。




 「良いだろう。精々ありもしない仕掛けを疑うが良いさ」


 イガグリはそう言うと、前をチャラ男に、後ろを部長に固められて連れ出されていった。何処のトイレに行くのかは私も知らない。敵に気付かれぬよう、その場のノリで決めるようなのだ。


 「さて、それではトランプの図柄を決めましょうか」


 念のため暫く待ってから私がそう言うと、座敷童子と黒眼鏡が寄ってきた。3人で一つのテーブルを囲む。最初に口を挟んだのは……座敷童子だった。


 「私……良い事を思いつきましたっ! もし彼が透視出来るなら、図柄が無くても良いはずです! 例えば……ジョーカーとか」


 目を輝かせた座敷童子。どうやら彼女がチャラ男に惚れてるのは本当のようね。どうしても負けたくないみたい。……まぁ、本当に透視されてるなら、裸も見られ放題だから当然かしら。


 「良いアイデアですね! 他にもあえてトランプでは無く“ウノ”のカードを書くとか、あるいはトランプに存在しない数字を書くとか……!」


 一方、黒眼鏡もそれに乗り気らしい。そして、ご機嫌を伺うように私を見た。どうやら気弱なのは確かみたいね。同類の座敷童子となら盛り上がれるのに、住む世界の違う私には上手に出れないらしい。


 「その……副会長はどう思いますか?」


 私? 私がどう思うかって? そんなの言うべきほどの事でも無い。


 「反対よ。正々堂々4つのスートと13の数字から選べば良いわ」


 ――負けた言い訳にされたら、たまったものでは無いからね。


 私はクスリとも笑わずに言ったのに、2人は押し黙ってしまった。


 「じゃ、じゃあ普通に決めましょう! 久瀬さんは何が良いかしら?」

 「え? そ、そうですね……じゃあ、ハートが良いです」


 そうして、まるでライオンの機嫌を伺うように私を見た。


 もはや返事をする気も失せたので、適当に手をヒラヒラと振ってやる。すると黒眼鏡が慌てたように言った。


 「それもそうね! じゃあ数字は……どうしましょう?」

 「そ、そうですね、どうしましょうか?」


 ――にもかかわらず、2人はどうやら私がご機嫌斜めだと勘違いしたらしく、必死にこっちを伺ってくる。


 正直、何でも良いのだけれど……


 「…………じゃあ、これで」


 私は適当に決めていた。「6」だ。6に特に理由は無い。単に一番近くにあった本が6巻だったから、指さしただけなのだ。手間が省けそうだしね。


 「わ、分かりました! ハートの6で行かせて頂きますッ!」


 声に怯えの混じった黒眼鏡が備品のボールペンでカードに絵柄を描いていく。間違いなく、「♡6」だ。それを私に見せてから座敷童子にも渡す。


 「よし、それじゃあ、後はカードを伏せて帰りを待つだけです――」

 「待ちなさい」


 私がそう言うと、受け取ったカードを伏せようとしていた座敷童子は硬直していた。何故かその手はぶるぶると震えている。失礼な、私はまだ脅してないというのに。


 「念のため、カードを確認したいのだけど?」

 「ど、どうぞ!」


 そのまま引き攣った表情の座敷童子からカードを借りると、席を立って少し離れた窓際に移動してしげしげとカードを調べてみる。特に怪しい節は無い。太陽の光に当ててみたり、指で触ってみたりしたけど不審な凸凹や傷は無い。


 念のため私のボールペンで擦って見るも、インクが消えたりはしない。最近流行の消せるボールペンにすり替わっていた、ということもなさそうね。


 「な、何かありましたでしょうか!?」

 「いいえ? それより、彼らはどの位(・・・)で戻ってくるかしら?」


 そのまま素早くカードをテーブルの上に伏せると、ゆっくりと目を閉じた。


 ……謎は解けたわ。後はこの敵を料理するだけよ。


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