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立浜高校探偵部  作者: 中上炎
探偵部の事件簿
60/93

8.犯人は2人②

 「あは、あはははははははははははッッッッ!!! そうよッ! そうよ春茅君ッッッ! そう来なくては面白くないッッッ!! 勇者は正々堂々正面から激突してこそッ! 意味があるのよッッッ!!!」


 同時に響き渡ったのはお腹を抱えた秋風の笑い声だった。才賀先輩もテルさんも、塩屋専務ですら突然の展開に戸惑っているようだ。


 ――オーケー。秋風はやっぱり僕と正面から戦う道を選んでくれた。


 そう。忘れて貰っては困る。今回の理事会に限って言えば、彼ら理事はおまけ。


 あくまで主演は僕と秋風なのだ。


 「……今言ったのは誰だ?」

 「専務、失礼ですがお耳は大丈夫ですか?」


 僕が平然とそう言うと、塩屋専務理事は激怒のあまり真っ赤になって米神をひくつかせていた。一方才賀先輩はというと……意外な事にやれやれと首を振るだけで済ませてくれている。それこそテルさんなんて、思わず立場も忘れてVサイン。


 「良い度胸だな、名を名乗れ。退学にしてやる」

 「あぁ、目も悪いなんてお歳ですかね? 手元の資料に書いてあると思いますが?」


 バキリ、と音が響く。塩屋専務が持っていたボールペンを怒りのあまり握りつぶしたのだ。破片は遠く僕の足下にまで飛んできて――だけれど、僕には怖いなんて思えなかった。


 ――この人は……弱い。道理の通らない事を威圧して無理矢理通すあまり、本来磨かれるべき能力が手つかずなのだ。


 この程度、秋風や小室は勿論、森亜帝の足下にも及ばない! 目を瞑ってだって負けはしない……!


 「クックック! そうだなぁ。これは春茅の言うとおり、理事長には推薦できんなぁ! 年寄りの後釜にボケ老人を据えては意味が無い――!」


 すると観念したのか、腹をくくったのか。才賀先輩も乗ってきた。上等。新旧探偵部の力を味合わせてやる!


 「ところで塩屋専務理事。いけませんね! 一体いかなる理由で春茅君を退学にするつもりですか?」

 「ハッ! 貴様には国語も理解できないみたいだな! 理事への罵倒に加えて探偵部という不可解な部費の使用も……」

 「それはおかしいですよ専務。少なくとも罵詈雑言に関しては貴男の方が凄まじかったと記憶しておりますが?」


 同時に机に怒りの拳が強く叩き付けられ、新生徒会員達が悲鳴を上げる。……この野郎、学校の備品を大事にしやがれ。


 「ねぇ秋風? 君なら当然、今の会話も録音してるでしょ?」


 ――もちろん、後から約束を反故にされないために。そして恐喝に使うために。


 「あはッ! 察しが良いわね! 議事録を作るのも仕事なの!」


 僕が理事達にも聞こえるように尋ねると、恐喝王は笑って頷いた。


 ……OK。つまり迂闊な発言は全て証拠に残るってわけだ。


 「話を進めましょうか」


 僕は覚悟を決めてどっかりとソファに座り込むと、怒りに震える塩屋理事に言った。そう。理事会はまだ議決にすら至ってないのである。


 同時に才賀先輩も小馬鹿にしたように傲慢に嗤いながらも椅子に座る。


 一方怒り心頭の塩屋専務理事は立ち上がって睨み付けたまま腕を振るうと、報復するかのように吐き捨てた。


 「もう良い! 今年度第8回理事会の議長は寺島才賀! 貴様に一任するッ! 深井も文句は言わないだろうな!?」

 「くっ……言わないよ……でもお前覚えてろよ!? この借りは直ぐに返すからな!?」


 散々豚と馬鹿にされたテルさんの目には、凄まじいまでの怒りが宿っていた。


 そこで僕は秋風を見た。偶然か彼女も僕を見ていた。どうやら考えている事は同じだったらしい。


 ――前哨戦は楽しめた。そろそろ決着をつけようか。


 朗らかに笑った彼女はおもむろに立ち上がると、その場で朗々と声を上げた。


 「失礼します。生徒会の秋風葉月です。


 平時の理事会は挨拶後に議長及び司会を理事の中から選んで進行しますが、今回は非常事態により人数を欠いている状況です。


 幸い定款には理事会の運営上司会を役員から選ばなくてはいけない、という規定はありません。


 ですので、僭越ながら司会はこの私に任せて頂き、役員の方々には議論に集中して頂ければと思います」


 ジロリと睨めつける肉食動物の視線に塩屋専務理事は逆らえなかった。一方の才賀先輩は面白そうに笑うだけ。そして何より秋風の闘志は理事に向けられていない。


 ――さぁ、踊りましょう。春茅君?


 艶然と微笑んだ彼女の意識は、悠然とソファに体重を預けた僕に向いているのである。


 ――さて、楽しませて貰おうかな!


 不敵に笑った僕に対し、秋風はますます笑みを深めていた。半開きになった赤い唇の向こうではナメクジのような舌が食欲をかき混ぜ、我慢できないと言わんばかりに太ももをすり合わせている。


 「それでは、第8回理事会の議長は寺島理事! 司会は私秋風! 異議はありますか?」


 当然、異議ありの声は聞こえなかった。そのまま秋風は淡々とプログラムに則って進行させていく。そう。肝心の議決の時間だ。


 「それでは、第一号議案として今年度の生徒会総選挙を終えて、生徒会役員の新体制の議決を行います。お手元の資料をご覧下さい」


 秋風がそこまで言うと、この場の3人の理事達はいずれもがチラリとだけ手元に目を寄せる。……それだけだった。才賀先輩は上から目線で塩屋専務を馬鹿にし、塩屋専務は激怒の色を隠そうともしない。


 「寺島ァッ! 貴様……覚えていろ! 私が貴様を倒した暁には、タダではすまさんからなッ!」

 「どうぞご随意に。そしてご安心を。仮に私が勝っても報復のような見苦しい真似はしませんので」

 「よう言うたわッ! 秋風ッ! 投票を行うッ! 投票用紙を用意せよッ!!!」


 怒りのあまり立ち上がった塩屋専務とは対照的に、秋風は涼しい顔のまま記名式の投票用紙を取り出す。


 ここまではオッケー。


 だけれど、雲行きは怪しい。僕が仕掛けるのなら……ここだ。


 「才賀先輩」

 「あぁ。その前に……一つ提案があるのですが?」


 艶然と笑った僕が才賀先輩に声をかけると、才賀先輩も僕の攻撃開始の合図に乗ってくれた。


 ――そう。今ここで攻撃しなければ、僕は秋風に敗れる公算が高い。手札を切るしかないだろう。


 才賀先輩が議長になって票を失い、テルさんは秋風に弱みを握られている。更に田丸校長の票は秋風寄りの塩屋専務が握っているし、病欠の理事長の票は通例序列第2位の専務理事に委任される事を考えると、僕を支持する票は0なのだから。


 「なんだ寺島ッ! 中立の議長が議決に干渉するとは恥を知れッ!」

 「ほう? ならば、より公平性を高めるための提案であれば問題ないという事ですね?」

 「……ッ!?」


 才賀先輩は嗤った。実に傲慢で、世界中に自分より賢い人間など存在しないとでも言うような顔だ。だけれど、不思議と優しさのようなものを含有したそれは、僕にも、そしてテルさんにも頼もしく感じられるのだ。


 「なに、簡単な事です。ご覧の通り今回の議決は票が割れる事が想定されております。であれば、開票に対しても両者に対して中立な第三者が行う方が望ましい……そうは思いませんか?」


 ――仲間を呼ぶ。それが僕の選んだカードだ。僕は……才賀先輩や秋風と違って自分が一番だなんて思った事はない。だから、他人の力を借りる事を恥とも思わない!


 才賀先輩の視線は一直線に秋風を捕らえていた。しかし鷹のように鋭い視線を受けて尚、秋風はにこやかに微笑んだまま、されど目だけは笑わずに一直線に相対している……!


 「馬鹿か寺島! そんな都合の良い人間は――」

 「――例えば……既に生徒会を引退した、能登前会長などは如何でしょう?」


 そう。愛梨先輩は既に引退し、公平な立場にいるのだ!


 「彼女の生徒会長就任を承認したのも去年の我々です。それとも、まさか塩屋専務は去年の自分で認めた相手が間違っていた、とは言いませんよね?」

 「グッ……だ、だが――」

 「――大変結構かと思います」


 そこで秋風は言った。既に彼女も笑っていない。ただ、ゆらりと立ち上る闘気だけが塩屋専務すら閉口させていた。


 肉食獣を彷彿とさせるその麗しい唇が僅かに開かれる。


 「しかし、肝心の前会長が――」

 「それなら大丈夫だよ。僕が連絡先を知ってるからね!」


 もちろん、モモちゃんを通じて事前に根回しをしていたのだ。塩屋専務が僕を睨み付けるものの……別になんとも思わなかった。


 以前に愛梨先輩達の……生徒会員の憎悪をぶつけられた時と比べれば、ただの我が儘な癇癪などそよ風でしかない。


 かくして、引退したはずの愛梨先輩が再びこの場に現れる事となる。彼女は僕の連絡から1分もしないうちにやって来た。


 相変わらずの人形のような無表情の先輩は、平然と余っていた田丸校長席に座ると慣れた手つきで理事会を進行させていく。


 ――ギロリと秋風の眼球が僕を捕らえた。


 「春茅君……仲間を呼んだつもり?」

 「……君だってやってる事だろう?」


 ――だからなんだ。ちと先輩と比べれば、どうと言う事もない!


 秋風は平然と司会の座を譲ると、再び僕の隣に腰掛け長い脚を組んだ。その視線が僕の内心を探るべくねっとりと蠢動するも、何も成果を得られない。


 僕は今……とても落ち着いている。だって、勝算が少しずつ見えてきたからね。


 「それでは投票を行います。議長の寺島理事に議決権はありません。また、投票方法は記名投票と定款に記載されておりますので、氏名の書かれていない投票用紙は無効になります。では、深井理事、塩屋専務理事、投票をどうぞ」


 愛梨先輩は淡々と言った。片手には油性のマジック。おもむろに立ち上がると、開票結果を書くべくホワイトボードに向かう。


 ……改めてルールを確認しよう。投票は秋風の生徒会長就任に対して賛成か反対か。票数は全4票で。過半数を得た方が理事会の議決となる。


 ――既に賽は投げられた。そして、


 「クククッ! こんな小細工までしたようだが、無駄だ寺島!」

 「無駄かどうかは、開票すれば分かる事です」

 「実に愚か! ゴミはゴミらしく算数も出来ないらしいなッ! 田丸票塩屋票玉坂票に深井票! 全ての票が秋風に入れられるのだ! 貴様の勝利などあり得ないッ!」


 実に盛り上がる議場を尻目に、ソファの方は静けさを取り戻していた。秋風が人を食ったような視線で僕を射貫いたのだ。


 「春茅君……本当にこの私に勝てると思っているの? 仮に子豚理事が裏切っても、私の3票は揺るがないのに?」

 「もちろん。もっとも、君の思ってる勝ちとはちょっと違うかもしれないけれどね」

 「……約束は、守って貰うからね? 泣いても詫びても、許さないからね?」


 言うまでもない。ゾワリと悪寒が走るような吸血鬼の視線が、僕の身体を舐め回す。


 ……だからなんだ。僕は――ちと先輩の夫になるんだ! こんなところでつまずいている暇は無い!


 「君の方こそ、約束は守って貰うからね……!」

 「……っ! あははッ! 勝つつもり……なんだ……!」


 同時に秋風が人目を憚る事無く僕を、それこそキスしそうなほどの至近距離で覗き込んだ。赤い唇からは白い八重歯が濡れた姿をチラリと覗かせ、暗黒の瞳孔はグッと開かれている。


 あまりの早業に後ろで他の生徒会員達が思わず息を飲んでいた。思わず僕も反射的に後ろに下がろうとして……ソファの背もたれに阻まれてしまった。


 ……くそっ! 彼女、こういうのは得意なんだよな! 分かっていても反射的にどきっとしてしまう!


 そのまま秋風は唇で僕の頬をゆっくりと食みながら、僕の耳に到達すると、静かに言葉を流し込んだ。


 「無駄よ春茅君? 私が前会長の弱みを持ってないはず無いじゃない?」

 「……っ!? それは……」


 ――嘘だ。何故か僕には即座にそれが理解できていた。


 それに、ここまで来て日和るわけにもいかないか。


 「勝負だッ秋風ッ!」

 「乗ったわ春茅君ッ!」


 見れば、既に愛梨先輩は開票を終えてホワイトボードに結果を記し終わっている……!


 「私の勝ちだ寺島ァッ!」


 同時に高らかに勝利宣言したのは塩屋専務。その瞳は大きく見開かれながらホワイトボードに吸い込まれていて……


 ――同時に、才賀先輩もまた愉快そうに笑っていた。


 ホワイトボードには愛梨先輩の達筆な字で意訳して次のように記されていたのである!


 秋風さんの生徒会長就任賛成:2票

 春茅くんの生徒会長就任賛成:2票

 無効票:1票


 「なんだこれはァァァッッッ!!!? 能登ッ! 貴様何を考えているゥッ! 嘘を書くとは、推薦を取り消されたいのかァァッ!!!!」

 「そのようなことはありません」

 「ならば、内訳を読み上げろッ!! こんな結果はあり得ないィィィッ!!!」


 正面から脅された愛梨先輩は、涼しい顔でそれを受け流していく。そうして、彼女は静かに僕に微笑んだ。


 「はい。塩屋票……秋風。田丸票……秋風――」

 「当然ッ! その先が問題だッ! あの豚はともかく、玉坂票はどうなった!? あれは通例専務の私に委任されていて――」


 机を勢いよく叩くや、怒鳴りかからんばかりの勢いで愛梨先輩に詰め寄っていく。しかし対する愛梨先輩は無表情。のれんに腕押し。そのプラスでもマイナスでもない反応に、塩屋専務は困惑していた。


 いや、あれはどっちかって言うと、他人の聞き分けのない子供を眺めているような……


 「続いて深井票……春茅」

 「当然だこの野郎ッ! バーカバーカ! よくも好き放題言ってくれたな! お返しだッ!!!!」


 同時にここまで黙りこくっていたテルさんが猛然と吠えかかった。


 その捨て身の反撃に、しかし塩屋専務は怯まない。彼はこの程度の衝突であれば、更なる力でねじ伏せられると思っているのだろう。


 「良い度胸だッ! 糞豚ッッッ! セクハラの貴様は2度とこの学校の門を潜らせんッ! いや、社会的にも抹殺してくれるッ!」


 あまりの剣幕にテルさんは少しだけビビってしまい――そう、少しだけ、だった。


 「やって見やがれッ頑固ジジイ! 腐臭のキツいお前なんかの風下に立ちたくもないッッッ!!!」


 そこで秋風の表情が変わった。テルさんの自信溢れる態度に僕の暗躍を悟ったのだ。恐喝王は屈辱に塗れた顔で僕を見た。


 「……やってくれたわねッ! 春茅君ッッッ!」

 「秋風……遅いッ!」


 ――何をしたのか知らないけれど、豚も煽てりゃ舞台に昇る。子豚理事を煽てて捨て身の反撃なんて……面白いッ! 


 戦いの興奮に酔った秋風の気持ちが痛いほど伝わってきた。それは伝染するように僕をも戦いの喜びで満たしていき――


 だけども、舞台で楽しく踊る僕たちの思惑を読めない不作法者が1人。自らが世界の中心だと本気で思っている男が、現実を認められぬあまり吠えたのだ。


 「豚ァッ! 私は立浜高校理事としてェッ! 生徒に対するセクハラ疑惑を追及させて貰うッ! 愚かな兄の後を追う準備は良いかッ!?」


 ――秋風の振りかぶった(恐喝)の一撃と、それを守ろうとする僕の勾玉(推理)の加護。テルさんを巡る第2ラウンドが幕を上げたのだ……!


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