第二章 14話 伝説の冒険者
蒸気機関が発達した都市グラン・ロア
そこで暮らす政府高官の一人娘、アリシア・フォン・ベルクは、大企業の御曹司に失恋してしまいました。
失恋の傷も癒えないまま、アリシアの周りには様々な事件が巻き起こります。
そんな彼女の前に現れたのは、御曹司と顔がそっくりな従兄弟のレオン・アシュフォード。
顔は瓜二つなのに、性格は正反対。自由奔放なレオンに振り回されながらも、アリシアは少しずつ世の中を知り、成長してゆきます。
そしていつしか彼のことを……。
蒸気都市グラン・ロアを舞台に、謎と事件を解き明かすスチームパンク物語、開幕です!
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※本作は小説家になろう、カクヨムで同時掲載しています。
「私は知る必要があります! 私はもう、守られるだけの子供ではありません! 何も知らされないまま不気味な護衛に囲まれ、母様の死の真相も分からないなんて、絶対に嫌ですわ!」
アリシアが机を両手で叩くと、父はハッと目を見開き、驚愕したように私を見つめた。そこにいたのは、従順な娘ではない。己の足で立ち、真相を求める一人の女性だった。
父は幾度か唇を震わせ、やがて力なく肩を落とした。背もたれに深く体を預け、絞り出すような溜息をつく。
「分かった……長くなるから、座りなさい」
対面の革製ソファに腰を下ろすと、父は遠い目をして、誰も立ち入ることの許されなかった記憶の扉を開けた。
「エレノアが原因不明の重病に倒れたときのことだ。王都の名医を集めても余命数か月と告げられ、私は正気を失いかけていた。そんな折、ある噂を耳にしたのだ。極北の霊峰にのみ咲く『氷晶華』という霊薬があれば、どんな熱病も治せるとな」
「氷晶華……」
「だが、その霊峰は猛雪と魔獣が吹き荒れる未踏の地。国家の騎士団すら踏み込めん場所だ。そこで私は、当時『王国最強』と謳われた一人の冒険者に、私財の半分を投じて秘薬の採取を依頼した。……それが、アーキボルト・スターリンクだ」
「――っ!?」
その名を聞いた瞬間、頭の中で雷が落ちたような衝撃が走った。
アーキボルト・スターリンク。
それは、お母様が何度も読み聞かせてくれたあの本『夜明けを開く剣』のモデルとなった、伝説の冒険者の名前だった。
「……そうか、お前も知っているな。エレノアが最も愛した物語の主人公だ。アーキボルトはエレノアの病状を知り、報酬など二の次にし、『必ず救ってみせる』と単身で極北へ旅立った」
父の手が、激しく震え始める。
「そして三か月後……彼は戻ってきた。右腕の骨を砕かれ、肉を削がれ、二度とまともに剣が振れぬ体になりながら……奇跡的に霊薬を持ち帰ったのだ」
「なら、どうして……!」
「……遅すぎたのだよ!!」
父が怒号を上げた。その目から涙が溢れ落ちる。
「彼が館の門を叩いた時……エレノアは、そのわずか一時間前に息を引き取っていた。ほんの……ほんの数刻、遅かったのだ……!」
父は顔を覆い、痛切な痛みに耐えるように身を折った。
「絶望した私は、理性を失っていた。ぼろぼろになって薬を差し出す彼に『なぜもっと早く来なかった』『お前が殺したようなものだ』と理不尽な暴言を浴びせ……約束した報酬も払わず、私兵を使って街から叩き出したのだ。……私の、見苦しい八つ当たりのために」
アリシアは言葉を失った。命をかけて秘薬を持ち帰った英雄に与えられたのは、感謝ではなく、理不尽な絶望と追放だったのだ。
「……その後、傷の後遺症で冒険者を廃業した彼は、荒れ果て、裏社会の用心棒へ落ちぶれた。かつての栄光を捨てるように名も変えた『クリスタ・ボールド・アーキン』とな」
部屋には重い静寂が降り積もった。
「本来、私が責任を持って、彼の面倒を見るべきなのだろう。だが、裏の仕事と関わりを持ち、アリシアにまで危険が及ぶかも知れないと思うと、彼を受け入れる訳には行かなかったのだよ」
母の死の真相。父の犯した悔恨。そして、英雄から狂人へと身を落とした男の悲劇。
アリシアは静かに立ち上がり、父の震える手に自分の手を重ねた。
「お父様。……私に、彼と話しをさせてください」
「アリシア……?」
「彼は今も、母様を救えなかった悔恨に苦しんでいます。そしてお父様も、過去の罪に苛まれ続けている。……このまま終わらせてはいけません。彼はまだ、やり直せるはずです」
父は涙に濡れた目でアリシアを見つめ、静かに頷いた。
蒸気都市グラン・ロアの物語、第二幕。アリシア・フォン・ベルクの新たな物語が始まりました!
第二章から、更新ペースを変更します。
各章は二十話前後、一話あたり千〜二千文字弱を予定しています。前作を読んでいなくても楽しめる内容になっておりますので、初めての方もお気軽にお読みください。
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