↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『失恋した完璧令嬢は、歯車仕掛けの蒸気都市で恋と謎を解き明かす』  作者: かあまる01


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/20

第一話 母によく似た女

 蒸気機関が発達した都市グラン・ロア

そこで暮らす政府高官の一人娘、アリシア・フォン・ベルクは、大企業の御曹司に失恋してしまいました。


 失恋の傷も癒えないまま、アリシアの周りには様々な事件が巻き起こります。


 そんな彼女の前に現れたのは、御曹司と顔がそっくりな従兄弟のレオン・アシュフォード。


 顔は瓜二つなのに、性格は正反対。自由奔放なレオンに振り回されながらも、アリシアは少しずつ世の中を知り、成長してゆきます。


 そしていつしか彼のことを……。


 蒸気都市グラン・ロアを舞台に、謎と事件を解き明かすスチームパンク物語、開幕です!

 巨大な蒸気ピストンが朝一番の息吹を吐き出し、軽快な駆動音がグラン・ロアの街に響き渡る。


 白い蒸気が煙突から勢いよく立ち昇り、朝日に照らされて淡く輝いていた。時計塔の鐘が澄んだ音を響かせれば、通りでは蒸気車が走り出し、工房では歯車が回り始める。


 機械仕掛けの街が、今日も活気に満ちた一日を動かし始めていた。


 グラン・ロアの高台には、白い石造りの建物が整然と並ぶ上層区がある。街の喧噪を遠くに見渡すように、レイウッド公爵家の屋敷が建っていた。


 屋敷の一人娘のアリシア・フォン・ベルクは、屋敷のバルコニーで欄干に手をかけ、眼下に広がる街並みを眺めていた。朝の心地よい風が、アリシアの長い銀髪をさらっていく。


 新鮮な空気を浴びて、身体が徐々に目覚めてくると、廊下から二人分の靴音が聞こえてきた。どうやらこんな朝から来客のようだ。


 アリシアはどんな方がいらしたのかと、部屋から廊下を覗き込む。すると執事に案内されて、一人の女性が廊下の奥から歩いてくる。どうやら奥のアトリエに向かっているようだ。


 その女性は遠目からでも、仕立ての良いドレスに優雅な仕草、貴族の令嬢と言われても遜色ないほどの気品をまとっている。


 アトリエに向かっているということは、またお父様の趣味の人物デッサンかと、アリシアの口からため息が漏れる。


 母エレノアを若くして亡くして以来、寂しさを埋めるように、父が女性の肖像画に没頭する姿を、アリシアは何度も見てきた。


 母を失った悲しみはアリシアも十分に分かる。父を責めることなどできないけれど、娘としては複雑だった。 


 そんな考えが頭を巡ると、女性はアリシアの部屋に近づき、通り過ぎようとしている。二人の視線が合うと、彼女はアリシアの方を向いて微笑み、会釈した。


「ごきげんよう」


 アリシアは、女性の顔を間近で見た瞬間、息が止まった。胸の奥を、冷たい指で撫でられたような感覚が走る。


 見間違えるはずがない。銀色の髪。横顔の輪郭。そして、首をわずかに傾ける仕草。


 ――お母様……? アリシアの想いは声にはならなかった。


 そこにいたのは、若くして亡くなった母、エレノアとあまりにもよく似た女性だったから。


 彼女が父のアトリエへ消えていく姿を見て、胸の奥がざわついた。母に似た顔、髪型。そして父の絵画のモデル。偶然だとは思えなかった。


 まだ父は、母の面影を追い求めているのではないか。それとも、彼女がお父様に取り入ろうとしているのではないか? 


 アリシアはすぐさまドレスの裾を摘み、廊下を走り出していた。胸の奥に、嫌な予感が渦巻いている。


 父のアトリエの扉が、まるで秘密を隠すように閉じられていく。扉が完全に閉まりきる前に、アリシアは手を伸ばして扉を叩く。


「お父様!」


 返事を待たずに、扉が開く。


「アリシア、何だね、そんな大声を出して」 


 父の無頓着な態度に、アリシアは怒りが湧いてくる。お客様の前だというのに、つい感情的になってしまう。


「お父様、どういうことですか! お母様に似た女性を描くなんて……お父様は、それで満足なのですか! 私には、お父様がお母様の代わりを探しているように思えてなりません」


「違う、アリシア。私はそんな意図はないんだ」


「では、なぜお母様に似た女性を描かれるのですか?」


「それは……」


 父は言葉を詰まらせたが、やがてアリシアを諭すように、声を抑えて頼むように言う。


「お前の気持ちも分かるが、今はお客さんが来ている。だから、あとで話そう」


 父はそう言い残して、無言でアトリエに戻ってゆく。おそらく、後になっても父は話すことはないだろう。アリシアはそう感じた。


 アトリエの扉が閉まると、アリシアは廊下に一人残された。目が潤み、涙が出そうになるが、こんなことで泣きたくはない。だから必死に涙をこらえる。


 父が黙って答えないまま、アトリエに行くのを止めなかったのは、冷静になって考えてみると、自分の行動があまりにも子供じみていると思ったからだ。


 廊下での問答を聞きつけて、最近着任したばかりの執事ギルバートが近づいてくる。


「アリシア様、いかがなされましたか」


「ごめんなさい。大きな声を出してしまって、お父様が母に似た女性を連れていたもので、つい……」


「先ほどの女性ですか? あの方はグラン・ロアで急成長している貿易会社の社長、ヴィクトワール・ローラン様ですが、何か気になることがありましたかな」


 執事がアリシアの気持ちをくみ取り、小声で告げる。


「貿易会社の社長……?」


 アリシアは、思わず聞き返した。


「はい。ヴィクトワール・ローラン様。グラン・ロアでは、ここ数年でかなり名を上げている実業家です」


「社長のような方が、なぜお父様のモデルをしているのかしら?」


「そこまでは、私にも……」


 執事は困ったように首を横に振る。


「そうですね……」


 アリシアは、閉じられたアトリエの扉へ視線を向ける。あの奥で父がデッサンしているのは、亡き母にそっくりな女性だった。


 貿易会社の社長ともあろう人物が、なぜモデルを引き受けたのか。単なる偶然で片付けるには、あまりに出来過ぎている。


(……あの女性は、一体何を目論んでいるの?)



蒸気都市グラン・ロアの物語、第二幕。アリシア・フォン・ベルクの新たな物語が始まりました!


各章は十話前後、一話あたり二千文字程度を予定しています。前作を読んでいなくても楽しめる内容になっておりますので、初めての方もお気軽にお読みください。


更新は月・水・金曜日を予定しています。


評価・感想・ブックマークなどをいただけると、とても励みになります。


どうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。