第7話:胃袋が覚えている温もり
「……ついてくるなと言ったはずだ」
「だって、シンが置いていこうとするから……ひゃうっ!?」
案の定、シンの三歩後ろを歩いていたミキは、何もない平地で派手にズッコケた。
シンのマントをぶかぶかに纏ったナイスバディが地面に転がる。シンは仮面の中で深くため息をつき、結局、日が暮れた荒野で野営を張る羽目になった。
「私、お礼に夕飯作ります! 剣はヘポコですけど、お料理は得意なんです!」
ミキはパタパタと慣れた手つきで焚き火を起こし、持っていた携帯鍋でスープを作り始めた。
その姿を、シンは仮面の奥から冷ややかに見つめる。
(俺はもう、食事の味などどうでもいい。ただ生きるための栄養を摂取しているだけだ……)
だが、数十分後。
手渡された木のお椀から漂う湯気を吸い込んだ瞬間、シンの身体が硬直した。
「……っ!?」
スープを一口、口に含む。
どろりと濃厚な木の実のコクに、微かな山椒の風味。
それは、かつて故郷の村で、妻の美紀が「シンの大好物だから」と、事あるごとに作ってくれた**『特製の猪肉スープ』**と、全く同じ隠し味だった。
「どうですか……? お口に合いましたか?」
ミキが上目遣いで、不安そうにシンの顔を覗き込んでくる。
シンはスープを持つ手を激しく震わせた。この味は、美紀が独自に編み出したレシピのはずだ。なぜ、初対面の、それも別の街の駆け出し戦士がこの味を作れる……!?
「お前……この隠し味は、どこで……!」
「えっ!? あ、ええと……お、お母さんから教わった、我が家の秘伝の味なんですぅ!」
ミキは冷や汗を流しながら誤魔化したが、シンの動揺は収まらない。仮面の下で、シンは口元を押さえ、涙が溢れそうになるのを必死に堪えていた。




