ご利用は計画的に……。
「さて……では本題に入りましょうか。」
エヴァンジェリンは、どこから準備したのか……近くにあった椅子に腰をかけると、手を組んだ。
「……ひっ……」
「と、言っても……話はほとんど終わっているんでしたね。」
ルピナスト伯爵夫妻は、エヴァンジェリンの顔を見ることができず、すっと視線をそらした。
そんな中――
一人のヴィオラに似た女だけが今の状況を飲み込めていないのか、キッとエヴァンジェリンを睨んだ。
「……全部あなたのせいよ……」
「あなたのせい?おかしいですね。私のせいなわけないじゃないですか。全てはご自分たちの行いのせいですよ。」
エヴァンジェリンの驚くほど穏やかな声に、ふだん一緒にいる人達は息を呑んだ。
(……やばいな。あれは相当頭にきてるぞ……)
「おい、ヴィオラ。ここを止められるのはお前しかいない。頼むから止めてくれ。」
「無理に決まってるでしょ?ああなったお嬢様を止められるのは……今のところ誰一人いないわ……」
目の前で膝を着くルピナスト夫妻に、揺れることなく一定のリズムで話し続けるエヴァンジェリン。
それはどこか、人形のような雰囲気さえ醸し出していた。
「闇オークションへの関与。
横流しされたウイスキー。
王族の名を盾にした私物化。
それから――私の侍女を屋敷から追い出した件」
エヴァンジェリンは、予め準備してきた内容を、
一つ、また一つ。
数を数えるように指を折りながら、楽しそうに話していく。
「どれか一つでも、貴族家としては致命傷ですのに……欲張りすぎましたね、ルピナスト家は」
伯爵の喉が、ひくりと鳴った。
「あぁ、何故こんな小娘が知っているのかって思いました?」
「ふふふ……それはですねぇ……」
エヴァンジェリンは一度言葉を区切ると、少し間を置いてから、
「秘密に決まってるじゃないですかぁ……」
一言伝えると、少し口角をあげて微笑んだ。
「でも……そうですね……一つだけお伝えさせていただくとすれば……」
エヴァンジェリンは少し首を傾げると、目を大きく見開いて……
「あなた方は私の大事な家族の一人を傷つけた。それ以外でもそれ以下でもございません。」
組んでいた足を解き、すっと椅子から立ち上がると、ゆっくり、けど確かにルピナスト伯爵に近づいていく。
そして耳元で囁いた。
「ご安心ください。もう全て、提出済みですから」
「王都にも、監査にも、そして――この領地全体にもね……」
その言葉の意味を理解した瞬間、ルピナスト伯爵の瞳から、完全に光が消えた。
勝負は着いたとでも言うように、エヴァンジェリンは小さく笑った。
刹那、ルピナスト伯爵は泡を吹いてその場に倒れた。
「エヴァンジェリン……そのくらいにしておけ。」
見るに見かねたユリウスが肩を叩くと、エヴァンジェリンはユリウスを見た。
「ユリウス……?でもこれからがいい所なのに……」
ユリウスはため息を吐くと首を横に振ってから、気絶しているルピナスト伯爵に視線を向けた。
「見ろ……もう伯爵には聞こえていない……」
ルピナスト伯爵だけでなく、夫人とヴァイリスもカタカタと肩を震わせて白目を向いている。
「本当ね。これは聞こえないわ」
エヴァンジェリンはつまらなそうに唇を尖らせると、顔を元に戻してから、観客席を見た。
そして、一つの場所に視線を留めると満面の笑みで手を振る。
「ヴィオラー!お待たせぇぇぇ!!あ、クラウディウスもぉ~」
(俺はついでか……まぁ、いいが。)
ヴィオラは、エヴァンジェリンの横に転がっている三人を一度見ると、すぐに視線を元に戻しエヴァンジェリンにズカズカと近づいた。
ガシッ
「お嬢様、これは一体どういう事でしょうか?私何も聞いていないのですが……」
肩を掴むと、前後に揺らす。
「わわっ……首がもげるわ……」
「そんな簡単にもげないので安心してください。それよりも……」
揺らしていた方をピタッと止めると、ズイっと額を近づける。
「せ・つ・め・い!してくださいますね?」
「わ、わかったから……」
ユリウスとクラウディウスは二人のやり取りを見てクスッと笑った。
「ユリウス様、あなたもあなたですよ!なぜあなたがついていながらこんな所に来ているのですか。」
「えっ!?俺……?」
「しかも、その服装……楽しそうでしたね。」
「いや……これは仕方なくだな……」
「問答無用です!!」
ユリウスとエヴァンジェリンはその場に正座させられると、その後ヴィオラが納得するまで今回の話をさせられた。
***
「無事に話は終わったらしいな。」
「レオニダス兄上、セヴェリオ兄上も……何故ここにいるんですか?」
エヴァンジェリンたちが話を終えると、クラウディウスの兄たちが戻ってきた。
「姫さん。準備は終えといたぞ?」
「レオ、姫さんは辞めてって言ってるじゃない。」
「いや、でも俺にとったら姫さんは姫さんだからなぁ……」
ガシガシとガサツに髪をかくレオニダス。
あまりに仲良さそうに話す二人の姿を見てクラウディウスは目を見開いた。
(どういう事だ……)
ヴィオラも同じ事を思ったのか、二人を交互に見ると、事情を知っていそうなユリウスへと目を向けた。
「あぁ~……二人は前から知り合いだったらしいぞ?」
「「えっ!?二人が!?」」
ユリウス自身も、二人が知り合いだったのはつい数日前だった。
そのため、エヴァンジェリンとレオニダスが楽しそうに話す姿を見て、ユリウスも同じように目を見開いたのだ。
「これでやっと話が進められるな。」
「えぇ……ついに……ここまで来たわね。」
何を企んでいるのか……
楽しそうに話す二人を見て、その場にいた全員がため息を吐いた。
そしてその中心で、エヴァンジェリンだけが、楽しそうに次の一手を考えていた。




