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酔っ払い令嬢の英雄譚~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~  作者: ゆずこしょう
ご利用は計画的に……。

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転落。

「ぷはぁ~!!ひと仕事終えたあとのビールは最高よねぇ~!!」


ドンッ


スタッフの女は、麦酒をごくごくと飲みきると、乱雑に口を手で拭って、そのまま勢いよくテーブルの上にグラスを置いた。


そして、トレードマークとも言えるグルグルメガネを外すと、あら不思議。


そこには赤い瞳を持つエヴァンジェリンが、頬を赤らめながら立っていた。


「お、お、おまえ……何故ここに……」


エヴァンジェリンに気づいていなかったヴァルターは彼女を見た瞬間、顔色を変えていく。


「えぇぇ~?っていうか、あんた誰よ」


「……ッ」


しかし、エヴァンジェリンは興味が無いのか、吹き飛ばされたユリウスの方に向かって歩いていった。


「ユリウス。大丈夫?」


唇が切れたのか、少し血が滲み頬が赤くなっている。


「あぁ、大丈夫だ」


床に手をつきよろよろと立ち上がると、ユリウスと呼ばれた競売人は、メガネを外した。


そしてボサボサになっていた髪を軽く整える。


「お、お前がなんでここに……」


(いや、エヴァがここにいる時点で何となくわかるだろうが……)


ユリウスはヴァルターを見ると、軽く微笑んだ。


「そんなことはどうでもいいんですよ。それよりも今はあなたです。ヴァルター第四王子。なぜ、貴方がこちらに?ここは……」


その問いは、責めるでも、怒るでもなかった。


ただ、事実を確認するように――


いや、逃げ場を一つずつ塞ぐように、淡々と投げかけられる。


「闇オークション会場。王族自身が禁止している会場ですよ?」


ユリウスの言葉に、その場にいた誰もが、思い出した。


王族自身が、決して足を踏み入れてはならないと定めた場所であることに……


「さて、説明してもらいましょうか?ヴァルター第四王子殿下……」


その瞬間、場内にいた人たちが立ち上がって、扉目がけて走り出した。


「これは……やばいんじゃないか……!?」


すると――


「おぉ~っと……ここから逃げることはできませんよ?」


クラウディウスが扉に向かおうとすると、扉の前にはよく見知った顔の男が立っていた。


「セヴェリオ兄上!?」


「よぉ~クラウディウス。元気か?」


「お、クラウディウスじゃないか。それに……その隣にいるのは、ヴィオラか!?大きくなったなぁ!」


「レオニダス兄上まで……なぜここにいるんですか!」


クラウディウスは目の前に現れた兄たちに声をあげると、二人は豪快に笑いながら、壇上へと視線をやった。


(……あぁ、そういうことか……)


「じゃあ、続きをはじめましょうかぁ~」


エヴァンジェリンがパチンと指を鳴らすと、場内の扉という扉が、重たい音を立てて閉じられた。


「ここからは、第二回闇オークション開催よぉ!」


エヴァンジェリンの声に、立ち上がった人たちも逃げきれないとわかったのか……


座っていた場所へと戻っていった。


***


「それで……自称第四王子様は、こんな所で何してるんですか?」


「自称じゃねぇ!本当の事だ!!」


「うわっ!!」


ヴァルターがエヴァンジェリンにつかみかかろうとした瞬間、ユリウスが勢いよく引き寄せ、そのまま両腕を背中でねじあげた。


「婚約者でもない女性を触ろうなんて……王族がすることではありませんね。自称第四王子」


「うっ……」


関節がきしみ、ヴァルターの体は一歩も動かなくなった。


「……それとも、あなたの中では“王族”とは、力で女性をねじ伏せる存在なのでしょうか」


「は、離せ!」


ヴァルターが動けば動くほど、締める力が強くなっていく。


「無駄ですよぉ~。だって、自称第四王子さんは……」


エヴァンジェリンはヴァルターの前にしゃがみ込むと、満面の笑みで――


「ふふっ……現行犯逮捕ですもの~!!」


「お、おい……俺は第四王子だぞ!こんな事していいと思っているのか。」


「さっきから馬鹿の一つ覚えみたいに同じ言葉ばかり。」


エヴァンジェリンは視線を上に向けて少し考えると、軽く手を合わせてにこりと微笑んだ。


「あぁ、馬鹿だから同じ言葉しか出てこないのか……」


「な、なん……だと」


「あら?また同じように第四王子といいますか?」


「……クソッ……」


「ふふっ……何も言えないんですねぇ」


エヴァンジェリンの目は、もう笑っていなかった。


「でも、安心してください。ちゃんと“終わり”は……用意してありますから」


そう言って、彼女は周囲に控えていた騎士たちへ、軽く視線を送る。


その意図を正確に理解したのだろう。


騎士たちは無言のまま、ズルズルと――


まるで“荷物”でも扱うかのように、人を引き摺ってきた。


床に擦れる音が、やけに大きく響く。


「この方たちをご存知ですよね? ヴァルター様」


「お、俺は知らないぞ!」


声が、わずかに裏返った。


否定の言葉とは裏腹に裏返る声。


その全てが嘘であることを物語っている。


「この方たちは貴方の派閥の方ですよね?そして……」


エヴァンジェリンはヴィオラの方を向くと柔らかい笑みを浮かべた。


しかし、それも束の間──


エヴァンジェリンは無表情へと切り替えると同時に、騎士たちが連れてきた者たちを見据えた。


「そこにいる、私の侍女──ヴィオラを屋敷から追い出した、ルピナスト伯爵とその夫人、そして、あなたの愛人の一人。ヴァイリス・ダリア・ルピナストです。」


「あ、あ、愛人!?」


愛人という言葉を聞いて、今まで黙っていたイザベラがついに大声をあげた。


「もしかして知らなかったんですか?この方は至る所で女に手を出すクズ野郎なんですよ。」


「な、な、なんですって!?」


「お、俺はそんなことはしていない……」


イザベラはキッと目を吊り上げると、金切り声を上げてヴァルターへと近づいていく。


しかしエヴァンジェリンはイザベラを放置したまま話を続けた。


「ほら、あの時だって、ユリウスの元婚約者の味方をしていたでしょ?あの場ではごまかしたつもりでいたようですが……あの人も元愛人ですよ?」


その言葉を聞いた瞬間、イザベラの持っていた扇子がヴァルターの頬をかすめた。


パチーン!!


「本っ当に最低ね。これはお父様に報告いたします。」


それだけ言うと、イザベラはズカズカとその場を去って行く。


「ま、待ってくれ……ルゥー!……」


イザベラは一旦止まると、何を思ったのかかかとを返してヴァルターの前へと戻ってきた。


「そうそう。私のことをルゥーと呼ぶのは金輪際やめてちょうだい。虫酸が走るわ。それと、こちらは全てお返しいたします。」


つけていた宝石類をその場で全て取るとイザベラはヴァルター目掛けて投げつけた。


「どうかお元気で。」


それ以降、イザベラはヴァルターを見ることはなかった。

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