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酔っ払い令嬢の英雄譚~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~  作者: ゆずこしょう
ご利用は計画的に……。

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消えたウイスキー。

『ルピナストの件についてはあらかた資料が揃ったわね。』


――オークションが始まる、数日前。


グレンヴァリアの別邸にある執務室では、エヴァンジェリンがルピナストの件についてまとめていた。


『まさか……うちのお酒を闇オークションに流していたなんてねぇ……そりゃ、数も合わないはずよ。』


グレンヴァリアの書類には毎年千本のウイスキーをルピナスト伯爵領にある倉庫に置いていることが書かれている。


今年に入り、シルヴァリア公爵家として出したウイスキーの数は――


僅か三百本だった。


しかし、倉庫にあったウイスキーの数は五百本。


『二百本のウイスキーを横流ししていたのか……』


『恐らく自分たちで飲んだものもあるんじゃない?ウイスキーは作るのに時間がかかるから、本数をそんなに用意できないし……二百本でも大きな損失だわ。』


エヴァンジェリンは、ペラペラとウイスキー台帳をめくりながらため息を吐く。


『でも、一本出したら記帳するというのを徹底させていたのが幸いしたわね。お陰で無くなった数がすぐに分かるもの。』


そして、読み終わるとパタリと閉じた。


『それに、元からルピナスト伯爵家は信用していなかったしね』


『信用していなかった……なのに何故、伯爵領へ……?』


『そんなの決まっているじゃない』


エヴァンジェリンは不敵な笑みを浮かべると、当然とでも言うように言い放った。


『ウイスキーの保管場所に適していたからよ!それに……』


『前から……目をつけていたの。邪魔な家には消えてもらいたいって……ね?』


エヴァンジェリンはユリウスの前に数枚の報告書を出した。


『これって……?まさか……』


『そう、そのまさかよ?』


ユリウスが報告書を開くと、そこにはルピナスト前伯爵の事故について細かく書かれていた。


―――――


《ルピナスト伯爵家当主夫妻 馬車事故に関する調査報告書》


発生日:XX年X月XX日


発生時刻:日没後


発生場所:ルピナスト伯爵領からヴァリオン辺境伯領に続く街道


概要:

ルピナスト伯爵家当主一家を乗せた馬車が街道走行中に転倒。

馬は即死、当主夫妻は重傷。娘は軽傷。

応急処置の後、屋敷へ搬送。

数日後、両名ともに死亡を確認。


原因:

馬車の車輪が街道の凹凸に取られ、制御不能となったことによる事故と判断。


―――――


『この内容を読む限り、ただの事故にしか見えないな』


『そう、ここまでは……ね。この先を読んでちょうだい?』


エヴァンジェリンが報告書を1枚めくる。


―――――


付記事項:

・事故当日、使用された馬は、当初予定されていた個体とは異なるものが用いられていた。

 なお、変更理由についての記録は残されていない。


・御者は生死不明。事故後、近辺を探したものの見つからず。事故の状況から、生きている可能性は少ないと判断し、捜索を打ち切る。


・娘に聴取しようとしたが、事故のショックから当時の状況は覚えておらず、聴取は不可能と判断。


・事故現場付近に、別の馬車が通過した形跡あり。

 ただし当該件についての追跡調査は行われていない。


・街道および馬車の整備状況について、詳細な点検記録なし。


・本件は「不慮の事故」として処理され、追加調査は不要と判断。


―――――


『これって……』


『誰かが事故として処理させたかったんでしょうね。まぁ、なんとなく想像はつくんだけど……』


ユリウスはその後も報告書の内容を読み続ける。


そして、読み終わる頃にはユリウスの眉間にしわが寄っていた。


『ヴィオラが、まさか……ルピナスト伯爵の正当な後継者だったとはな……』


『そうなのよ。まぁ、前から分かってはいたんだけど……』


『知ってたのか?』


エヴァンジェリンはメガネを軽く持ち上げると、ふふっと鼻で笑った。


『勿論!だって……』


その笑みを見た瞬間、ユリウスの背中に嫌な予感が走る。


『……だって……?』


『雇用主だもの!!相手のことはちゃんと知らないといけないわ。こういうのは信頼関係が大事だからね。』


その言葉を聞いたユリウスは眉間のシワを伸ばすようにグリグリとさする。


『なら、なんで俺のことは知らなかったんだ?』


エヴァンジェリンは一瞬だけ考える素振りを見せて――


視線を泳がせた。


『ん~……あれは調べる前だったのよ。そうそう……調べようとは思ってたの。だ、だから……』


一拍置いてから、急に声の調子を変える。


『そ、それよりも!これから着いてきて欲しいところがあるの。ほら、早く行きましょ!』


ユリウスの背中をグイッグイッと押しながら、無理やり話を変えようとするエヴァンジェリンに、ユリウスは思わず喉を鳴らした。


(あれは……絶対忘れていたな。)


気づかれたくないのか、必死に平静を装う彼女の頬は、分かりやすいほど赤くなっている。


『な、なによ……』


『いや、別に何も言っていないぞ?』


『そう……?ならいいんだけど……それよりも早く行くわよ!』


そう言って踵を返した彼女の背中は、いつもの――


すべてを掌の上で転がす公爵令嬢のものに戻っていた。


(……ったく……これからどこに行くんだか……)


ユリウスはエヴァンジェリンの背中を追いながら、この後何が起こるのか――


それを考えただけで、胸の奥が嫌な音を立てた。


(……嫌な予感ってこういうことを言うのか……!?)


『さぁ、行くわよ。』


『どこにだ!?』


『それは秘密……着いてからのお楽しみね。』


こうして、闇オークション開催日まで振り回されることになるとは――


この時のユリウスは、まだ知らなかった。

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