夢のひととき。
「すごいわね……」
仮面の奥で、ヴィオレッタが小さく息を吐いた。
「あぁ、よくここまでの品を集めたものだ……」
「品物だけじゃなくて、人の話よ。」
オークション会場内――
どこから集まったのか……
ここに来るまで1台の馬車ともすれ違うことはなかったというのに、中に入ればたくさんの人が集まっていた。
(仮面をしていても、高貴な人ばかりの集まりだということは分かるわ……)
「あぁ、そっちか……」
クラウディウスはあまり人に興味がないのか、並んでいる装飾品や、絵画などを見ている。
そんな時――
場内が急に騒がしくなった。
「今回も来たな……」
「隠しているようだが……全く隠れていないよな。」
クラウスたちは一瞬顔を見合わせると、騒ぎのする方へと足を向けた。
すると、
そこには――
煌めくドレスに身を包んだ男女が立っていた。
「あれって……」
クラウスはその二人を見て唖然とする。
「そうね。あなたが言いたいことは間違っていないわ。」
(ヴァルター殿下とイザベラ姫がなぜここに……)
言葉に出すことができないことを知っているクラウスは、その言葉を飲み込んだ。
そして、二人の会話に耳を傾ける。
「ふふっ……ウィー、聞いた?今回は幻のウイスキーだけでなく、幻の宝石と、布まで出るらしいわ。」
「幻の宝石と布か……きっとその二つをまとったルゥーは綺麗なんだろうな。」
(おいおい……こんな所で大っぴらに……)
二人がミドルネームで呼び合う姿を横目で見ていると、少し年を取った小太りの男が現れた。
「ようこそおいでくださいました。」
「そう固くならないでくれ。私達も遊びに来ているだけなのだからな。」
額にうっすら浮かぶ汗をハンカチで拭きながら、少し高いところにある席へ案内する。
そして、二人が席についたことを確認すると、他のスタッフたちが動き出した。
「皆様、これよりオークションを開始いたします。お席についてお待ちいただきますようお願いいたします」
スタッフの言葉を合図に、その場にいた人たちが一斉に椅子に腰をかける。
「私たちも座りましょう」
「そうだな……」
ヴィオレッタとクラウスが後ろの空いている席に座ると、ふっと灯りが消える。
そして、次の瞬間――
一点に光が集まった。
「皆様、ようこそお集まりくださいました」
低く、よく通る声が場内全体に響き渡る。
姿は仮面に隠され、性別すら定かではない。
ただ、その声だけが、確かにこの場を支配していた。
「今宵も――夢の時間を、お楽しみください」
「それでは……今日初めの一品はこちらです」
スタッフの一人がカラカラと台車を押して現れると、パッと掛かっていた布を取った。
場内の視線が、一斉に中央へ集まる。
「うぉぉぉ~……」
瓶の中でキラキラと黄金に光る液体を見て、皆が感嘆の声をあげた。
ポンッ
瓶のコルクを抜くと、
トクトクトク
中身をグラスに移していく。
シュワシュワ
「こちらは入手困難とも言われている一品です」
「注げば気泡が立ち、味については……ご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか」
競売人の言葉に、観客もゴクリと喉を鳴らした。
「……本物か……」
誰かわからないが、その声ははっきりと場内を駆け巡った。
場内を一瞬の静けさが埋め尽くす。
刹那――
パチン
競売人が指を鳴らす音が響き渡った。
その瞬間――
一斉に持っていた木札を上げ始めた。
「百」
「百五十」
「……二百」
どんどん釣り上がっていく金額。
あと少しで「千バルス」に到達しようというところまで来ると、
突然ピタリと競売人の動きが止まった。
「三千……」
「三千が出ました!」
競売人が木槌をコンコンと叩く。
「これ以上の方はいらっしゃいませんか??」
「では、三千オールにて、落札です。」
カンカンカン
先ほどよりも高い木槌の音。
全員が落札した人を一目見ようと、辺りへ視線を向ける。
「おい、あれって……」
「えぇ、シルヴァリア領で作っているお酒よ。ウイスキーとは違いシュワシュワしているのが特徴ね」
「……と、言っても、圧倒的にウイスキーの方が手間暇かかっているから、高いんだけどね。」
淡々と答えるヴィオレッタに、クラウスはそれ以上何も言うことはできなかった。
「それでも。なぜか根強い人気があるのよ。」
「まぁ、我が領地なら十バルスで買えるわけだし、いい商売よね。」
「じゅ、じゅ、十バルス!?」
ヴィオレッタの言葉に驚きを隠せないでいると、競売人は次の荷台を舞台の上へと運んでくる。
「……次はコチラです。」
そう言って布を取れば――
今度はキラキラとオーロラに輝く宝石が置いてあった。
光の色が、見る角度ごとに変わる。
まるで、宝石そのものが息をしているかのように見えるような状態に、今度は誰も言葉を発することができないのか……
シーンと
場内が静まり返った。
「こちらは世界でも片手で数えるほどしかないと言われている宝石です。」
周りが宝石を見て、言葉も出ないような状態に陥る中――
ヴィオレッタとクラウスだけが別のところに視線を向けていた。
「ヴィオレッタ……あの宝石……それにあのスタッフ……なんだか見覚えないか?」
「奇遇ね……私も同じことを思っていたところよ。それに……」
「あの、競売人も……」
バレないようにコソコソと話していれば、逆に壇上にいる二人が気づいたのか……
にこやかな笑顔を向けた。
そして、
カンカンカーン
それを合図に、次の札が、何事もなかったかのように上がった。
(……あの笑顔。なにか企んでる時の顔ね……)
ヴィオレッタは、競売人の隣に立つスタッフを見て静かに息を吐いた。




