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酔っ払い令嬢の英雄譚~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~  作者: ゆずこしょう
ご利用は計画的に……。

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豪族夫婦。

「エヴァンジェリンお嬢様は……急だな……」


「そうね。でもお嬢様のことだから、きっとなにか意味があるはずよ」


ガラガラ


馬車の中――


クラウディウスとヴィオラは、グレンヴァリアに隣接しているルピナスト領を目指していた。


「そう、か……。」


ヴィオラはそれ以上話すつもりがないのか、窓の外を見ることもなくただ前だけを見据えている。


(平静を装ってはいるが……)


強く握られた拳は、赤を通り越して白い。


(……見ていられないな……)


クラウディウスが握る拳にそっと手を乗せば、ヴィオラはビクリと肩を揺らした。


「大丈夫か?」


「え、えぇ……大丈夫よ」


クラウディウスと視線を合わせればにこりと微笑む。


が、しかし――


その顔に説得力はなかった。


(唇も真っ青じゃないか……)


クラウディウスはそんな状態のヴィオラをみて、過去のことを思い出していた。


『た、大変です!!ルピナスト伯爵が馬車で事故にあったと……』


『ヴィオラ様は無事なようですが、ご夫妻は……』


『ヴィオラ様が、ルピナスト伯爵家から居なくなったそうです……』


(あの時は……会うことも出来ずに、離れてしまったからな……)


クラウディウスは真剣な目でヴィオラを見た。


「……大丈夫だ」


「フリーゼのことは今度こそ俺が守る……」


「ルディー……」


ヴィオラは一度目を閉じ、胸に手を当てて深く息を吐いてからゆっくり目を開ける。


その目には先ほどまでの揺らぎはなくなり、いつも通りのヴィオラが座っている。


「ミドルネームで呼ぶのはやめてちょうだい。もう、私と貴方は何の関係もないのだから……」


「……は?」


いつものように淡々と返すヴィオラ。


しかし、その顔は少し口角が上がり、嬉しそうだ。


(……この違いは俺にしか気づかないだろうな。)


クラウディウスはコホンとわざとらしく咳をすると、そのまま窓の方へ目を向けた。


「本当、可愛げないな……」


(まぁ、そんな所もいいんだが……)


「残念ね。可愛げはお母様のお腹の中に置いてきてしまったのよ」


二人で軽口を言い合っていれば、馬車がピタリと止まる。


――コンコン


外から御者が扉を叩いた。


「どうやら、着いたみたいね」


二人は、高価そうな帽子を被り直すと、馬車を降りた。


「今日から君はヴィオレッタ、僕はクラウスだ。」


「ふふ……貴方が“僕”って……なんか変な感じね。その髪型も……」


普段は邪魔だからという理由で長い髪を後ろで一まとめにしているクラウディウスだが、今は邪魔だからと後ろで一まとめにすることもなく、きちんと整えられている。


「それは君もだろう。普段は化粧なんか興味もないくせに……」


「あら……こういう私も好きなくせに」


「……ッ」


ヴィオラの思いもよらない言葉に、返す言葉が見つからないのか――


顔を真っ赤にして固まった。


「ちょっと、そんな真っ赤にならないでよ。こっちまで恥ずかしいじゃない!!」


「いや……ちょ……す、すまない……」


「まぁ、いいわ。早く行きましょ」


クラウディウスの腕に自分の手を絡めると、ヴィオラたちは今日から住む予定の家へと向かった。


***


「そろそろあの二人も愛の巣に着いている頃かしら。」


その頃――


エヴァンジェリンは、グレンヴァリアの別邸で数年分の収支報告書を全て見直していた。


ルカリオスもその隣に座りながら、全ての書類に目を通していく。


「どうして、あの二人だったんだ?」


話しながらも二人の手が止まることはない。それだけ書類になれているということなのだろう。


(それは、俺も気になってきたところだ。)


エヴァンジェリンが一度ペンを置く。


「そんなの決まっているじゃない……」


(なんだ、初めからちゃんと考えがあっての事だったのか……)


楽しそうに笑うエヴァンジェリンを見て、後ろに仕えていたユリウスと、隣で仕事していたルカリオスは顔を見合せた。


「面白いからよ!」


しかし――


返ってきた言葉は思いもよらぬ一言だった。


「「面白いから……?」」


まさかの言葉に二人の声が重なる。


エヴァンジェリンは悪びれもしない様子で首を縦に振ると、「そうよ?」と一言返した。


(まさか……もっと意味があるかと思っていたんだが……)


「あぁ、あとあの二人なら大丈夫だと思ったのよ。今回は仲良さそうな豪族夫婦に見えなきゃ意味がなかったから……」


「豪族夫婦?」


「そっ。私の見立てが正しければ……だけど……」


「ふふ……ふふふ……ふふふふ」


思い出したように笑い出すエヴァンジェリンを見て、ユリウスとルカリオスは引いたような目を向ける。


そして、ユリウスはルカリオスの耳元でコソッと話す。


「あ、あれはやばい方のエヴァか?」


「いや、酒は与えていないはずだぞ……」


「ってことは……」


「あぁ……アルコール飲んだエヴァもヤバいが、素のエヴァも相当イカれてるってことだ……」


そんな二人の会話が聞こえていないのか、エヴァンジェリンはひとしきり笑い終えると、フッと笑顔を消した。


「二人も覚えておきなさい。人のものは勝手に奪っちゃいけないのよ?」


「だから……私の大切な大切な物を奪った人たちには、愛情たーっぷりなお返しをしないとね?」


笑顔を消したまま、収支報告書に目を戻すと、エヴァンジェリンは何事もなかったかのように、書類整理を再開した。


それからしばらくして――


「この数年分を遡ってみたけど……グレンヴァリアとしての収穫量とウイスキーの生産量に間違いはなかったわ……ってことは……違うなにかか。」


全ての収支報告書を読み終えたエヴァンジェリンが別の書類に手を伸ばそうとしたところ、ルカリオスが1冊の書類に目を留めた。


「おい、ここを見てくれ」


そこには――


ルピナスト領にウイスキーを置くための貯蔵庫を借りたという内容が書かれていた。


エヴァンジェリンは、その一行を見た瞬間、ゆっくりと息を吐いた。


そして、文章の一文をなぞると、周りに聞こえないくらいの小さな声で呟いた。


「ふふ……見つけたわ……」

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