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酔っ払い令嬢の英雄譚~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~  作者: ゆずこしょう
"二人”という秘密。

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考え事にはやっぱり甘いものが欠かせません。

「それで、今回はなぜ急にグレンヴァリアまで来たのですか?」


宿屋に戻ると、ヴィオラは皆が聞きたくても聞けなかったことに切り込んだ。


「あぁ~……ちょっと気になることがあったのよ」


エヴァンジェリンは収支報告書を取り出すと、皆に見せるように机の上に置く。


それにいち早く目をつけたのはルカリオスとユリウスだった。


「こ……これは……」


「本当に……前に見た報告書と金額が全然違う。」


エヴァンジェリンは二人の言葉にうなずくと言葉を続けた。


「これが、本当の収支報告書よ。ここを見てちょうだい」


エヴァンジェリンが指し示す場所を見ればそこには違和感の残る数字が記載されていた。


「何となくわかったかしら?生産量は伸びている。

それなのに――“残るはずの金”が残っていないの。」


「あぁ、これだけの生産量があればもう少しウイスキーやチョコレートなどが増えるだろうし……売上も上がるはずだ」


「そう。なのに……赤字ギリギリの数字になっているわ。それに……気になる名前がいくつかあったのよ。」


「「気になる名前?」」


エヴァンジェリンの言葉に皆が首を傾げる。


「うん。まずはこの地図を見て。」


地図を広げると、少し離れたところにいたクラウディウスとウィンデルが近づいてくる。


「シルヴァリア公爵領は中央にシルヴァリアを置いて五つの区域に分かれているの。そして、五つの区域はノール、グレン、マーレ、カーム、フェール地帯と呼ばれているわ。」


「それは、地図を見れば分かる。だが、王家にある地図にはシルヴァリア公爵領としか書かれていなかったし、山や海ばかりだった。」


エヴァンジェリンの言葉にユリウスが答える。


ユリウスはシルヴァリア公爵領に来てから、色々調べていた。

それは王家にある情報とあまりにも違いすぎたからだ。


「そうね……ここまで発展したのはこの数年だし、王家はシルヴァリア公爵領に興味がないから、報告しようがしまいが関係なかったのよ。」


「ま、それだけ王家にとってシルヴァリア公爵家は腫れ物って事なのだろうけどね。」


「そのおかげで何しても好き放題だからありがたかったわ。と、言ってもここまで発展させたのはお父様なんだけど……」


その言葉を聞いた瞬間、ユリウスはヴィオラを見た。


それに気づいたヴィオラは首を振る。


(そういう事か……本当に彼女は何も知らないんだな)


一体何がトリガーになっているのか……


ユリウスたちは、エヴァンジェリンとルドリオスの話がどこか噛み合っていないことに違和感を覚えたが、それ以上口にすることはなかった。


「話を戻すけど、今回来たのは気になる点がいくつかあったからってところね。あと、気になるのが……ここよ。」


そう言って持ってきたのは入領記録だった。


「「ルピナスト……」」


ヴィオラとクラウディウスの声が重なる。


「いやぁ、ヴァイオリンの名前を聞いててどっかで聞いたことあると思ったのよねぇ。」


「ヴァイリスな……」


ヴィオラはその名前を見ると、顔を青くしてビクリと肩を揺らした。


「ヴィオラ……」


クラウディウスはそっとヴィオラの肩を支えた。


(……なんだ。あの二人良い雰囲気じゃないか。)


ユリウスは支え合う二人に目を向けた後、エヴァンジェリンに視線を移す。


「それで……?なぜこの地にルピナスト伯爵が……?」


「分からないけど……どこかでヴィオラがここにいる情報を手に入れていたなら入ることは簡単だったと思う。それか……グレンに間者でも仕込ませているのか……」


そこで一旦話を区切ると、目を細める。


その目はどこか冷たく、獲物を見つけた鷹のように、

逃がす気のない色を宿している。


ドクン――


(またか……)


その視線を見た瞬間、ユリウスは理由も分からないまま、胸が高鳴るのを感じた。


「ただ、何かしら関わりがあるのは間違いないわね。」


エヴァンジェリンは入領帳を指で撫でしてため息を吐くと、ヴィオラを見る。


「ヴィオラ、チョコレートちょうだい。」


「えっ?チョコレート……ですか?」


「えぇ、考えごとする時に甘いものを食べると捗るのよ。」


(……そんなこと初めて聞いたが……)


ユリウスがエヴァンジェリンを見る限り、少なくとも冗談や誤魔化しには見えなかった。


ヴィオラも同じことを思ったのか、小さい箱からチョコレートの包みを取り出す。


「いいですか? 二個までですよ。」


念を押すように言われ、エヴァンジェリンは「はーい」と素直にうなずいた。


パクッ――


ベリベリと包みをめくるとそのまま口に放り込む。


(……チョコレートとは……そんなに美味しいのか?)


幸せを噛み締めるような蕩けた表情で、エヴァンジェリンがチョコレートを食べているのを、ユリウスは見ていた。


「……もしかしてユリウスも食べたいの?」


エヴァンジェリンはユリウスが羨ましそうに見ていると勘違いしたのか、そのままチョコレートをユリウスに一つ渡した。


その瞬間――


「やっぱりあげな~い!これは私のだもの!」


先ほどとは違う話し方をするエヴァンジェリンにヴィオラ以外の全員が目を丸くした。


「ふふ……やーっと久しぶりに出れたわね。あっ、ユリウス。久しぶりじゃない。無事王族から解放されたのね~よかったわ!」


「「「「えっ……だれ……?」」」」


「何言ってるのよ~。エヴァンジェリンよ?――エヴァンジェリン・アイリー・シルヴァリア!」


まるで違う人格が宿ったのではないかと思うほどの違いに、ユリウスたちは理解が追いつかないのか――


目の前にいるエヴァンジェリンを前に、その場は、ひどく静まり返っていた。


そんな中、ヴィオラだけがエヴァンジェリンの食べたチョコレートの包みを確認する。


「しまった……ウイスキーの入ったチョコレートを渡してしまったわね……」


そして、ヴィオラの声は誰かに届くことなく、そのまま消えていった。

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