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第8話:【ハイド・アンド・シーク】

「……ごめん、サレン。巻き込んじゃって……」

「い、いえ……こちらこそ、すみませんっ! お、重かったですよねっ!?」

「大丈夫だよ。とにかく、このままじっとしよう……」


 サレンを抱きながら走り、森へと逃げ込んだ僕達は、茂みの中に身を隠していた。

 顔をパタパタと仰ぐサレンの横で、腰を下ろした僕も疲労の籠もった息を吐く。

 森に入ったのは、村から魔獣を遠ざけるため。

 そして平地にいるより、森の方が魔獣を撒けると思ったからだった。


「これからどうしましょう……?」

「……それなんだよね」


 首を傾げるサレンに、僕は苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。

 おそらく猿の魔獣たちの目的は意趣返し。

 親分的な存在を倒した僕達への復讐のために動いているのではないだろうか?

 良くも悪くも囮として機能する僕に、魔獣の群れは付いてきた。

 後は肝心な、生還方法が必要になるのだが……。


(まるで当てがない……っ。……ほんっっっ、とおぉぉに、どうしようっ!?)


 サレンを連れてきた後悔に、僕は頭を掻きむしる。

 本当なら、サレンはあの場に残して、治療に専念させるべきだった。

 けれど大群の目に晒され、同じく標的にされてしまっていたらという危惧があった。

 万が一を考えると、置いていくことなど出来ない。

 サレンが襲われたら、いよいよ【治癒】の手立てがなくなる。

 魔獣の餌食にさせるわけにはいかなかったのだった。


 (いや、今からでも遅くはない、……か?)


 茂みの中から様子を伺えば、魔獣の姿はない。

 訪れた好機(チャンス)

 茂みの外から視線をサレンへと向け、僕はその小さい両肩へと手を置いた。


「僕はこのまま森の奥に逃げるから、サレンはそのうちに村に戻って怪我人の手当てをお願い」

「えぇっ!?」

「サレンがここにいたら、村の人たちは助からない。……負担をかけて悪いけど、サレンの魔法が必要だ」

「そうだとしても、マコトくんが……っ!」

「大丈夫! もし余裕がありそうなら、エラルドさんを──」

「──ま、待ってくださいっ!?」


 矢継ぎ早な説明に加え、体勢を整えた僕はいつでも走り出せる。

 そんな僕にしがみついたサレンは、小さな声でありながら慌ただしく叫んだ。


「無茶ですよっ! 森に入った人をすぐ見つけるなんてできません! ……それに」


 僕の無謀を止めようとしたサレンの語尾が弱まり、腕を掴んでいた手も下がった。


「村の人たち全員を救うのは、無理なんです……」

「……え?」

「【還元魔法】っていうのは、獣人が持つ魔力を少量扱えるだけなんです……。だから、一度に大勢の方を癒す力は、……ありません」

「っ!?」


 膝の上の拳が、小刻みに震えていた。

 サレンだけが事の深刻さに気づいていたのかもしれない。

 怪我人に対して、圧倒的な魔力不足。

 罪滅ぼしとして、村の人だけは助けたい。

 己に釘を刺していたサレンからすれば、やり切れない気持ちでいっぱいだろう。


(でも、立ち止まるのが一番駄目だっ!)


 足りなくても、補えなくても、足掻くしかない。

 そうして突き進んだアカリを真似るように、僕は目を見開く。

 すると、近くで木々の折れる音がした。


『ヴヴヴゥ……』


 茂みの隙間から見えるのは一体のみ。

 鈍間な動きで辺りを見渡す魔獣は、僕たちに気づいていない。

 このままじっとしてやり過ごすのも手だけど、知らぬ間に囲まれでもしたら一巻の終わりだ。

 なら──。


「──!」

『……、ッ!?』


 僕は茂みから飛び出した。


「っ!」

『ヴヴッ!』


 僕に気づくと、魔獣もすぐさま地を蹴った。

 手足の4本から生まれる疾走は、やはり僕より速い。


(けど、……それだけっ!!)


 この魔獣は単純だ。

 僕が崖から落ちれば、釣られて落ちてしまうほどに。

 愚直に追って来るだけなら、きっと上手くいく……!


(持ってきてよかった……!)


 衣服の(ポケット)に手を伸ばし、ネーゼ家から拝借した小瓶を取り出す。

 昨日の食事で気づいた世界の味。

 鼻をつく匂い、そして痺れる味わい。

 それらを生み出すものがこの世界にもあるのなら、と台所から持ち出した香辛料を魔獣にぶつけた。


「ふんっ!!」

『ッ!?』


 目元で割れた小瓶から、茶色の粉が舞う。

 そのすべてを顔に受け、両目のつぶれた魔獣が大木へと突っ込んだ。


『ヴァアアアアアアアッッッ!?』


 頭を振り、目を擦り、痛みに藻掻く。

 何を優先すればいいのかと、木の根元でのたうち回る魔獣は当分動けそうにない。


(よし! これならサレンを逃がせる!)


 作戦が上手くいった高揚感に包まれながら、振り返った僕は声を張り上げる。


「サレン、今のうちに──」

「──避けてっ!!」


 けれど血相を変えたサレンの叫びに掻き消された。

 そして直後、


『──ヴアッ!』

「くぅ~~~~~っっっ!?」


 稲妻に背中を裂かれる。


(痛い……っ! 痛い痛い痛い痛いっっっ!? ………………けど、違うっ!!)


 背中が焼ける。

 目玉は飛び出しそう。

 激痛に耐えようと、奥歯をギリギリと鳴らす。

 痛みで立ち上がれない僕は、一瞬で発汗した顔を上げ、落雷の正体へと視線を向けた。


「そりゃ、そうだよね……っっっ」

『ヴヴヴゥゥゥ……』


 突然の落雷?

 そんなわけがない。

 むしろその方が救いだとさえ思える衝撃の正体は、破爪を下ろし、僕へと唸り声を上げる魔獣だった。


「マコト君!?」


 地面に倒れ込んだ僕に、すかさずサレンが駆け寄る。

 だが、体が動かない。

 逃げ、られない………っ。


「今、魔法を!」

「サレン……逃げて……」

「……出来ない」

「はや、く……っ!」

「出来ないっ! 出来ないよっ!! 置いていけるわけ、ないじゃんっ!?」


 苦痛を堪えながらの訴えを、サレンはまるで聞こうとしない。

 駄目だ。

 今サレンに治癒魔法を使わせたら、疲労で逃げられなくなる。

 サレンだけは、絶対に逃がさないといけないのに。

 声すら出せそうになくなってきた。


『ヴオォォォォォ!』


 後方で雄叫びが上がる。

 木々の揺れが、激しさを増す。

 きっと、仲間を呼んでるんだ。

 その瞬間、とてつもない既視感(デジャブ)が頭を刺した。


(あぁ……、アカリもこんな気持ちだったのかな……)


 どうにもならない状況でも、助けたい人がいる。

 本当に逃げて欲しいから言っているのに、ただ出来ないと叫んで駄々をこねる。

 有難迷惑ここに極まりな過去の自分に、嘲笑すら覚えた。


(けど、サレンと………僕は………違うっ!!)


 僕が逃げたら、アカリが死んで終わっただけ。

 でもサレンが逃げれば、助かる命がある。

 サレンに心痕(トラウマ)を植え付けてしまうかもしれないけど、ここに残すよりよっぽどマシ。

 だからこそ、絶え絶えの言葉を絞り出した。


「……お願い、……だ。今っ、逃げなきゃ、……二人とも、…………死ぬっ!!」


 決死の訴えと共に、サレンの小さな手を握る。

 それは本当に小さくて、僕の片手にすっぽりと収まってしまう。

 けれど、この手が多くの人を救ってきた。

 怪我人に尽した結果が、周囲からの罵倒?

 この子の最後が、魔獣の虐殺?

 そんなのふざけてる!

 道理じゃない!

 サレンを道連れにするなんて、あっていいわけがない!!

 だから言ってるのに……。


「……嬉しかったです。サレンのおかげで笑顔になれる人がいる、って言ってくれたこと」


 目尻にたっぷりと涙を浮かべたサレンは、


「だから、笑顔じゃないマコトくんは、置いていけません……」

「っ、……っっ」


 離れてくれなかった。


『『『『『ヴァウッ、ヴァウッ、ヴァウッ!!』』』』』


 (おびただ)しい魔獣の合唱に、僕達は包まれた。


(間に、合わなかった……)


 小細工は多用できないからこそ、小細工だ。

 逃げ道も、打開策も残されていない。

 正真正銘の詰みだった。


「マコトくん、……運命の人を信じますか?」

「っ!?」


 倒れた僕の頭を持ち上げ、サレンは自分の膝へと置いた。


「マコトくんを見て、助けられなかった人に似ていると感じた時、これはサレンを後悔のどん底から救いあげるために神様が与えてくれた機会なんだと思いました。だから──」


 そういって、僕の口元に指を近づけた。


「──噛んでください」

「……っ」


 今更……、何を……っ。

 そう言おうとして、僕はハッとする。


(そうだ……、知らないんだ。サレンは聞いていない……。だから、…………ありもしない幻想を夢見ているんだ……っ)


 違う。

 違うんだ……っ

 そうじゃないんだ……っ!

 金色の瞳に宿る期待に、僕の心が喚き出す。


「マコトくん……」

「……ぁ、あぁ」


 けれど僕の乾いた唇は、切望の眼差しを向けるサレンを前に、キュッと閉じた。


『君の相手は、……僕じゃない』


 そう言ってなんになる?

 期待を潰して何が楽しい?

『結び人』と『ディスター』が対の存在である限り、僕の相手が『アカリ』なのは変わらない。

 だからといって、僕の手でサレンを絶望の淵に突き落とすことは出来なかった。


「サレンは信じてます……。マコトくんとならって……」


 アカリと似て、真っすぐな目を向けてくる。

 どのみち時間切れ。

 ならせめて、心地良い夢を見せてあげたい。

 泡のように弾けてしまうとしても、絶望から少しの苦痛を取り除けるなら。


「ごめんよ……」


 サレンには聞こえないように呟き、………………その手を取った。


「──っ」


 期待を裏切るだけの口噛み。

 刹那に満たない優しい嘘。

 思い描く未来で、僕達はすれ違う。


「──っ!?」


 ────はずだった。

 噛んだ瞬間、熱が走る。

 腹に流れる。

 アカリの時と、……全く同じ。

 舌先に当たるサレンの柔らかい指先から、【それ】が僕の中へと入り込む。

 けれどそんなはずはないと、昨夜の話が脳内を駆け巡る。

 教えてもらった知識が、こんなのありえないと囁いてくる。

 では、これはどういうことだ?

 理解できない。

 頭が追いつかない。

 まるで期待などしていなかった僕は、冷水でも浴びせられたような状況に、瞳をかっ開いた。


「ほら、やっぱり。……っていうのはさすがに強がりですね」

「……っ」


 諦念の海から這い上がり、声の方へと視線を向ける。

 視界を舞うのは魔力光。

 淡く気品な藤の色。

 起点となる指先から、揺らめく光がサレンを包み、彼女の金の瞳を映えさせる。


「……でも、今はどうしようもないくらい──」


 頬を赤く染め、首を傾げる幼女は、


「────胸が熱いです」


 満面の笑みで、そう告げた。


「嫌……、でしたか?」

「……ま、まさかっ!?」

「本当、ですか……? ……なら、良かったですっっ」

「~~っっ!!」


 不安そうに眉を歪めるサレンは、僕の顔を抑えたかと思えば、ぐっと顔を近づけた。

 その捨てられた子犬のような潤んだ瞳に、僕は全力で顔を横に振る。

 途端に安堵の息を吐くのだから、守護欲を刺激され、痛みではなく愛らしさに悶えたくなった。


『『『『『ヴヴヴヴッッッ……』』』』』

「っ!」


 そうこうしている内に、周りの木々や草むらはすっかり魔獣に囲まれていた。

 けれど唸るばかりで不用意に近づこうとしないのは、サレンを警戒しているからだろう。

 躊躇っているのが見て取れる。


(どうかこのまま……、いなくなってくれ……!)


 心からの切望で、眉間に皺が出来る。

 張り上げたい気持ちで、喉が膨れる。

 顔を見合わせるだけの沈黙も一分を越えよとした、次の瞬間。


『ヴアッ!』


(──ダメか!)


 最初の1頭が動いた。


「──大丈夫っ!」


 素早く膝から僕を下ろしたサレンは、ただ右手を翳した。

 大木より飛来する魔獣を、どう対処するつもりなのか。


『ヴァゥ!』

「──っ!」


 白魔の破爪。

 藤の幼女。

 二つの影が交差は、


「……っ、……え?」


 静寂に終わる。


(何をしたのか……、わからなかった。いや……、本当に何もしてないんじゃ……)


 一瞬の決着。

 勝者は、サレン。

 戦いの素人の目から見えた光景では、魔獣の攻撃よりもサレンの右手が先に触れただけ。


『……ッ』


 たったそれだけのことで、電源を抜かれた玩具のように魔獣が地面に倒れた。

 ピクリとも動かない死体は、徐々にその身を黒い靄へと変えていく。

 これが魔獣の死の瞬間であることはエラルドさんから教わったが、出血すらなく塵に還す術を知っているのは、サレンだけだった。


「一体、何が……?」


 アカリのような猛々しい力じゃない。

 しっとりと緩やか、それでいて──鋭い。

 どこか冷徹とも感じた冷たい空気に、僕の背筋も凍りつく。

 どんな【魔法】を使ったかも分からない僕は、ただ藤色に染まった幼女の背を見つめることしか出来なかった。


『『ヴヴァッ!?』』


 たかが一匹やられただけ。

 一瞬の沈黙を破ったのは、そんな魔獣たちの鳴き声だった。


『『ッ!!』』


 仲間の死から学ぼうとしない魔獣は、栓を抜いた水のように愚直に迫る。 

 けれど、無駄だ。


「ふっ!」

『ガッ、ァ……!』


 飛び掛かった魔獣は、身を翻したサレンに一撫でされ倒れる。


「……んぅっ!」

『グゥ……ッ!?』


 横薙ぎの破爪で衣の裾を裂こうと、一度手を置かれた瞬間塵と化す。

 1匹、また1匹と黒靄(こくあい)に変わり、溢れる断末魔だけがその場に残る。

 破けた覆頭衣(フーデットコート)を揺らし、一瞬で命を刈り取る姿は死神。

 黒靄(こくあい)になるよりも早く、積み上がる白魔の山の頂に立つサレンは、死の演舞(ダンス)を披露する。


「ふんっ!」


 受け身から一転、サレンが狩りに出る。

 地面を勢いよく蹴り、木や枝を飛び回りながら魔獣に触れていく。

 ただ愚直にしか生きられない猿の魔獣は、仲間の死に感情を見せることなくサレンへと突き進む。


「……あ、あぁ」


 白の包囲網を、藤の閃光が縫い目となって駆け抜ける。

 雄叫びという名の絶叫が空気に溶け出し、黒靄(こくあい)が緑を汚す。

 屍こそ築かれることはないが、確実に魔獣たちの死の痕跡が辺りへと伝播していた。

 それでも。


(か、数が多い……っ)


「はぁ、はぁ……」


 サレンにとって、おそらく人生初の戦闘。

 不慣れうえ、僕を庇いながら魔獣を倒している。

 その負担が如実に現れ、ものの2分でサレンの肩が激しく揺れ始めた。


(こんな時に比べている場合じゃないけど、昨日のアカリはもっと猛々しかった……)


 巨体な魔獣を圧倒していたアカリは、苦痛一つ感じさせなかった。


 未だに、なんで僕の口噛みでサレンが【魔法】を使えているのかもよくわからない。

 もしかすると本当の『運命の相手』じゃないから、全力の【魔法】がだせていないのかもしれない。

 憶測ならいくらでも立つ。

 そのどれもが確証のないもののため、今は止めようと頭を振る。

 ただ、一つ確実なことがあるとすれば、


(このままじゃ……、乗り切れない……)


 力のべた踏み状態にあることだった。


「ふぅ、ぅぅぅぅぅううううんっっ!!」


 溢れる力を制御できていないのか、力が強すぎて移動だけで辺りが破壊されていた。

 大木は二つに折れ、地面は抉られる。

 一挙手一投足が爆弾のようで、魔力の大量消費を疑わざるを得ない。

 加え、


『ヴヴァッ!?』

「ぃぎっ!?」

「マコトくん!」

「…………ごめんっ」


 僕が足手まといだった。


「やっぱり、一度【治癒魔法】を──」

『──ヴァウッ!』

「うっ!? ままならない……っ!」


 魔獣の標的が僕を向いた瞬間、サレンは防御一択を取るしかない。

 数を減らそうと走り回っているのに、さっきから中断されてばっかりになっていた。


(サレンの力を、ここで全て使うわけにはいかないのに……)


 この場から生き延びて、村人の命も救う。

 この理想を叶えるには、…………僕が邪魔だった。


「今の君なら、一人で逃げれる……。僕を囮に、して……逃げてっ」

「嫌です……っ!」

「っ!」


 体に纏わりつく魔力光が、覆頭(フード)を押し上げサレンの横顔を晒す。

 その決意を宿した金色の瞳に、僕は苦悩を浮かべた。

 本当にこの子は強い子だ。

 とっくに過去を乗り越えるだけの力を持っている。

 それを気づかせてあげるだけで、サレンはこの先多くの困難を乗り越えられる。

 だから、ここで死なせちゃいけない……のに。


「来る……っ!?」


 元からあった数の利を生かし、魔獣が四方八方から一斉に飛び掛かってきた。


『『『『『ッッッ!!』』』』』


 押し寄せる白毛の壁は、一点の隙間もない。

 僕を庇えば共倒れ。


「……ぅ、……ぅぅっ!」


 両手に込めた魔力に比例し、藤色の輝きが増す。

 けれど、狙いの定まらないサレンの視線が右往左往して落ち着かない。

 包囲網の一部を突破するだけの力が、サレンにはある。

 サレンだけであれば、それが出来る。

 けれど、僕が一緒では叶わない。

 その実行力までは、ないのだろう。

 だったら。


(──させるかよっ!!)


 痛みで動かなかった体に最後の力を入れ、サレンに抱き着いた。


「え……?」


 サレンの動揺を耳にしながら、僕は深く目を閉じる。

 心痕(トラウマ)を植え付けようと、サレンを生かすにはこれしかない。


「ごめん……、サレン」


 僅かでも、サレンの盾になる。

 すなわち、自決。

 サレンが僕を見捨てられない以上、僕が僕を切り捨てるしかない。

 サレンには出来ない選択を、僕が選ぶしかなかった。


『『『『『ヴヴヴアアッ!!』』』』』


 辛いだろうけど、どうか受け入れて欲しい。

 サレンが生き残る唯一の手段。

 サレン一人なら、この窮地を脱することが出来る。

 押し寄せているだろう魔獣の叫びを背で受ける僕は、先の未来で塞ぎ込むことになるだろうサレンに謝罪を告げた。

 その時──、


『『ヴァアアッッ!?』』


 一部の魔獣から、断末魔が上がった。


「おぉ~! 危ない、危ない~。間に合ってよかったぁ~」

「っ」


 どこからともなく聞こえてきたその声に、サレンを抱きしめ、ギュッと固くしていた体が溶け始めた。


「待たせてごめんね? 私、どれくらい寝てたんだろぉ?」

「……っ」


 揺れる赤毛。

 心地良い声。

 サレンを抱えたはずの僕は、気づくとある少女の胸に抱かれていた。


「ねぇ~、ねぇ~? 聞いて──、……その分だと、相当心配掛けちゃったみたいだね」

「……っ、っっ」


 黙ったままの僕に違和感を覚えたのか、翠光(ライトグリーン)の瞳をハッとさせた少女は、反省するかのように瞳を細める。


「またボロボロ……。……でも、マコトはまた誰かのために頑張ってたんだね」

「…………っ、っっ、…………ぅん……」


(あぁ、まただ……。また助けてもらったちゃったな……)


 あどけない笑顔に見つめられ、心の中はグチャグチャだった。

 喉が詰まって声にならないし。

 涙が溢れて止まらないし。

 それでも一つ、彼女に変えてもらった大きな変化を見せたくて、僕は涙を拭う

 そして、告げるのだった。


「助けてくれてぇ、…………ありがとう。────アカリ」

「どういたしましてぇ~、────マコト!」


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


第二ヒロインとして、ついに覚醒したサレン。

そして第一ヒロインの目覚めと、詰め込みに詰め込んだ一話になり、やりたいこと優先って感じで書かせてもらいました!

この三人が絡むとどうなるのか?

大詰めの次回を楽しみにしててください!

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