第33話:【誘獣臭(インビル)】
漣の音が響く真夜中の浜辺。
本来であれば安らぎを与える自然の音色は、呼吸を荒くする二人にとっては挽歌に近く、穏やかな気分にはなれなかった。
「ハックション!! さっむーい!!」
「ったく、やってくれたね。……アカリ」
冷たい海水を染み込んだ衣類が、素肌に張り付き体温を奪う。
気温も相まった状況に体を震わせ、盛大なくしゃみを上げるアカリの傍らで、マニは濡れ翼に悲嘆を告げた。
「鳥獣人は、翼が濡れれば飛べなくなる。マニさんを逃さないようにするにはこれが手っ取り早かったからね」
「だからって、自分も海に飛び込む奴がいるか? 発想がぶっ飛んでんだよ……」
「私にはあれしかなかったの! まぁ~、マコトがいたら、別の方法を考えてくれたかもしれないけど」
終始優勢であった海岸での一戦から、どうしてこうなったのかと、マニは額に手を当てる。
思いついても普通は実行しないような強攻策をしておいて、当の本人は済まし顔ときた。
(それもそうか。朝の一件を考えれば、コイツにとってこれは捨て身の策じゃない。……なんてことはないんだろうね)
「1日の間に二回も来るとは思わなかったよ~」と愚痴を溢すアカリの隣で、マニはほとほと呆れてため息をつくのだった。
「新米にしては、アンタらは随分と信頼し合ってるじゃないか」
「全部マコトのおかげだよ。マコトが、そういう気持ちにさせてくれる。この人のことを信じようって思わせてくれる。だからじゃないかな?」
「恥ずかしげもなくよくもまぁ……。胸焼けしそうになるぜ……」
「なにそれ、ひっどーい!」
聞くんじゃなかったとばかりに嗚咽を溢すマニに、アカリは立ち上がってまで抗議する。
それがさらに少年への信頼の表れであり、もうたくさんだと顔を歪めるマニは、「わかったわかった」と手を仰いだ。
「それで? アタシをどうする気? 捕まえるかい?」
「その前に、マコトの居場所を教えて」
「教えてもいいけど、アタシを逃がしてくれるって条件ならね。もちろん、身代金だって要求しないさ」
「この後に及んで、また交渉? マニさんの要求を聞く必要はどこにもないよ!」
「それはどうかな? アタシはこの翼が乾けば、またいくらでも逃げられる。アンタの言う事を素直に聞く必要はないさ」
「そんなこと、私がさせないもん」
「あぁ、好きにしなよ。ただ、アンタがアタシに構っているうちは、男の居場所は吐かないけどね」
「っ! もぉーっっっ!!」
頭を抱え始めるアカリを前にして、マニは卑しく笑う。
ただ、吊り上げる口端がただの虚勢であることに、アカリは気づいていない。
(コイツ……、本当にどこまでアホなんだ……っ)
いや、アホであることはわかっていた。
抜け穴だらけの交渉をそれっぽく見せれば、アカリは混乱する。
だからこそ、口八丁を並べたのだ。
けれどこうも上手くいくのかと、苦悩するアカリに、マニは心の中だけで呆然とした。
(そもそもなんでコイツは、本気でアタシが逃げられると思ってるんだよ?)
マコトの居場所を割るために、拷問する。
なんて方法を、アカリという獣人は取らない。
だからこの杜撰な交渉は成立している。
翼が乾くまでの時間、アカリは本気で危害を加えることないと確信していたから。
けれど翼が乾いたとしても、アカリから逃げることは出来るのか。
それは吹っ掛けたマニですら疑問であった。
(あれだけアタシの攻撃を防いでおいて……。自覚がないのか……?)
海岸での大立ち回りを通して、マニはアカリの実力を見抜いたつもりだ。
そして認めたくないが、アカリは自分より強い。
強者は、立場の低い弱者から奪うことが出来る。
そのことを、クラウンドに来る前からマニは知っていた。
けれど強者であるアカリは、薄っぺらな言葉一つで、己の立場を見失う。
そのお気楽な考えでどうして生きていられるのか、マニには理解できなかった。
(逆に全部わかった上で騙された振りを……。いや……、ねぇーだろうな……)
眉間に皺を寄せ、「マコトならどうするかなぁ~」と呟くアカリは、本物のバカだ。
自分が騙されているなんて、一欠片だって思っちゃいない顔をしている。
(アイツもそうだったな……。アタシが犯罪者だなんて思ってすらいなかったなぁ……)
人攫いをしたのは、『金』のため。
その情報だけでマコトが導き出した答えは、『マニが親の借金を返済するために身を粉にしている』という、ご都合満載の妄想。
そんなマコトを見習おうとしているのだから、アカリに良策なんて浮かぶはずがなかった。
(マコトなら……、ね……っ)
『全部マコトのおかげだよ。マコトが、そういう気持ちにさせてくれる。この人のことを信じようって思わせてくれる。だからじゃないかな?』
今しがた聞いたばかりのアカリの声が、脳裏で勝手に再生される。
(ったく……、何が言いたいんだよ……っっ)
一人静かに舌打ちをするマニは、思い出した自分自身に腹を立てる。
どこか悔しくて、……嫉妬とした自分がいた。
その自覚を掻き消そうと、唇を噛み締めたマニは、すぐさま話題を再開させる。
「んで? どうする?」
「……っ」
「おい、なんだよ急に? アンタどこ見てんのさ?」
再び作り変えた卑しい笑みで問いかけるマニだったが、突如遠方を凝視するアカリに、怪訝な瞳を向ける。
すると、アカリは小さく呟きを溢した。
「誘魔臭の匂いがする……?」
「っ!?」
背筋を凍らせたマニは、瞬時にアカリの視線を追う。
偶然?
あり得ない。
保管場所は?
自分の家。
即座に行われた自問自答の末、マコトのような妄想力を持たないマニは、遥かに現実な想像をするのだった。
「ニア……っっ!」
× × ×
「ざまぁ見やがれぇ!! へぇ、へぇ、へぇぇぇぇぇぇっ!!」
耳障りな捨て台詞を吐き、細身の鳥獣人が走り去る。
奥に倒れる小太りの鳥獣人や、すぐ近くに倒れるダングを置き去りにする辺り、薄情の一言に尽きる。
だが、そんなことはどうでも良かった。
「……ぅ」
「……っ!」
柳眉を歪めたニアが、視線を逸らす。
互いの吐息が掛かる距離まで顔を近づいても、そこに胸の高鳴りはない。
あるのは自責。
後悔や、自侮。
あらゆる自己嫌悪が押し寄せ、遣る瀬無さに僕は顔中をしわくちゃにした。
「な、なんてことを…………、ニアっ!?」
自分への怒りで、声を荒げる。
思い上がった……!
ダングを倒して安心しきっていた……っ!
そこにサレンとの合流が重なり、窮地は完全に脱したものだと思い込んだ。
自分が巻いた種を、僕自身が受けるなら自業自得というもの。
けれどニアが、僕を庇った。
鼻を刺す激臭。
赤黒い液体。
即効薬同様、アカリから教わった冒険者知識が、ニアに降り注ごうとしている悪夢を予見した。
「そのままじっとしててください。……誘魔臭がかかったら大変なので」
「誘魔臭……、やっぱり……」
これ以上広がらないようにするためか、ニアは翼を畳み込む。
漆黒の翼に付く深紅の水玉が落ちないように、覆いかぶさっていたニアがそっと離れる。
僕も床に垂れた誘魔臭に気を付けつつ体を起こせば、横で項垂れるニアが覇気のない声を溢した。
「早く私から離れてください……。魔獣が、来ちゃいますから……」
「分かってるよ! だからこそ、ニアを一人にするわけ無いでしょ!?」
「っ! そう……ですよ、ね……っ」
ハッと瞳を開くニアは、次の瞬間には呆れ混じりの薄い笑みを浮かべる。
僕という人間の性質を思い出したかのか、何を言っても意味がないのだろうと、ニアは口を閉じた。
(誘魔臭……っ。誘魔臭は、水で簡単に洗い流せる……、だったよな……?)
説明書を開くように、髪を掻き上げた僕は、記憶の中の情報を引っ張り出す。
目指すべきは水場だ。
クラウンドから離れていないなら、海に向かうのが確実だろう。
逃げ場のないこの洞窟に留まれば、魔獣が押し寄せて詰み。
一刻も早く誘魔臭を洗い流せなければ、共倒れになる。
即座に方針を決めることはできたのに、最後の最後で行動に移すことが出来ない僕は、大きな問題に顔をしかめた。
(どうやって、ニアを運べば……)
誘魔臭をまともに被り、白いワンピースの背部は深紅へと染まった。
ダウンタイム間近の彼女に、自力で走る力はない。
考えはある。
おそらくそれは正解で、もっとも合理的だ。
けど、僕には出来ない。
自分は出来ないくせに、他人にはやれというのか?
そんな葛藤に頭を悩ませていた時、
「マコトくん、一人で全部背負わないでくださいね?」
サレンの声が、耳元で囁かれた。
「マコトくんが何を考えているのか、サレンには分かります。その優しい心が、言いたいことに蓋をしてしまっていることも」
「っ!」
心臓が飛び跳ねる。
振り返った矢先、サレンには似合わない妖艶な笑みを向けられ、僕は混乱する。
まるで言い訳を聞いてくれる大人のように、慈愛の籠もった金眼が僕を見つめていた。
「人に傷を背負わせるくらいなら、自分が傷つけば良い。そんな風に思っていませんか?」
「そ、それは……」
「やっぱりです。マコトくんの言うことはいつも正しくて、サレンはすごいなって思ってます。けど、……今一度考えてみてはくれませんか?」
「……」
どこか上機嫌に鼻を突き上げるも、最後は切実な祈りであるかのように胸の前で両手を組んだサレンに見つめられ、僕はバツを悪くした。
どんな選択が正しいのか。
『僕』という存在を、どう捧げればニアを救えるのか、どうすれば打開できるのか。
それが効率や可能性、ニアを助けるための合理性を欠いていると知りながら、僕は『僕の力』だけで何とかしようとした。
サレンの言うように、自分の手で他者を傷つけることを恐れていたのもある。
僕の決断に、人を巻き込む。
その先で起こるかもしれない最悪に、自らの手で誘ったとなれば、僕は僕を許せなくなる。
けど一番の理由は、けじめだろう。
僕のせいで、ニアは誘魔臭を被った。
その落とし前を付けるのに、僕自身じゃ何も出来ないのが怖かった。
だからエゴと知りつつ、目を逸らしてしまった。
「言ってください。サレンは聞きたいです。マコトくんが選ぶ道は、きっと間違っていないから」
「……」
「信じてください。どんなことを言われても、サレンはマコトくんを嫌いなんてなりませんから」
「……」
「今のサレンはセイバートゥースです。マコトくんや、アカリお姉ちゃんと同じように、サレンだって誰かを助けたい! そのために、ここまで来たんですから!」
「ぁ、ぁぁ……」
今の今まで、僕はサレンの何を見ていたのだろう。
堂々とした立ち振舞や、不安の消えた金眼。
そこに村娘の面影など存在しない。
両手を握りしめ、顔を上げ、笑みを浮かべる。
体は小さくとも、サレンの浮かべる自信には、かつての幼女はどこにもいなかった。
「それに……、マコトくんの助けたい人のためなら、サレンだって力になりたいです」
「……サレン」
締めくくった言葉の後、少し照れた様子で頬を掻く。
僕が何を言おうとしているのか、その全てを理解した上で、サレンは答えたのだろう。
弛緩した空気に、僕もつられて微笑みを作り、ゆっくりと唇を開いた。
「ありがとう。ニアのことは任せたよ」
「はい!」
活発な声が部屋の中で響き渡り、僕は視線をニアへと移した。
「ニアもありがとう。……、僕のために」
「……はい」
「そして、ごめんなさい。ニアには、別の形で恩返しするよ」
「ふふっ。……それ、絶対ですよ?」
額に汗を滲ませつつ、ニアは悪戯な笑みを浮かべる。
ふらふらと上半身を揺らし、座り込んでいたニアだが、ふとその体が倒れ込む。
「──っ」
とっさに差し出そうとした右手をグッと堪え、僕はただ見つめては、瞳を細める。
自らの手で受け止められない悔しさに苛まれながら、倒れるニアを柔らかく包みこんだサレンが体全体で受け止めた。
「マコトくん、自分を責めないでくださいね。サレンでも、これしかないと思います」
「うん……、わかってる」
「それでは、マコトくん。…………お願いします」
「っ」
差し出された白く小さな手の甲を、僕は噛みしめる。
「ありがとうございます。後は、任せてください」
「……うん」
ニアから伝う誘魔臭が、サレンの覆頭衣を深紅に染める。
その光景に、後味の悪さを感じつつ、僕にはどうすることも出来ないと必死に割り切った。
「すごい……。これが、結び人とディスターの誓い……」
噛み跡の付いたサレンの手の甲から、藤色の魔力が流れ出す。
自身の【還元魔法】を遥かに凌駕する光景に、虚ろだったはずの目をかっ開いたニアは感嘆を上げた。
なまじ魔法に触れている分、自身との差に圧倒されているのかもしれない。
「ニアさん、と言いましたか?」
「あ、はい……」
「後は、サレンに任せてゆっくり寝てください」
「え、あ、はい……。……よ、よろしくお願いします、……サレンさん」
マニさんの妹だけあって、ニアは当然サレンよりも大きい。
そんな自分を軽々持ち上げ、背中に負ぶさったサレンに戸惑いを見せつつも、ニアは軽く会釈する。
それが最後の力だったのか、魔力に包まれて安心したのか、ニアの瞼は重く閉じられたのだった。
「どこか洗い流せる場所に心当たりはあるの?」
「いえ、サレンがここに来るまでに泉らしい場所は見当たりませんでした。クラウンドに行くわけにも行かないので、このまま海へと向かおうかと思います」
「わかった。早く追いつくように、僕も頑張るよ」
「なら、毒で目印を残しますね。ここは森林の中に隠れた山の麓ですので、迷子にならないように気を付けてください。……実を言うと、サレンも正確な帰り道はわからないのですが」
「そ、そうだったんだ……」
「あはは」、と空笑いを漏らすサレンだが、体はすでに藤色の魔力光を帯びている。
ディスターだけが許される魔導の印である、『オーバーフロー』。
身体能力の向上、魔法の使用が可能になれば、たとえ誘魔臭に吸い寄せられる魔獣たちと出くわそうが、並大抵のことはどうにか出来てしまう。
いわゆる、力技ってやつだ。
「改めてありがとう。危険を承知でニアを運ぶ……。僕には出来ないことだったよ」
「いえ、サレンもニアさんに感謝しなくてはいけません。仮に、マコトくんが犠牲になっていたとしたら、元々動けないニアさんと、二人を担ぐことになっていました。……そうなれば素早く海を目指す、というのは難しかったかもしれません……」
背で脱力するニアを見るようにして、声を細めたサレンは心の内を漏らした。
「では、行きますね。魔獣のほとんどはサレンたちの方に惹きつけられると思いますが、マコトくんも気をつけてください」
「うん、わかってる。それと、一つだけお願いがあるんだけど」
「なんですか?」
「この洞窟の入口を毒状態にしてほしいんだ。出来そう?」
「可能ですけど、何をする気ですか?」
困惑した表情のサレンに、僕は少し気まずくなりながら答えた。
「眠っているこの人と、奥にもう一人鳥獣人がいる。彼らを運び出すのは出来なくても、魔獣を近づけさないことは出来るかなー、って……」
「つまり、魔除けになると?」
「ここにも誘魔臭は垂れているから、さ……」
辺りに充満してしまった匂いを、今更なかったことには出来ない。
このまま放置すれば、匂いに釣られてくる魔獣たちに、この人たちは襲われてしまう。
たとえ僕を誘拐した人たちだろうと、見殺しにするのは違う気がする。
そんな思いがあって聞いたのだが、「ふふっ」とサレンは笑い出した。
「マコトくんはドが過ぎるお人好しですね」
「あ、後味が悪いだけだよ……」
「サレンは良いことだと思います。マコトくんの心が綺麗な証拠です」
「ぅっ……」
からかわれている気がして仕方ないが、言い争いになっても仕方ないので、今は黙りを決め込むことにした。
「とにかく、後はニアを助けて、無事に乗り切ろう」
「はい!」
サレンに案内されるまま、僕達は洞窟からの脱出を果たすのだった。
× × ×
「クソッ! あのガキども、よくもやってくれたぜ!!」
数分前のこと。
山岳の麓の隠れ家を捨て、一人逃げ去った鳥獣人は夜空を羽ばたいていた。
「ダングの野郎もだ。マニや、ディスターならまだしも、ヒューマン何かに負けやがって」
少数とはいえ、ヒューマン差別の思想を持つ獣人。
それが力で負けたとなれば尚の事。
心中が穏やかなはずもなく、自分のことを棚に上げる細身の鳥獣人は、マコトの頭突きで倒れた記憶のダングに唾を吐くのだった。
「計画は何もかも終わり……。スッキリしたことと言えば、誘魔臭? とか言ったあの液体をぶち撒けられたことだけだな」
ダングの敗北が確定し、直後に表れたサレンを前にして、男はせめてもの嫌がらせのつもりで誘魔臭を放った。
知るものが聞けば、男の正気を疑う者で溢れたことも知らずに。
「これからどこに向かうかね~?」
ダングは、どこまでも慎重な男である。
危険な道具と知りながら、その管理は自分で行わない。
なぜなら、予期せぬ不祥事の際、誘魔臭が自身に付着することを防ぐためだ。
それほどまでに誘魔臭が忌避されている道具だということも、男は知らなかった。
「あーぁ、クソ! 大金が入ると思ってたのによ! なんだか損した気分だぜ!」
ダングであれば、『それ』に気づかないはずはなかった。
誘魔臭の注意点は、液体そのもの。
故意に使用するのなら、雫の一滴だって付着してはいけないのだ。
「となれば、やることは一つ! 貴族共の消えた別荘から、金目の物を奪って独り占めだ!」
細身の鳥獣人は、『それ』に気をつけもしなかった。
小瓶が割れ、液体を被ったのはニア。
けれど、液体はニアを伝い床へと流れた。
液体であればなんだって起こり得る現象であり、集まれば水たまりになるのは誰でも知る常識だ。
「てかあの液体、本当にクセェーな。匂い付いちまったか?」
誘魔臭の溜まり液を踏んだ靴裏から、雫が垂れていることに男は気づいていなかった。
服を近づけたり、袖を嗅いだり、漂う匂いの元を探ろうと男は鼻を鳴らす。
けれど、見えるとことに誘魔臭の付着などはなく、匂いが服に移っただけだと決めつける。
本来それだけも警戒すべきだというのに、無知であることが男の愚行に拍車を掛けていた。
「見えてきた、見えてきた」
隠れ家からでもそう遠くない別荘島を目前にし、舌舐めずりをする。
「せっかくだ。一番デカい屋敷にでもするか」
標的とした屋敷目掛けて降下する男は、着地地点へと視線を固定する。
『────っ』
淡い月夜に照らされた影は朧気。
どれだけ大きかろうと、包み込まれていることにすら気づかなかった。
「たんまり稼がせてもらお……」
『──っ!』
「──がぁ、がぁぁぁぁぁぁああああああっ!?」
空は、有翼者たちの領域。
それは鳥獣人のみならず、魔獣もまた同じ。
巨体を有しておきながら、羽音を聞かせなかった『怪鳥』は、鋭爪を以て獲物を掴み取る。
『クガァ、アアアアアアアアアアアアアアッッッ!!』
深紅の香りに刺激され、眼光を真っ赤に染める。
大型魔獣──『ガルダ』──は、次なる獲物を求めて羽ばたいた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
マコトの優しさを『病気』とまで言ったマニの心が、アカリとの会話を通して変化し始めました。
マニの中で、マコトという存在がどうなっていくのかも、この章の見どころだと思っていますので、ぜひ見守っていただきたいです。
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