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第29話:【悪意が芽生える】(2)

「上がって来ねぇな……」

「死んじまったとか?」


 ダンクを挟むように顔を突き合わせる細身の男と、腹の出た男は、海岸に打ち付けられる波の激しさに顔をしかめた。


「これからどうするよ?」

「どうするも何も、セイバートゥースが来ちまった以上関わるだけ損だろ……」

「そのセイバートゥースが目の前で落ちちまったのにか?」

「なら、俺達は何も見なかったことにすればいい。……なぁ、ダング?」


 最終的な判断を仰ごうと細身の鳥獣人(ユーノ)が顔を上げた。


「結び人を攫うぞ」

「「はぁっ!?」」


 腕を組んだまま短く発したダングに、対象(コンビ)鳥獣人(ユーノ)は驚嘆を上げた。

「お前、正気かっ!?」「らしくねぇって!」と訴えかけるも、ダングの強面は揺るがなかった。


「至極真っ当だとも。その上で、マニから聞いた策を実行すると言っている」

「「……ぁ」」


 一体彼の中で何があったのか。

 口を開けたまま顔を見合わせる同僚を前にして、ダングは薄っすらと口端を上げる。


「心配するな。確証ならある」

「確証って……。そもそも、あのディスターが来た時点で、マニの要求は突っぱねられたってことじゃないのか?」

「そうだぜ。今更要求を飲むつもりなら端からこんなことしないだろ?」


 作戦立案者のマニすら放棄していたのだ。

 破綻している計画を実行しても意味はないと、対象(コンビ)鳥獣人(ユーノ)は言及する。

 それでもダングは軽く頭を振った。


「最初はそのつもりだっただろうな。だが、今となってはそうもいかないだろう」

「「?」」

「協会は、悪に屈しない姿勢を見せたいのだ。一度金を払えば、同じことを企むやつが後を絶たない。そうなれば、他のセイバートゥース……、もっと言えば、結び人に危険が及ぶからな」


 マニの隠し持っていた『誘魔臭(インビル)』を知っていたように、かつて冒険者であったダングはセイバートゥースの事情にも覚えがあった。

 依頼(オーダー)神命(オラクル)

 その難易度には大きな差があり、冒険者がどうこうできる問題でない。

 そのため、一部の人間は冒険者業を、ディスター協会の下請けに過ぎないと揶揄(やゆ)していた。

 その結果、ダングの心は歪んだ。

 依頼(オーダー)には、小型魔獣の討伐なども含まれる。

 その時は命をかけて戦うし、実際に命を落とす。

 だというのに、冒険者の殉職を重く受け止める者は多くなかった。

 たとえ【魔法】は持たずとも、命を掛けて魔獣に挑むのは同じだ。

 それでも賛辞の声を受けるのはいつもセイバートゥースだけ。

 天秤の崩壊。

 奉仕の精神と、周囲からの評価の乖離。

 己の中に生じた歪みを自覚したその瞬間、ダングは冒険者を止め、気づけばセイバートゥースを忌み嫌うようになったのだった。


「あの犬獣人(イヤルティー)はマニの動揺を誘おうために、奇襲なんて手を取ったのだろう。……が、しかし、互いに誤算を生む結果になったのだ」

「……互いに、ってのはどういうことだ?」

「あの娘の誤算は、マニが自分と比肩を取らない強者であったこと。そしてマニにとっての誤算は、…………俺達に話を聞かせたことだ」

「それが……、ん? …………なんだってんだ?」

「要は、現状の全てを把握しているのは俺達だけだってことだ」


 情報、作戦、人質、手段。

 ディスター側の思惑と、マニの計画。

 すべてを把握した位置にいるダングは、瞳を閉じて微笑んだ。


犬獣人(イヤルティー)の少女が姿を消したことで、協会も本気なる。結び人を取り戻すためには、嫌でもマニの要求を飲むしかないと。奇襲を仕掛けてきたのが魔法も使えない娘だったんだ。今すぐ動けるセイバートゥースはいないのだろう」

「いや、待てよ……! セルシアにはまだカイロニがいるだろ? アイツが来る可能性はだって……」

「それこそ心配ない。あの街は良くも悪くも貴族が多すぎる。その分貴族たちの訴えも強くなり、カイロニは街兼貴族たちの護衛を義務付けられているんだよ」

「な、なるほど……」


 貴族の我儘に付き合わされるカイロニに、今だけは同情するとばかりにダングは肩を上げる。


「人質の受け渡しに誰が来るかはわからんが、鳥獣人(おれたち)なら逃げられる。マニが用意しているという『誘魔臭(インビル)』があれば確実にな」

「「それなら、確かに……っ!」」


 マニの提案には即答出来ずとも、仲間(ダング)の言葉となれば話は別。

 顔を見合わせる二人の鳥獣人(ユーノ)は、徐々に笑みを咲かせ始める。


「ダングが言うなら、……やるか!」

「あぁ! ここらで一儲けして、俺達も贅沢三昧だっ!」

「決まりだな」


 拳を作る同士の姿に、ダングは不敵な笑みを浮かべる。


「では、手始めに」

「「?」」


 そう呟いたダングは翼を広げ、何をしようとしているのか分からない対象(コンビ)鳥獣人(ユーノ)は眉間に皺を寄せる。

 すると、飛び上がったダングは腰元から長剣を引き抜いた。


「ふんッ──!」

「うぐ、あっ!?」


 矛先を向けられたのは、アカリを運んできた鳥獣人(ユーノ)

 アカリを助けるべきか、ひとまず報告に戻るべきか。

 海から顔を出さないことへの焦燥感に駆られ、ダングの存在にまるで気づいていなかった男は、無抵抗に羽根を散らした。


「これで本当に、現状を知るのは俺達だけになった。さて、次は結び人のもとに行くぞ」

「「あ、あぁ……っ」」


 海へと落ちた鳥獣人(ユーノ)を尻目に、ダングはクラウンドへと羽ばたき始める。

 突然の虐殺に対象(コンビ)の男たちは微妙な顔を突き合わせるが、深く考えるのをやめ、ダングの後へと続く。


「まさか、セイバートゥースに一泡吹かせられる時が来ようとはな」


 コソ泥は、状況次第で殺人だって犯す。

 ダングの瞳に、悪意が芽生えた瞬間だった。


 × × ×


 結託を強めた男たちが、行動を起こしてから数分後。

 マコトたちが牢屋に閉じ込められる数刻前のこと。

 貧困とならず者が住まうクラウンドの夜は、不穏な空気で一層暗く閉ざされている。

 そんな闇夜の中、これまた無法地帯に似合わない小さな影がコソコソと動き回っていた。


「……マ、マコトくぅぅぅぅーん……。いたら返事をしてくださぁぁぁぁーい…………っ!」


 クラウンドに、サレンの声が溶けて消える。

 口元に手を当て、顔に力を入れようが、囁く程度の叫び声では、薄壁一枚のボロ屋でさえ通り抜けることはなかった。


「こんな夜遅くまで起きてるなんて初めてです……。それに今更ですけど、……一人だなんて」


 挙動不審なくらい首を左右に振って歩くサレンは、心細さで口元を波立たせる。

 マコト救出の手がかりを探すべく、海岸に向かうアカリとは分かれ、鳥獣人(ユーノ)の手によってクラウンドへと舞い戻った。

 大人しく取引を行えばマコトは無事返ってくる。

 なんてお気楽な考えは、アカリ同様にサレンも持ってはいなかった。

 しかし、移送してくれた鳥獣人(ユーノ)もいなくなり、無法地帯であるクラウンドに一人でいると自覚した途端、これ以上ないほど萎縮してしまったのだった。


「サレンだけじゃ……、マコトくんを見つけることなんて出来ないんじゃ……」


 少年の幻影が、サレンからどんどん遠ざかり、暗闇へと姿を消す。

 なんて酷い幻覚だ。

 マコトはどこにも行かない。

 自分や、姉と慕うアカリを置いてどこかに行くはずなんてないのに。

 心の弱さが生み出した幻覚を振り払おうと、サレンは数度頭を振る。


「よ、弱気になってはダメです……。マコトくんはもっと怖い思いをしてるかもしれません。サレンだってセイバートゥースの一員……。一人でも、頑張らなきゃ……っ!」


 マコトが感じているであろう恐怖に比べれば、夜の無法地帯を散歩するくらいわけない。

 ボロ家の影に潜んで肩を竦めていたサレンは、己を奮い立たせようと胸の前で小さな拳作ろうとして──。


「──おい、絶対に落とすなよ」

「ぃっ!?」


 すぐ近くから聞こえた(だみ)声に、ビクッと肩を跳ねさせた。


「大人しく眠ってんだ。そんなヘマはしねぇーよ!」

「それに貴重なお宝だ。丁重に扱わないとなぁ!」


 心臓が止まる思いをしながらも、ゲラゲラ聞こえてきた笑い声につられ、サレンはそっとボロ屋の影から顔を覗かす。


「三人の……鳥獣人(ユーノ)?」


 頭一つ飛び抜けた恰幅の良い男に続き、笑い声の主である細身と太身の鳥獣人(ユーノ)が廃材扉から出てくる。

 そのバカ笑いのやかましさは迷惑極まりないし、なんだか怪しげな会話も聞こえた。

 けれど、無法地帯には酷く馴染んでいるせいか、なぜか受け入れてしまう。

 当たり前ではないのに、違和感が一向に仕事をしない状況に苛まれ、サレンは瞳を細くした。


「とっといくぞ。誰かに見られても面倒だ」

「はい~、はい~」

「相変わらずの用心深さだこと」


 男たちは翼を広げると、間もなくボロ屋を後にする。

 視界の悪い夜空を飛行することだって、きっとおかしなことではない。

 常識とは無縁であるクラウンドの住人であれば、何をしても不思議ではないと、サレンはマコトの捜索へと頭を切り替える。


「……」


 けれど、出来なかった。

 虫の知らせが、耳元で騒がしく鳴いている。

 飛び立った鳥獣人(ユーノ)たちが異様に気になり、目が離せなくなっていたサレンは、胸に渦巻く唯一の違和感に従い金眼を夜空へと向けた。


「あれは、一体?」


 鳥獣人(ユーノ)が人や物を運ぶ時、籠式座(ゴンドラ)吊式座(ブランク)に乗せるのが普通。

 それが鳥獣人(ユーノ)にとっても、飛びやすい姿勢を作ることに繋がるからだ。

 騙されて落ちる羽目になったが、無法地帯に住むマニですらそれは同じだった。

 だとすれば視界の悪い夜空を、なぜ荷物を腕に抱えるのだろうか?


「一緒くらいの大きさ……」


 ちょうど人一人分の荷物だろうかと、目測が告げてくる。

 それも二つ。


「……、うんっ!」


 野生の勘が、「あれを追え!」とがなり立てる。

 追いつけるかどうかなんて関係ない。

 取り返せるかどうかなんて知ったこっちゃない。

 ディスターと結び人の繋がりが引っ張るかのように、気づけばサレンは走り出していた。


「待っててください! マコトくん!」


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


お預けになっていたアカリVSマニの決着ですが……今回は“引き分け”という形になりました。

スッキリしないと思われた方がいたら、ごめんなさい。

でも、あの二人は本当に互角なんです!

今の段階で決着をつけるなんて、とてもじゃないけどできません٩(๑`^´๑)۶

いつか再戦する? その時までの楽しみにしていただけたら嬉しいです。


次回はサレンの奮闘回になりますので、ぜひ続きも読んでみてください。


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