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第23話:【荒くれ鳥獣人(ユーノ)の恩返し】

「マコト、間に合わなくてごめんね! 怪我はない?」

「サレンもごめんなさい……っ。動けませんでした……」

「二人とも気にしないで。あの状況なら仕方ないよ……」


 襲撃者を気絶させたアカリが僕の肩へと手を置き、サレンは自責の念に駆られて項垂れる。

 気休めの言葉を掛けようと、反省の色に染まる二人に、僕は眉尻を下げてしまう。

 ここ『クラウンド』が無法地帯だというのは聞かされていた。

 にも関わらず警戒を怠ったのだから、これは僕自身の責任でしかない。

 それでも二人からすれば、そういう話ではなかったのだろう。


(モネフィラさんに釘を刺されたばっかりだもんな。気にしないほうが無理かぁ……)


 いくら宥めようと、二人は自分を責めてしまう。

 『結び人』を守る力がないならウチに来い。

 その誘いを断っておいて早々に怪我をしたとなれば……。

 どこからか情報を得たモネフィラさんなら、「派閥に入りな」なんて言って僕達を引きずるかもしれない。

 考えれば考えるほど恐怖が増していく僕は、早々に話題を切り替えようと、もう一人の闖入者へと目を向けた。


(助けてくれた……、ってことでいんだよね……?)


 女傑の足下で白目を向いている男に喉を鳴らしつつ、視線を上げる。

 浅葱色の翼を持つ、鳥獣人(ユーノ)へと。


「えっとぉ……、ありがとうございました……」

「礼に及ばないぜ。ここじゃよくあることだ。まぁ、セイバートゥースにまで手を出すバカがいるとは思わなかったけど」


 肩をすくめる女傑の鳥獣人(ユーノ)は、辟易した様子で首を振った。

 腰まで伸びた浅葱色の長髪に、瞳は鉛色。

 いくつも穴が空いた革製上着(レザージャケット)と、薄手の肌着から見える白い肌は目のやり場に困るけど、どこか無法地帯らしさを感じる。

 そして何よりも目を引いたのは、彼女の足下。

 防具兼、蹴撃に特化した人が使うといわれる武器、──『蹴脛具(レガース)』を履いていたこと。

 かなりの重量があるらしく、踏みつけにされた男たちを考えると顔が青くなる。

 でも、本当にさっきは危なかった。

 彼女が来てくれなければ、傷を負うことになっていたのは確実。

 サレンも動けなかったし、アカリでは間に合わなかった。

 そんな時に舞い降りた彼女は救世主。

 完全に警戒を解くことは難しいけど、どこか肩の力は抜いていた。


「さっきの話、アタシにやらせなよ」

「へぇ……?」

「別荘地までの運送、正規料金で請けてやるって言ってんの」

「えぇ!?」

「なんだよ。助けてやったのに不満でもあんのか? アタシなら島まで連れてってやれるんだぞ?」


 一体どこで話を聞いていたのか。

 自分の言葉を裏付けるように、女傑(じょけつ)は翼を広げた。


「アタシは、マニ=フィルマだ。見ての通り、荒くれ者の鳥獣人(ユーノ)さ」


 鋭い目つきと、荒々しい口調はまさに無法地帯の住人。

 けれど相反する整った顔立ちと、見た目から推測できる歳の近さ故に警戒心が薄れる。

 さらに一役買っているのが、浅葱色に染まった翼の秀麗であるのは言うまでもなかった。


「フィルマ、さん……ですか……」

「呼びづれぇーだろうから、マニでいい。アンタらは客だからね。あ、でも、さんは付けろよ?」

「あ、はい……。えっとぉー、……マニさん?」

「よし! うーん、……見た感じアンタが結び人?」

「カガヤ・マコトって言いま……、──すっ!?」

「えっ!?」

「マコトくんっ!?」


 アカリ達を背にし、先頭に立っていた僕に、突然マニさんは顔を近づけた。

 その驚愕は僕に留まらず、アカリとサレンの驚嘆が耳を刺す。

 下から覗き込むように詰め寄るマニさんは、僕の胸をなぞるように顔を突き合わせた。

 女性にしてはかなりの高身長。

 僕とほとんど変わらない背丈のせいで、顔の距離がもうわずかしかないっ!?

 間違いが起きれば、唇が触れる……!

 そんな距離感に堪らず身を逸らした僕は、不安定の姿勢なまま彫刻と化した。


「杞憂だったか、……なんでもない」

「ぅぅ……、はぁー……」

「後ろのお二人さんもよろしくぅー」

「「……ぅ、……はいぃぃ~」」


 たった数秒。

 けれど溜まった疲労は今日一のもの。

 硬直の解けた体をだらりと下げ、僕はがっくりと項垂れる。

 これが鳥獣人(ユーノ)なりの挨拶? 

 なんて思ったりもしたけど、「なんだったの今のは?」「わ、わかりません……」と、僕と同じように呆気に取られるアカリたちの声が聞こえ、答え合わせが出来ないことを悟った。


「で、どうする? アタシなら定価の二人で4万ルジェネで運んでやるぜ?」

「……え、4万いいんですか!? ……確かに安い」


 呆気にとられる僕達を置いて、一人マニさんは話を再開させる。

 けれど、その提示額に僕はすぐさま視線を向けた。


「ちょ、ちょっと待ってよ! まだ貴方に頼むなんて言ってないじゃん!」

「あぁ?」

「マコトを助けてくれたのは……、まぁ、素直にありがとうだけどぉ……」

「ならいいじゃねぇーか……」

「いやいや、普通に怪しいから! マコトも助けてもらったからってホイホイ話に乗せられないでよね!」

「ぅぐっ!?」


 片目を歪ませ、怒声を加えるマニさんに、両手を振って待ったを掛けるアカリは頬を膨らませた。

 さらに飛び火するように、「顔だって赤くしてるし!」と、僕への不満も叩きつける。


「サレンも、話がうますぎると思います……。後、マコトくん……顔が赤いです……」

「サ、サレンまで……」


 続くサレンも意義を申し立て、僕は涙目を浮かべた。

 二人の言おうとしていることは、安すぎて逆に怪しいということだろう。

 大型魔獣がいる場所に、危険手当無しで連れていくというのはなんだか胡散臭い。

 野生の勘なんてなくとも、ちょっと考えれば怪訝に思うマニさんの提案に、二人は断固として乗ろうとしなかった。

 そんな二人の強情さに、頭を掻くマニさんは嘆息を吐いた。


「そりゃ、気ノリはしねぇよ。けど、こんな所で女のアタシが金を得るには、誰もやらねぇーことをしないといけないわけ? だから危険だろうとやるしかねぇーんだよ」

「マニさんに、お仲間さんはいないのですか?」

「ここはバカどもの巣窟だからな、手なんて組めたもんじゃねぇ。まだ一人の方が賢く立ち回れるぜ」


 サレンを見下ろすマニさんは苦悩の声を漏らし、「それに理由は他にもある」と、僕の胸を指した。


「昔セイバートゥースには世話になったからね。その借りを返すついでに、小銭も稼がせて貰おうって思っただけだよ」

「セイバートゥースに……」

「あーぁ! いつからセイバートゥースってのは人の善意を無下にする集団になったのかねぇ~。アタシを助けてくれたあの人たちはそんなんじゃなかったけどなぁ~」

「「「うっ!?」」」


 わざとらしく嫌味を口にするマニさんに、僕たちは雷に打たれたように体を震わせた。

 慎重になるという点において、マニさんの提案に疑念を抱いた僕達は正しかったと思う。

 けれどセイバートゥースの性なのか、善行に務める僕達が善意を踏みにじるわけにはいかない。

 そんな罪悪感に、僕達は揃って胸を抑えた。


「アカリ……。マニさんにお願いしてもいいんじゃないかな?」

「まぁ、まぁ……、今のところ他に手がないのは確かだしね……」


 頬を引きつらせて告げる僕に、アカリも錆びついた首を縦に振る。

 島にいけないことには、神命(オラクル)の達成はない。

 不信感を拭うことはできないが、最後の最後はやっぱり、助けてもらったという事実に心が折れる。

 無言で頷くサレンからも了承は取れたということで、僕は改めてマニさんへと問いかけた。


「さっき2人で、4万ルジェネって言ってましたけど、3人ならいくら出せばいいのでしょう?」

「わざわざ3人でいくつもりかよ? どっちが荷物持ちか知らないけど、魔獣相手に結び人以外の足でまといなんていらねぇーだろ?」

「あ、足でまといって……」


 顔を引きつらせた僕に、マニさんも眉間に皺を寄せ、アカリとサレンの二人の方へと指を差す。

 セイバートゥースは、獣人とヒューマンの一組が基本。

 複数組で神命(オラクル)を行うこともあるらしいけど、奇数になることはない。

 まぁ、いつものやつかぁ。

 なんて調子で嘆息を吐いた僕は、続けてアカリとサレンを紹介することにした。


「アカリとサレン。僕は二人の結び人なんです」

「はぁ? アンタ、正気?」

「大真面目です」

「そんなわけ……、っ!」


 怪訝な目で僕たちを見つめるマニさんに、僕も負けじと鼻を鳴らす。

 最初こそ揺るがなかった猜疑の瞳は、僕たちの浮かべる笑みに解かされるように、開かれる。

 おそらく確信を得たのは、僕達3人が胸元に付ける(バッチ)を見たからだろうが。


「…………マジで、アンタら二人共?」

「本当です」

「うん、うん!」


 この世のものとは思えないものを見たように、マニさんの声が尻窄む。

 追い打ちのように、サレンとアカリの揃った笑みに、「はぁー、わかったよ……」と、敗北のため息を溢した。


「真偽はさておき、3人で行きたいならきっちり上乗せの6万ルジュネでどう?」

「正規は2万だから……。あ、はい。助かります!」


 改めて計算しても法外ではない。

 何が何だか分からず頭を掻くマニさんからの提示に、僕は喜びの声を上げた。


「良かったね、マコト! これで神命(オラクル)はどうにかなりそうじゃん!」

「うん、そうだね」

「調子の良いやつだぜ……」

「でも、本当にいいの? 私たちが行こうとしてる所って魔獣がいて、結構危険なんだけど?」

「危険なのは知ってる。けど、毎夜毎夜雄叫びが聞こえてきてそろそろ耳障りなんだよ」

「な、なるほど……?」


 心配そうに忠告するアカリに対して、近所迷惑の感覚で文句を垂れるマニさんは、魔獣に恐怖心を抱いていない?

 男の鳥獣人(ユーノ)でも恐れているというのに、マニさんの豪胆っぷりに僕は当惑する。

 まぁ、マニさんがそこらのゴロツキより強い人だというのは分かっているが……。


「とにかく、協力してもらえるならありがたいし、お願いします」

「毎度あり。島に行くのは早朝でいい? アイツは夜行性だからな。決行日に関してはアンタらに任せるよ」

「うーん。先延ばしする理由もないし、明日でいいんじゃない?」


 逸れた話題を戻すと、とんとん拍子で決まっていく。

 アカリの提案に誰も口を挟まなかった時点で、大方の話し合いは終わったも同然。

 僕達は顔を合わせて頷きあった。


「なら明朝、海岸に来な。アタシは準備があるからこれで帰らせてもらうからさ」


 そう言うと、背中越しに手を振ってマニさんは別れの挨拶もそこそこで家屋の奥へと消えていく。

 ひとまず、島への行く手段は確保できた。

 まだ手段を手に入れただけで、本番は島に着いてからだけど。

 そのことをちゃんと分かっていたのは二人も同じであり、僕達はロアさんから聞いた情報を下に、魔獣討伐の作戦会議を始め、翌朝を迎えることになった。


 × × ×


 マコトたちから姿を隠してすぐ、廃材家屋に寄りかかったマニは目を細めた。


(派閥のバッチはないし、態度からしても新米。わざわざ身を晒してまで探りを入れる必要はなかったかな)


 クラウンドでは聞き慣れた怒声、罵声。

 金に執着する人々で溢れかえり、無法地帯とまで呼ばれるこの場所には、夢破れた者以外にも、スネに傷を持つ者の隠れ蓑になっていた。

 木を隠すなら森の中。

 正式な町でないクラウンドは、セイバートゥースどころか、兵士団(ヴァルガード)も雇われ冒険者だって身を置かない。

 不衛生だろうと、犯罪者にとっては楽園。

 そんな昼下がりのクラウンドを歩いていれば、相変わらず蛮声が轟いていた。

 鬱陶しく感じながらも、あまりに近くから響いた声であったため、興味本位で覗いたのが数十分前のこと。

 腐った集落に現れたセイバートゥースが住人に頭を下げ、無茶難題を頼み込む姿を、マニはずっと見ていたのだ。

 下手すぎる交渉、無法地帯には無意味な誠実さ。

 まるで魔境に迷い込んでしまったかのような三人組。

 セイバートゥースとはいえ、成熟しきっていない彼らがここにいる違和感に、歯がゆさを感じていた。

 それこそが助けた理由なのかもしれないと、マニは自嘲する。


「生まれた場所が違えば、アタシでも青くいられたのかね……」


 浅い笑みを浮かべるマニは、俯いたまま。

 背後から聞こえる和気藹々とした3人の声に、そっと瞳を閉じる。


「けど、やることは変えられない」


 神命(オラクル)に前向きな3人の声を聞きながら、マニは少年へと目を向けた。


(さっきの話が本当なら、アイツはかなりの価値がある)


 ディスターとして覚醒を果たすのには、結び人が必要不可欠。

 だからディスターは結び人を大事にするし、自分と同等の命として扱うことをマニは知っている。

 鍛錬を積まなければ並みの獣人に遠く及ばない、脆弱な存在だとしても。


(危険はある……。けど、成功すればそれ相応の金が手に入る)


 なんとなく仰いだ空は、映る古びた家屋と対照で、鮮麗に見える。

 そんな空を汚している家屋を、自分のようだと揶揄しながら。


「お姉ちゃんを許してくれよ。……ニア?」


 集落のどこか。

 周りと同様に腐食した家の中で、小さな寝息を立てる妹を思い、マニは自嘲した。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


この『マニ』というキャラを考えた時、荒くれ者なんだけど女の子であることは意識してほしい!

そんなバランス調整が難しかったキャラでした。

けれど、こうして作品に登場させられる時が来ると、悩んだ甲斐があったなぁ、と創作の楽しさを実感させられます(´ω`)

そんな『マニ』の中身がどんどん分かっていく内容になっているので、これからも読み続けてもらえると嬉しいです!


ブックマークや応援コメントを頂けると創作の励みになりますので、よろしくお願いします。

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