第21話:【セイバートゥース】
「【混彩魔法】──【幽焔】ッッ!!」
マコトが思考し、サレンが託し、アカリが形作った。
上位互換である【エレメント魔法】の付与効果は、【ステータス魔法】を凌駕する。
すなわち【毒】に、【炎】を付与したのだ。
紅紫となった【炎】は、『毒』の効果を飲み込んだ姿。
勝利への渇望の結晶である【混彩魔法】を携えたアカリは、何重にも蜷局を巻いた蔓の塔を断ち切ったのだった。
「絶っ、対っ、勝つ!!」
「いいぞ! いいぞぉおおおお!! 正真正銘、最後の大勝負だッッッ!!」
視線がぶつかる。
闘志がせめぎ合う。
赤い流星と化して迫るアカリに、驚愕から一変したローレンツは無数の緑槍を天へと向ける。
一条の光と、無数の武器。
大型魔獣の群れと見間違う巨大蔓を前にするアカリは、それでもなお飛び込んだ。
「ふんっ!」
「ッ!?」
止まらない勢い。
意味を成さない蔓の壁。
アカリとローレンツを隔てたはずの巨大蔓は、まるで虚空だったかのように、あっさりと切られた。
一段も、二段も上がった切れ味の長剣は、巨大蔓を薄紙としてしか見ていなかった。
(だけじゃねぇ……! なんだこれは!?)
切り口が燃えたかと思えば、侵食する腐食効果によって巨大蔓が瓦解する。
猛毒を帯びた刀身。
たった一太刀が死を与える。
見た目は長剣であろうと、その実態は死神の鎌。
触れた瞬間に死を与える禁忌の刃を目にして、ローレンツは眉間に皺を寄せた。
(更に厄介なのは、火の粉だな……)
身体能力が向上しているローレンツは、拡張した視界の隅ですら見逃さない。
飛び散る火の粉を浴びた巨大蔓が、燃えると同時に腐り始めた。
これは付与対象が『剣』ではなく、『毒』そのものになっているからこそ。
爪の先に満たない極小の存在が、目に見えない脅威となって襲ってくる。
「ふん! せりゃ!! ──はぁああああああああああ!!」
僅か数秒。
塔を抜け出し飛来したアカリは、貪り食うかのように巨大蔓の壁を消し去った。
(広範囲の防御は通じないか……。──ならばっ!)
カッと口端を吊り上げたローレンツは、途端に大剣を遥か遠くへと投げ飛ばす。
生み出す巨大蔓は数本。
これまでのように一本一本が独立して動くのではなく、重なり、集約して、蜷局を巻く。
圧迫感はない。
だが、その分強度は上がる。
ミチミチッと音を立てて締まる緑槍は、螺旋槍のような高速回転を響かせた。
「《螺槍蔓》ッ!」
大技を構えたローレンツは、マコトたちが生み出した【混彩魔法】にすっかり魅入られていた。
湧き上がる高揚感は、ただ純粋な力比べを望んでいる。
どちらが強いか。
獣としての性に従うローレンツは、僅かな間合を残して着地したアカリに、大音声を響かせる。
「次で最後だ、アカリ嬢ちゃん!! お前たちの全力を俺にぶつけてみろっっっ!!」
大剣を投げ飛ばした意図は、小細工の廃止。
両手から伸びる最硬最強の武器を持ってして、アカリに一騎打ちを申し出た。
「はい!!」
そして少女も応える。
強力な武器を得ようと、源である魔力は残り僅か。
全てを賭けろというのなら、望むところ。
長剣を両手で引き、アカリはゆっくりと腰を捻る。
吐息は熱く、胸は静かに縮んでいく。
そして開かれる翠光の瞳もまた、獣として優劣をつけようと鋭く裂ける。
次の瞬間──、
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
──犬牛は吠える。
「──────ッッッ!!」
猛る紫炎と、貫く螺旋。
両者の衝突に、大気は震える。
「っ!?」
体を駆け抜ける波動に、マコトの呼吸は止まる。
(なんて熱量……! なんて迫力だぁ……!!)
拮抗に次ぐ、拮抗。
一歩も譲らない【魔法】の激突に、轟音は鳴り止まない。
空の色が消え去り、眩い光が辺りを包む。
一生終わらないのではないか。
今も両者の咆哮に耳を打たれていたマコトは、続くだろう光景に息を飲む。
「あっ!」
だが、永遠は続かない。
そう思わせたのは、
「まだぁっっっ、だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
少女の叫びで暴れる、【炎】だった。
「【幽焔】ッッッッッ!!」
「ぬぉっ!?」
紅紫の【炎】に、巨大蔓が食われる。
メキメキと音を立て、螺旋槍となったはずの蔓が、貫かれる。
「──────ッッッ!!」
爆煙。
大地を穿つ一撃を最後に、都市外壁の草原は久しぶりの静寂に包まれるのだった。
「あ……、ぁぁ……」
熱風に吹かれたマコトは、ダウンタイムに陥ったサレンを庇いつつ、顔を上げる。
そこに拡がる光景に緑なんてものは存在しない。
あるのは抉れた大地。
そして──、
「…………っっっ」
全身を焼かれたローレンツが、白い蒸気を立ちのぼらせながら、立っていた。
「ガァァァ、ハッ、ハッ、ハッ!! 惜しい! 実に惜しいな~!!」
「え……?」
「嘘でしょ!?」
周囲が消し飛んだ草原で仁王立ちをするローレンツに、マコトは戸惑い、アカリは素っ頓狂な声を上げる。
響く哄笑とは裏腹に、マコトの全身は凍りつく。
アカリとサレンの力を合わせた一撃ですら、神獣候補には届かなかったというのか。
完全にへたり込むアカリもダウンタイムが近いのか、体をプルプル震わせることしか出来ていない。
これで本当に打つ手はなくなったと、絶望がマコトの顔を染めようとした時、モネフィラの声が耳朶に触れた。
「ちょっと、ダル? 紛らわしい言い方しないでよ」
「ん? 何がだ?」
「はぁ~、無自覚なのね……」
ローレンツの言葉足らずな物言いに、腰に手を当てるモネフィラは嘆息を吐いた。
そんな二人のやりとりに、未だ混乱状態から抜け出せていないマコトは口をモゴモゴと動かすだけで声を挟めない。
「……ぁ」
ただ、不意に向けられたモネフィラの優しい眼差しで、頭の靄がすっと晴れていく。
「今の『惜しい』は、貴方たちがウチらの派閥に来ないことに対してだからね」
「えっとぉ……、つまり……?」
「試験の結果は見たまんま。あなた達の『一撃』は確かにダルに届いたってこと」
「じゃ、じゃあ!?」
「えぇ、『合格』よ。おめでとう、新たな────セイバートゥース」
「っ!!」
首を傾げて微笑むモネフィラに、マコトの心臓は止まる。
だが、それも一瞬のこと。
すぐさま押し寄せる感情の爆発に、マコトの瞳は涙で──
「マ~~~~~コ~~~~~ト~~~~~っっっ!!」
「うぐっ!?」
──埋め尽くされる前に、アカリの固い胸部鎧に頬を強打されるのだった。
「マコト! ありがとう、マコト! サレンちゃんもありがとう! 二人とも! ほん~~~~とうにっ! ありが……、とう……っっ」
最後の最後まで力を使い果たしたアカリは、マコトの胸の上で寝息を立てる。
スヤスヤと眠るサレンに続き、アカリまでものしかかった状態となり、動くに動けないマコトはパチパチと瞬きを繰り返すだけ。
けれど、二人の安堵した様子で眠る姿に、マコトは微笑みを浮かべる。
「感謝するのは僕の方だ。……二人とも、本当にお疲れ様」
今ばかりは良いかと二人の頭を揃って撫でれば、アカリの犬耳は力なく倒れ、サレンは顔をもぞもぞと擦りつける。
長いようで短かった試験。
そうして得た称号、『セイバートゥース』。
『人を助ける』ことを望んだマコトは、これから先の未来を晴れ渡る空に重ね、穏やかに微笑む。
「これからも頑張ろう。──僕達3人で!」
異世界に迷い込み、運命の人との出会いを果たした少年は、夢に向かって歩み出す。
だが、運命の出会いがまだ終わっていないことを、マコトは知らないのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
マコトたちの物語――その第一章は、これにて一区切りとなります。
ローレンツをどう倒すか悩みに悩んだ末に生まれたのが、今回登場した【混彩魔法】でした。
この作品の【魔法】は“色”を軸にしているので、「マーブル模様」から着想を得て名付けた時は、「これだ!」とテンションが爆上がりしたのを覚えています(´ω`)
そして、これからも続いていくマコトたちの物語を、どうか見守っていただけると嬉しいです。
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