第十四話 故郷
シビル兵を湖に沈めたあと、オーレルは自分の村に帰ろうと歩きだした。
「まてまてまて! お前一人で帰ってなんになる! それに道中シビル兵がうようよいるんだぞ!」
あわてて止めに入るアルヴィに対し、オーレルは呆けた顔で答えた。
「けど帰らないと...…村が。俺の故郷が」
「おちつけ。そもそもヴァニエだって何もしてないわけじゃんないんだ。防衛はされてる。まずは仲間の所へ逃げることの方が大事だ」
そう諭され、オーレルは次の行動に出る。森に逃げ込んだ村人を集め、共に味方の方に向かって逃げるのだ。
怪我人もいる上、戦闘の経験も殆どない彼等だったが先程のシビル兵達が戻ってこないとも限らない。どのみち移動は必要だった。
散っていた村人を集め、簡易だが死んだ村人を埋葬した後全員で移動を開始したオーレル達。しばらく歩き続けたが全員が違和感を感じ始めていた。
「シビル兵が一人も居ないぞ。どうなってる?」
アルヴィの言う通り、周囲にシビル兵の姿が見えなくなっていたのだ。道を塞いでいた兵士も居なければ森の中の見張りもいない。いるのはせいぜい鹿や鳥だけ。
「先に行ったってことなんだろう。急がないと」
オーレルは自分の故郷であるカウス村が気がかりでならなかった。もしももう村まで侵攻されていたら?既に村が破壊された後だったら?ヒルッカは無事でいるのだろうか?
そんなことばかりがオーレルの頭に浮かんだ。
「オーレル、おまえの気持ちも分かるが少し休む頻度を増やそう」
「なんでだ?」
「後ろを見ろよ」
そこでオーレルは振り返り、気が付いた。黒い目に映るのは村を離れ着の身着のまま放り出された村人たち、傷つき、戦場で気を張っていてまともに眠ることもできず疲れはてている。
「皆思った以上に疲れてる。肉体的にも精神的にもな」
「……すまん」
「いいさ。お前を引き入れたのは俺で移動するのに賛成したのも俺だからな。まぁ俺が休みたいのもあるが」
「え?」
困惑するオーレルを尻目に、アルヴィは笑いながら先をふらふらと歩いていく。彼の足元を見て、オーレルも悟った。
アルヴィの着ているズボンに、べったりと付いた血を見て。




