婦好戦記 解説(その3 浪間さまへの回答)
浪間さまから、素敵な考察をいただきました。
ありがとうございます!!
【要約追記あり】婦好戦記 完結によせて
作者:浪間丿乀斎先生
https://ncode.syosetu.com/n0268hr/
荘子の一説に絡めて考察をしてくださいました。
ひとつの作品に対してこんなに上質な分析、いままであったでしょうか。
婦好戦記は本当に幸せな作品です。
深く謝意を申し上げます。
特に呂鯤さんについて論じてくださっています。
書籍版では浪間さまのファンアートからデザイン画が採用されております。
婦好戦記の「本当の底」の視点からとらえると、
「前期呂鯤」さんは彼こそが主人公にして絶対的勇者。
婦好さまは中ボス、サクは腰巾着に過ぎないのです。
その構造を浪間さまに看破していただきました。
たしかに蛮勇なる構造ですね笑
悲しいかな、「後期呂鯤」さんは、【隻腕+キビの呪い】で災害級の強さはなく、
弱体化せざるを得ませんでした……これはひとえに作者の力不足です。
呂鯤の名の由来ですが、おっしゃるとおり「荘子」です。
意味というよりは、むしろオリジナルキャラばかりの本作。
正直ベースで告白すると、登場人物の名前の「音を離す」ことに苦心していました。
また、殷のモチーフは鳥です。
土方のモチーフは、五行によると牛。魚は禹、つまり夏王朝だから……微妙だなと思いつつ、前述の音の問題もあり「強そうだし、ま、良いんじゃない?」と採用した瞬間だったと思います。
さて、本題です。
浪間先生からいただいた文章は、まるっと肯定します!
浪間さまの詩的な鯤・鵬・ウズラ・ヒグラシのたとえは人の歴史にまで及び美しく、反論をはさむ余地さえありません。
その上で、浪間さんの思考によって発生した化学反応を下記につらつらと書いていきます。
わたしの浅学を晒すこととなってしまい、お恥ずかしいところですが……!
浪間さまの論を読むまでは、単純に鵬鯤の物語に対して「婦好さまは鵬になった」と考えていました。
作者が考えもしなかったことを明らかにしてくださるなんて……本当にありがたいことです。
同時に気になりました。婦好さまを鵬にする展開はどう書けばよかったのか。と。
はい、反省会のはじまりです。
【作者解説】
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婦好さまが「鵬」になる条件は?
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荘子のいう鵬になった歴史上の人物は、一体誰かいたか。
解明するために、ざっくりとタイプ別に分けます。
①『老子』『荘子』の言う神人(逍遥遊グループ)
②『堯』『舜』(禅譲グループ(疑義あり))
③『殷の湯王』『周の文王・武王』(革命グループ)
<逍遥遊グループ>
浪間さんの考察を読むまでは、『婦好戦記』の婦好(陽華)とサクは、この境地に至ったと作者は安易に考えていました。
「逍遥遊すなわち逍遥の遊びとは、何ものにも束縛されることのない絶対に自由な人間の生活という意味である。」
(福永光司『荘子内編』講談社学術文庫、2011年抜粋)
逍遥遊にでてくるあの人。
「藐姑射之山、有神人居焉、肌膚若冰雪、淖約若處子。不食五穀、吸風飲露。乘雲氣、御飛龍、而遊乎四海之外。其神凝、使物不疵癘而年穀熟。吾以是狂而不信也。」
婦好さまとサクには、藐姑射の神人のようになっていて欲しい願望がありました。
藐姑射の神人とはこんな人です。
「その肌は氷か雪のように白く、しなやかなること乙女のごとし。
五穀を食らわず、風を吸い霧を飲み、雲気に乗り、飛龍を御し、四海の外に遊ぶ」
「五穀を食らわず、風を吸い霧を飲み、」あたりは美味しいものを食べていて欲しいのですが、タイプの違う美女ふたりが秘境の地で睦みあいながら暮らしてたらすごくえtt……、素敵じゃないですか?
「荘周せんせい! わたくし蓬莱出身の者なんですが! 神人で素敵な妄想できましたぁ! 聞いてください!!」状態です。
(はい、斬首)
<禅譲グループ>
為政者がより善政を敷く者(血縁以外)に位を譲る路線。
その場合、婦好姉妹もサクも生まれた時からウズラでしかありません。
そもそも商王以外に鵬になる資格は生まれたときからない。
(荘周せんせいは人間の精神的成長の話ではなく、身分制を是とするんですか? という疑問も持ちつつ)
婦好戦記の出来事をご都合に解釈するのであれば、
『微王(第二人格)』→『商王(第一人格)』への禅譲ともとれます。(血縁というか自分だけど!)
ん? 禅譲した側がエラいんですよね……?
なら、微王が鵬です! おめでとうございます!(パチパチパチ)
災害級の呂鯤さんから生まれていろいろあって、全裸の微王から羽が生えて天に羽ばたきましたっ(脳死)
<革命グループ>
地上に災害をもたらしつつ、飛翔する路線。
この路線で婦好さまを鵬にするとしたら、歴史が変わってしまいます。
武丁期に、殷周革命をやるということになってしまいます。
(荘子で革命を是とするのもなんだかなーモヤモヤというのも置いておいて……いや……舌戦を生き延びるカードを切っているんだろうけど)
商王(微王)/武丁 = 紂王
婦好 = 文王・武王
婦好さまにもともと野心はありませんから、原動力は憎しみの感情でしか書けません。
では、何を憎悪するか。
もしサクか姉を理不尽に殺されたら、
復讐者として王朝(太陽)を蝕する者——日食——鵬になるんでしょうね。
『続・婦好戦記』歴史改変編、始動です。
奇しくも『婦好戦記』の作中ではそれができる力をずっと積み上げていました。二章、四章、五章……。
最終話時点で「商王よりも婦好さま」派の勢力は殷(商)を取り囲んでいます。
南方の望白も明確に言ってました。「婦好に何かしたら商との同盟を考える」と。
殷周革命を起こした周方ですら、間諜たるシュウを通じて婦好さま個人の味方として書いてしまいました。
婦好さまが地上に災害をもたらす鵬にならないように、
サクが殻に収めてなだめているとも考えられます。
サクはこの解釈でも人を死なせないために、
自らを贄にする巫女という構造になるんですね。うーん。。恐るべき主人公。。
その場合は、浪間さまのウズラのつがいとしての終着点という理解でやっぱり正解なのでしょう。
イラストにしたいくらい、美しく素敵な情景です。
①婦好さまとサクは神人になって遊んだ。
②微王に羽が生えて飛翔した。
③婦好さまとサクはつがいのウズラになった。
どう考えても美味しいです。(脳内お花畑作者)
結論としては、鵬となるには、②③路線では無理。
①と解釈するかどうかというところでしょうか。
---【改稿時付記】----------
ちょっと待って……全然美味しくないです。花畑がすぎる。
②③では「女性では歴史に残らないから無理」という話に集約されてしまうのです。
うわうわ、すごく落ち込みました。
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考えさせてくれた、反省と思考の機会を与えてくださった浪間さまに深く感謝いたします。
脳内花畑人間一二三個人的には、婦好さまとサクには、純粋に「逍遥遊」の世界に行って欲しいと願う者です。
桃源郷みたいなところで遊んでいてほしい。
一方で、浪間さまのおっしゃった、サク=ウズラという概念は、とても本質を的確にとらえているように思います。
なぜなら、ちなみにこれは開示するつもりはありませんでしたが、……浪間さまが考察してくださったからこそ、書きます。
サクは「原儒」の流れをくむ者です。
作中特に後半にサクが使いだしたのは、孔子以前の儒者の術です。
ウズラ=儒家批判のために荘子が言ったと思うと、関係ないとは言えないんですよね。
---【改稿時付記】----------
ちょっと待って「サク」=「最も現代的な感覚を持つ少女」=「読者」として
初期は書いているつもりでした。作者自身が無意識に『想定読者(日本人)に対して「儒」が染みついている』と考えているというのをいま認識してしまい、
「怖っ」となっています。(伝われ~~~)
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ちなみに弓弦が潜りこんでいた安陽の史家集団(傅説先生が集めてる盲者による口伝での知の泉)はいずれ「老彭」として様々な書に登場し、もっと時代を経るとその一派は「屈原」に到着します。(設定です)
さて。
『婦好戦記』を終えたので、わたしはいずれ儒教を殴りに行きます。
もちろん、作品で……!
この調子だと返り討ちに遭いそうですが!
そのために、いままた青銅戈を研磨しなければなりません。
作者の浅学を晒しただけの解説は以上となります。
浪間丿乀斎先生には本当に感謝です。
作者はしばらく大いなる反省会&インプット&修行期間に入ります。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!