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120.不思議の国と夜天に咲く星《アリスvsノア》

「【放浪者】…ゲーム内時間を加速させるスキル…」

 人気の無い場所で、シズクはマップを開いていた。

「たしか一時間を三日にまで引き伸ばすと、レイさんは言っていましたね。ということは、現状、現実世界では十分そこそこしか経っていない計算…。ですが」

 次にログを開く。

 残り八十以上の生存を確認し、その展開の()()に疑念を抱く。

「いくらマップが広大とはいえ、【覚醒】した者たち同士が争えば、このフィールドですら手狭。勝負は一日もあれば決着が付くはず。なのにあえて三日という期間を設けた…。何のために?」

 白熱するのは目に見えているため、要所で休息の時間を設けている。

 それも当然あるだろう。

 が、仮にレイが最強に辟易し引退を望んでいるなら、むしろ三日という期間はあまりに長すぎる。

 言いようのない矛盾にシズクは思考した。

「時間を掛けなければならない何かがある…だとすればそれは何か…。このバトル、まだまだ底知れないものが渦巻いているようですね」

 ザッ

 背後から聴こえた足音に振り返り、シズクは目を丸くした。

「あなたは…」

 






 ホーホー

「んぅ…」

 深夜。

 アリスは森の梟の声で目を覚ました。

「おはよぉ」

 シャオの胸にすっぽりと顔を埋めながら。

「ほぁぁぁぁぁぁ!!」

 森の獣たちが一瞬騒然となった。

 しばらくして。

「落ち着いたかね?」

「は、はい…」

「お茶飲む?」

「ありがとうございます…。あの、ゴメンなさい…なんか…」

「いいよいいよぉ。私も勝手にベッド使っちゃったからねぇ。気持ちよさそうに寝てたね。そんなにお姉さんのお胸は柔らかかったかい?」

「マシュマロでした…」

 フッカフカのポヨンポヨンである。

「やったぜ〜。いやぁ、それにしてもここが【不思議の国のアリス】のギルドホームだとは思いもしなかったよぉ。起きたらアリスちゃんに抱きまくらにされてるとも」

「重ね重ね…。ってシャオさん、もしかしてバトル開始からずっと寝てたんですか?」

「そうだよぉ」

 ゆったり間延びした落ち着く声で、回復効果のある紅茶を出した。

「すぐに戦いに行こうと思ったんだけどねぇ。ついベッドの誘惑に負けちゃったぁ。アリスちゃんはもう戦ったんだね。ログ見たよぉ」

「はい。ルナちゃんと」

「お姉さんも戦いたかったなぁ。なんて、もう【ROSELIA】は私だけになっちゃったけど」

 アリスは飲んでいた紅茶を吹き出し盛大に咳き込んだ。

「ケホッケホッ!【ROSELIA】が?!ってことは、ホロウさんたちは…」

「ホロウちゃんはレイさんに。メルティアちゃんとウタちゃんは、【LIBERTAS ZERO】のノアっていう子にやられたみたいだね」

「……!」

 そのことも驚きだが、アリスを驚かせたのは最新のログ。

 ナッツがノアに負けたというものであった。

「ナッツちゃん…」

 ログを再生しそのときの様子を確認する。

 ナッツの切り札が、巨大な龍の力の前に散っていた。

「【ROSELIA(私たち)】はおろか、【不思議の国のアリス】まで立て続けに敗退なんて、この大会は大荒れだねぇ」

「シャオさんはどうするんですか?今も、さっきだって私を倒そうと思えば出来ましたよね?」

(倒そうとしたら殺気で起きそうな気がしたんだよね〜)

「うーん、迷いどころかなぁ。優勝は興味無いし、かと言って何もしないのはプロとしてあるまじきだしねぇ。アリスちゃんとバトルするのもアリかもだけど、正直私じゃアリスちゃんには勝てないし。いい感じにゆっくりしながら楽しむとするよぉ。まあ…ホロウちゃんたちを倒したレイさんやノアちゃんを倒すのは、ちょっと目標に入れておこうかなぁ」

 温和でも温厚でも、シャオは【ROSELIA】の部隊長なのだと、微かな闘気がアリスに実感させた。






「アリスちゃんはこれからどうする?キル数が欲しいなら、私を倒して行け〜なんて言うんだけど」

「モスキルは目指してないですからね…。かといってシャオさんとは戦う気になりませんし。今はとにかくレイさんを目指すことを考えます」

「フィールドの中心。ここから東へ三十五キロくらいかなぁ。アリスちゃんのスピードならすぐだと思うけど、ちゃんと身体は休めなきゃダメだよ。現実の時間はまだ数時間だけど、ゲームの中はもう半日近く経ってるんだからねぇ」

「はいっ。ありがとうございます」

「はいこれ。ここにあった回復アイテム。もしもまたどこかで会うことがあれば、そのときはちゃんとバトルするね」

「アハハ…お手柔らかに。ありがとうございますシャオさん」

 ログハウスを出るなり、無数の殺気が二人に突き刺さった。

 プレイヤーたちに安息を与えないとばかり、モンスターたちが剥き出しの牙で唸り周囲を取り囲んでいる。

「百はいるねぇ」

 アリスが剣を抜こうとするのを、シャオはそっと止めた。

「シャオさん?」

「無駄なところで力を使うことないよ。ここはお姉さんに任せておきな」

「でも…」

「これでもプロだからねぇ。やられないし負けないよぉ。ほらほら、早く行きな〜」

「…はいっ」

 【天翔】で空を行くアリスへ、シャオは激励を送った。

「優勝するんだよ」

「はいっ!」

 元気に残してアリスは彼方へと消えた。

 するとシャオは、背伸びを一つしてモンスターたちの背後へ目をやった。

「さてさて、それじゃあホロウちゃんたちの分まで頑張っちゃうよぉ。出ておいでよ、そんなところに隠れてないで」

 青髪の少女が木陰から姿を見せ、両手を前で組み会釈した。

「まさか…気付かれているとは、お、思いませんでした…」

「すぐ人の後ろに隠れちゃう子が【ROSELIA(うち)】にもいるからねぇ。気配には敏感なのさ〜」

「その上で…逃したのですか…?彼女を…」

「逃したというか、行かせてあげたかったというか。足止めは不本意でしょ。それにさ、君くらいの相手は私で充分かなぁって。ね、人造人間(ホムンクルス)ちゃん。ベルセリオン、って言ったっけ。プレイヤー狩りは順調かね?」

「不思議…です。まるで強者のような立ち居振る舞い…。あなたは、私よりも弱いのに…」

「言うねぇ。けど弱いかどうかはやってみなくちゃわからないよ」

 花の香りが周囲を漂う。

 対象を昏倒させる【亡者の花粉】による攻撃だ。

 予備動作が無く初見では回避不可能なものであるが、ベルセリオンはおろかモンスター一体すら倒れる様子はない。

「まぁ、状態異常耐性くらい持ってるよねぇ。モンスターたちは、耐性とは違うみたいだけど」

 見ると、モンスターたちの首の付け根に虫のようなものが埋め込まれている。

 赤い光を点滅させ、それがモンスターを操っているようだった。

「テイマー系のスキル…それもこれだけの数を一度に操れるなんてスゴいねぇ。うーむ…これは手強そうだぁ。ふあぁ…なんだか眠たくなってきちゃったよぉ」

「す、好きなだけ…眠れますよ…。負ければ…ですが」

「だよねぇ。でも私ってば、いっぱいいっぱい疲れてから眠るのも結構好きだったりするんだぁ」

 辺り一帯の木々がざわめいたかと思えば、幹を手に、根を足に、禍々しい形相を浮かべてベルセリオンらを包囲した。

 【踊る樹霊】。

 植物に命を与え従えるシャオのスキルだ。

「寝る前の運動…ちょっと付き合ってもらうよ」

「我らが尊き至高のマスターに…あなたの命を…捧げます」

 





 夜闇を猛スピードで切り裂きながら、残してきたシャオを案じるアリス。

 ふとウインドウが開き、最新のログが流れた。

 シャオ敗退。

 短く、呆気なく告げられたそれに、アリスは軽く唇を噛んだ。

「シャオさん…」

 仇を討ちに、アリスは戻らない。

 彼女が任せてと送り出してくれたことへの非礼になるから。

 約十分空を翔け、その目が天空に浮かぶ巨艦を捉えたときのことだ。

「…見えた!《アルゴノート》!あそこにレイさんが…!」

 スピードを上げようと虚空で膝を曲げて力を溜めた矢先、

「?!」

 轟轟と唸る龍が横から大口を開けて襲ってきた。

 歓喜。

 高揚。

 特大の愛に身心を滾らせて。

「居た!!見つけた!!見つけちゃいましたよ!!アリスちゃん――――――――!!」

「ドラゴン…ってこの声、ノアちゃん?!!」

 夜の中に合って眩い限りの白い巨龍はアリスに体当たりすると、恍惚の声を上げて少女に喰らいついた。

「愛しい愛しい大好きな人!やはり私たちは赤い糸で結ばれているようです!だってだって、この広い世界でアリスちゃんに巡り会えたんですから!!」

 木々を薙ぎ岩肌を削り、ただ真っ直ぐに加速し続ける。

 それは大した問題ではない。

 が、この感じはヤバいと。

 両腕で押し合いながら、アリスは短く早く直感した。

(周りが見えてない…!ノアちゃん興奮してる…!!)

 理性も品性も無い。

 純粋に楽しんでいるときのノア。

 故に、見境も無い。

 彼女の危険性に無い左目が疼くような錯覚を覚えた。

「こ、の…!!【グラビティコア】!!」

 真上から重力の塊を落として止めようと試みるが、怯むどころか動じすらしない。

「【ドラゴドライブ】!!」

 鋭い光を纏い更に加速。

 アリスは硬い鱗への攻撃を嫌い、右腕を口の中へと突っ込んだ。

「【シャドウリリース】!!」

 百を越える闇の剣が、内部からノアを貫いた。

 ともすれば一撃で絶命するような瀕死の攻撃。

 だがノアはそれでも止まらず、ぐしゃりとアリスの右腕を噛み切断した。

「っ!!」

「美味しい美味しい美味しい美味しい!!もっと…もっともっともっと!!!血を!!肉を!!魂を!!!余すことなく味わわせてください――――――――!!!」

「腕くらい何本だって食べさせてあげるよ…!!【ネクロマンス:ジャイアント】!!」

 空間に展開した魔法陣から骨の腕が二本飛び出し、ノアを両側から鷲掴みにし地面へと叩き落とした。

 氷河が割れ飛沫が舞う。

 上半身を顕わにした骨の巨人が間髪入れず巨龍を殴打し続け、更に魔法を浴びせる。

「【ランサーレイン】!!」

 黒く鋭利な骨が雨となって地表へ降り注ぐ。

 地形は見る見る間に変わっていくが、肝心のノアにはまるでダメージが与えられていなかった。

「こんな骨じゃなくて…こんな骨じゃなくて!こんな、骨じゃ、なくて!!」

 剣の鱗が逆立ち、大きく開けた口に光が収束する。

「【サーブルロア】!!」

 骨の雨を、巨人を光線が切り刻む。

 光線はアリスをも切り裂かんと薙がれたが、すでに空にアリスは居ない。

「【纏魔】!!」

 ノアの真下へと高速で移動し、魔法を乗せた渾身の拳を叩き込んだ。

「【ダークアロー】!!」

 左腕は鱗でズタズタに。

 しかし突き上げられた拳によって、ノアは背中から地面に倒れ白い冷気を巻き上げた。






 アリスはシャオから受け取った《ポーション》を使用し、腕とHPを回復しつつ周囲を確認した。

「ここ…まさか凍土?ほとんど最初に居たところまで押し戻されちゃった…。早くレイさんのところに…」

 【シャドウゲート】で一刻も早く退散しようとして、剣閃が一つ氷の地面ごと広がりかけた影を斬った。

 【暴虐王龍(ジャバウォック)】から元の姿へと戻ったノアは、剣を抜き身にして瞳孔が開いた目をアリスに向けた。

「どこへ行くのですか?」

 逃さない。

 逃げることは許さない。

 ノアの圧が雄弁にそれを語る。

「私たちは剣士です。対峙すればどちらかが死ぬまで剣を打ち合う、そんな生き物でしょう。ましてや可愛い可愛いアリスちゃん。他の人にやられるなんて耐えられません。そうなれば憤怒と後悔に塗れること請け合いです。だからアリスちゃんは」

 斬る。

 犯す。

 壊す。

 殺す。

 ノアは全てを孕んだ言葉を叫んだ。

「私が愛します!!」

 熱意は収まらない。

 殺意は止まらない。

 恋心は加速する。

 ノアは一番熱い感情に身を委ねた。

「好きって言ってくれるのは嬉しいけど…負けてなんかあげないよノアちゃん!!」

「アリスちゃん!!」

「【セクスタプルエアロリープ】!!」

「【インサニティマリア】!!」

 剣が乱れ飛ぶ。

 速く、疾く。

 一瞬の判断を間違えれば首が飛びかねない程の緊迫した剣戟。

 剣が鳴る度、氷片が月明かりに煌めき、少女たちは踊っているようにも見えた。

 実際は敵意と殺意をぶつけ合うだけの鬼気迫ったものだが。

(重い…打ち合うだけで体力持ってかれちゃう…!ノアちゃんとの勝負は長引かせちゃダメだ…!)

 早めに勝負を決めたいアリスに対し、ノアは少しでもこの尊い時間を長く求めていた。

 もっともっと、と。

 しかし、感情思考とは裏腹にノアの苛烈な剣は勝負を終わらせにかかっていた。

 そうならないのは、両者の実力が拮抗しているからに他ならない。

(退いて立て直すでもいいから、とにかく状況を変えなきゃ…!)

 アリスは【ブラックアウト】で一瞬ノアの視界を奪うと、脚を上げて思い切り振り下ろし、分厚い氷河を穿った。

 氷の大地が大きく傾き、体勢が崩れた隙を狙いその場を離脱する。

 跳んだ先にノアが先回りしていなければ、それは叶ったことだろう。

「ッ?!!」

 さしものアリスも驚愕に表情を染めた。

 ノアには見えていた。

 もとい、文字通りアリスしか目に映っていない。

 闇で視界を覆われながら、アリスの行く先を、アリスの行動を。

 僅かな挙動、視線、呼吸…あらゆる情報を統制し数万、数億通りのパターンを算出し、そこから最も確率の高い…否、確実に起こる()()を導き出す。

 それこそが《イノセンスヴルム》の破片から精製された、《エリスアップル》に続くノアの愛剣、《ダークアリス》の内包スキル――――――――【アリスヴィジョン】。

 ()()()()()という局所的かつ()()された事象を映すスキルだ。

「【慟哭のパルトレーゼ】!!」

 聖剣が一振りアリスの腹を貫く。

 勢いのまま氷壁に磔にすると、二本の剣で両腕を串刺しに。

 ノアは動けないアリスへと身体を寄せた。

「好き…好きです…大好きです…!アリスちゃんアリスちゃんアリスちゃん!!私だけの…アリスちゃん…!!」

「ノア…ちゃ、ひゃう?!!」

 耳を舐められる。

 次に頬。首。

 脇からわき腹へ指を伝わせ、ある層の観客をドキドキさせる。

「アリスちゃんの全部…私がもらいますからね…!!ねえ、いいですよね…!!」

 右手に宿った純黒の光を見て、アリスは今までにない得体の知れなさを抱いた。

(【破壊者】じゃない!これは…!!)

「あなたの全てが欲しい――――――――!!!」

「っ、モード!!」






「【機導剣流アーティファクトアーツ】」






 桜色の閃光が一つ。

「【コード01-AERO LEAP】」

 ノアをアリスから遠ざけた。

「いいところだったのに…」

 天から降った少女は、アリスに腹に刺さった魔法剣を砕き、腕の剣を抜き捨ててノアに身体を向けた。

「いいところだったのに!!」

「マスターを虐げることは、この私が赦しません」

「サクラちゃん!なんでここに…?」

「今はまだ積極的に動くべきではないと、天空の《カシオペア》にて様子を窺っていたところ、マスターの気配を感知いたしましたので。恐れ多くも助太刀に参りました」

 残った回復アイテムでダメージを癒やしつつ肩を落とす。

「優勝目指すんじゃなかったっけ?」

「優勝してマスターとの願いを叶えることを本懐とすれば、マスターの傍らにて役に立つことは本望。私は終始マスターのために力を使います」

「人のなり損ないの分際で…私とアリスちゃんを阻む…。そんなことが赦されるはずがないでしょう…!来なさい……クレアぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ノアの咆哮が響くと、彼方より緑色の光が飛来した。

「クレア、マスターの呼びかけに参上致しました」

「【命令(オーダー)】、あのガラクタを破壊しなさい。アリスちゃんのひとときを邪魔した大罪人です」

「了解。殲滅を開始します」

「マスター、ご命令ください。彼の者を排除し、マスターの覇道を切り拓く許可を」

「バトルロイヤル関係無いけど…とやかく言ってられないよね…!【命令(オーダー)】!共闘を許可!敵の撃破及び撃退を開始!あと命大事にで!」

仰せのままに、我が主(イエス、マイロード)

 【不思議の国のアリス】vs【LIBERTAS ZERO】。

 二つのギルドが火花を散らした。

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