第20話 初仕事
カウンターでミアから仕事の内容を説明してもらい、合意して契約が成立した。
・3日後の早朝に山側の門から出発、山道を行くため移動は徒歩
・鉱夫2人に鉱石を持ち帰るための荷車隊が20名、護衛が兵士4名にフリーランサー7名+ミコトという編成
・行程は順調にいけば4泊5日ほどの予定なので野営の準備と自分の食料は持参するすること
・報酬は22人全員生還した場合で1人当たり金貨1枚、護衛対象が1人でも死んでしまうと半額になる
・鉱夫2人のどちらかが死んだ場合は依頼は失敗
・途中で倒した魔物や狩った動物は狩った人間たちで分けてよい
そして、帰りがけにバッグを埋め尽くしていた素材を売買相談カウンターで買い取ってもらった。
魔物の素材は結構貴重らしく、全部で金貨3枚で買い取ってもらえた。
本当はもっと沢山あったんだけど、持ちきれなかったことが切ない。
これで金貨3枚なら依頼で何日も頑張って金貨1枚というのは割に合わない気がする。
でも、普通に人はなかなか魔物なんて狩れないから、そんなものなのかな。
お金を稼ぐよりも経験を積みたい私にとっては別に不満はない。
しっかりと準備をするように言われてミコトは町に買い物に行くことにした。
とはいっても元々山での生活が長いミコトなので、特に野営の心配はない。
どの程度動物がいるのか分からないので、非常食を少々と調味料を銀貨3枚分購入し、手放してしまった武器の代わりとして槍と剣を購入して弓もせっかくなのでちょっと強力なものに買い替えた。
生命の玉による強化で筋力が上がっているので、元々の奴隷用の木の弓では物足りなくなっていた。
武器屋での出費が一番多く、全部で金貨5枚ほど遣ってしまったが、命にかかわる上に、元々あぶく銭なので気前よく初期投資として払った。
そうなると特に準備としてやることはないので、ブルブルの様子を見に行って餌代わりに生命の玉を与えて強化したり(チルチルにもたまに与えている)、町をぶらついてから宿に帰った。
宿に帰ると、食事の準備ができているということなので食堂に直行した。
空いている席で待っていると、太った女将さんが料理を運んできてくれた。
ワンプレートの皿にはパンと茹で野菜に肉を焼いたものとスープがついていた。
味の方は上々。
奴隷の集落で食べていたものとは比べ物にならない。
たっぷりと塩が使われている肉は節約して少しずつしか使えなかった山での狩猟後に食べるものより美味しかったし、スープも比べ物にならない。
パンも奴隷時代のものとは比べ物にならないほど味も香りも良く、なんでこんな差をつけられなきゃいけないんだと怒りがまた沸々と湧いてくる一方で、初めての『町の人』の食事を堪能した。
「ん~美味しい。全く、一生懸命作物育てている私達より町の人たちの方が美味しいもの食べるって一体どういうことかしら?
みんなもみんなよね。ちゃんと戦わないからいつまでも虐げられるんだわ。」
1人でブツブツ言いながらも食事を続ける。
こうしてフカフカのベッドとしっかりと味のついた美味しい食事に、奴隷から抜けられたことの喜びを噛みしめながらミコトは眠りに就いた。
翌日からの2日間は町をプラプラして過ごした。
持ち歩ける荷物に限界はあるし、宿で朝晩の食事がとれるので特にお金を遣うこともなく、ただ辺りを見て回った。
そして、1日に1回はブルブルの様子を見に行ったり、チルチルを話し相手にしながら夜を過ごした。
盗賊から手に入れた緑の玉や赤い玉も使ってみたけど、大して新しい知識は得られなかった。
盗賊の拠点は分かったけど、誰も帰らないからきっと移動してるだろうしね。
それよりは『乗馬』の技能が手に入ったのは大きい。
これできっとブルブルに乗っても、一層安定するに違いない。
そしていよいよ出発の日の朝を迎えた。
しっかりと全ての装備と荷物を身に着け、集合場所に行くと、既に結構な人が集まっていた。
「鉱石採取の奴隷どもはこっちだ~。護衛の方々はこっち~。」
大声を上げて人を仕切っている人の指示で護衛側に移動する。
護衛は私以外はもう集まっていたので私が最後だ。
「おいおい、お嬢ちゃん。ここはこれから危ない鉱山に貴重な鉱石を採りに行く人間が集まっているところだ。まさかお嬢ちゃんも一緒に行くのか?」
フリーランサーの1人と思われる(兵士は兵装なので直ぐ分かる)屈強な体格のおじちゃんが声を掛けてきた。
腰にはショートソードを、肩には弓と矢をかけているので弓使いってところか。
「はい。紹介所所長からの紹介でご一緒させて頂くミコトといいます。」
「所長の紹介だって!?お嬢ちゃんが?この辺じゃ見ない顔だけど、新顔か?」
「はい。これが初仕事になります。でも、回復のスキルが使えるからって皆さんと一緒に行くように言われました。」
「「「!!!??」」」
そう言って自己紹介した途端に空気が変わった。
「お、お嬢ちゃん回復のスキルが使えるのかい?」
「ええ、体力の回復から傷の治療までお任せ下さい。もちろん、弓も槍も剣も人並みには使えますよ。」
「いやいやいや、そういうのはいいから!回復スキルなんてめちゃんこありがたいじゃん。怪我してもお嬢ちゃんが治してくれるんでしょ?生還率も護衛成功率も爆上がりだな!おい、みんな、絶対お嬢ちゃんを最優先で守るぜ!」
「「「おおよ!」」」
兵士の人達まで意気を上げてる。
どうやらこのおじちゃんがリーダー格のようだ。
「よろしくお願いしますね。」
「あ~堅っ苦しいな。子供なんだからもっと俺らみたい砕けて喋ろうぜ。フリーランサーなんて貴族じゃないんだからよ。俺はハンス、7人パーティーの『ロジンパック』のリーダーだ。」
「うん。じゃあ普通に喋らせてもらうね。ありがとう、ハンスおじちゃん!」
正直、奴隷時代に仕込まれていたので敬語は苦にならないけど、敢えて使いたいとは思わないので助かった。
「お、おじ・・・ちゃん・・・?」
ドッと笑いが起きてハンスおじちゃんが盛大に崩れ落ちた。
ん~どうみてもおじちゃんなんだけど、何かまずかったかな?
そして、いよいよ全員集合して出発。
隊列としては先頭に2人の兵士と2人のフリーランサー、最後尾に同じ構成でその間を荷車を引く人夫が20人(全員奴隷だった)と真ん中位に鉱山に詳しい鉱夫が2名3人のフリーランサーと私がそこに随行している。
ハンスおじちゃんもここにいる。
弓が得意なので前後が襲われた時にどちらにでも急行して遠距離攻撃ができるのが大きい。
私は一番大事な依頼主が間違っても死なないように気を配る役だ。
ハンスおじちゃんが道中色々なことを教えてくれた。
ロジンパックはこうした護衛任務をほぼ専門にしているパーティーで、山に入ったり、他の町へ行ったりしながら依頼をこなし、エランで護衛任務と言えばロジンパックと定評があるとのことだった。
山にいる魔物にも詳しくて、色々教えてくれた。
・カメレオンスネーク:辺りの背景に体の模様を変化して不意を打つのが得意の毒蛇
・フォックスハント:集団で意思疎通を図りながら団体で狩りを行うキツネ
もちろん、滅多に出てくる訳ではないが、いつも出てきたら奴隷や護衛が何人も犠牲になっていたので、回復スキルが使える私がいるのは本当にありがたいんだそうだ。
また、護衛対象に奴隷も入っているが、奴隷が殺されても依頼は失敗にはならないこと。
(報酬は減額になるが)
それを聞いたときには胸の奥がザワリとしたが、抑え付けておくことにした。
私にはまだ力も知識も足りない。
兵士の記憶から得た王宮の警備の厳重さを考えると、今のままでは強引に侵入しても返り討ちになる確率は高いと思う。
もっと力と知識を付けない限り、最終的には奴隷制を廃止させるという私の望みは果たされないだろう。
そういう意味では今回の依頼で出会える可能性のある魔物の持つスキルはかなり魅力的だ。
できれば真ん中で守られるだけじゃなくて、戦闘に参加してスキルを自分のものにしたいなんて思いながら山道を歩いていった。




