第18話 チェックイン『ドワーフの森』
「これがエランの町・・・・」
「はい、ここは工業の町として栄えています。この近隣の町で使われている殆どのものがここで作られているんですよ。この馬車も、ミコト様の服も、鞍も全てエラン製です。」
「そっか~。色々見て回るのが楽しみだわ。」
「はい。私どもはここで食料を卸したらここで工業品を仕入れてまたサラヘに向かいます。その後は食料と売れ残った工業品を持って別の町へと旅暮らしです。」
「なんか良いわね、旅暮らしっていうのも凄く自由そうで。」
「まあ、確かにそうですけどね、お尻は痛いし、まともなご飯や寝床は町に着いた時しか味わえないし、危険も多いしで、良いことばかりではないですよ。」
「それもそうね。今回で護衛の兵士さん全滅しちゃったじゃない?これからどうするの?」
「基本的には兵士さんは毎回雇うので問題ありません。亡くなった兵士さんの家族へのお見舞金なんかは国から支給されるので特に我々には関係ありません。また新たに雇うのみですよ。」
結構ドライなものである。
もっとも、兵士の場合戦うことが存在意義である訳で、弱かったら死ぬのは仕方がないというのも事実。
また、旅毎に雇うのでメンバーとの関係も薄い。
加えて、偉そうに振舞うので結構旅の商人達からは嫌われていることは道中散々聞かされた。
「ふ~ん、そういうものなのね。それより、早く町に入りたいわ。」
「あそこに見える門で検問を通れば直ぐですよ。私達旅商人はもう門番と顔馴染みだし、通行証もあるので直ぐに入れます。」
「そう言えばそういう通行証っていうのが必要なのよね。私も手に入れられるかしら。」
「ミコト様ならフリーランスとして登録すれば身分証は直ぐ手に入れられます。登録料は少し掛かりますが、仕事を紹介してもらえたり、他の町に移動したりする場合にはとても便利ですよ。」
「そっか、じゃあ町に入って宿を決めたら行ってみようかな。」
「はい。それではその兵士の槍と剣とをお預かりします。兵士の遺品として届ければお礼がもらえますので。町中でこんなものを持っていたら直ぐに連行されてしまいますから。」
「私、兵士なんかに負けないわよ。」
「それはそうですが、騒ぎになると結局町に居づらくなるので、改めて町の武器やでお求めになった方がいいですよ。」
「ふ~ん、分かったわ。ロドリゲスさんの言うことだし、そうさせてもらうわ。色々ありがとうね。」
「いえいえ、我々全員にとってミコト様は命の恩人。これからも何でもお申し付けください。」
そうこう話している間に無事に門に辿り着き、門番に事情を説明すると直ぐに通してくれたが、ロドリゲスさんは盗賊の襲撃について詳しい説明を求められて詰め所に連れて行かれた。
事情を説明するだけだし、ミコトのことは黙っていてくれるそうなので、門を抜けたところでお別れすることにした。
直ぐにまた旅に出るということだったし、私はこの町で少しゆっくりしたいからね。
ようやく手に入れた奴隷ではない生活を送るチャンスだ。
もちろん色々な町に行ってみたいというのもあるけど、町での生活を一切味わったことがないまま旅を続けるのは私のやりたいこととは違う。
なので、まずは教えてもらった宿屋を目指す。
町の中でも乗馬はできるが、宿によっては預かってくれないので二度手間を省くためにブルブルは町の門の側にある預かり所に預けてある。
1日銅貨50枚なので7日間で銅貨350枚。
銀貨3枚と銅貨50枚だ。
去り際に髪の毛を噛まれて別れたがらなかったが、何とか説得して言うことを聞いてもらった。
チルチルはもちろん定位置の肩の上だ。
いよいよ町の中に入って歩くと、その彩の鮮やかさに驚かされた。
奴隷の住む集落は基本的に茶色っぽい。
奴隷の服は麻で作られていて、元々茶色っぽい上に土汚れが付くので益々茶色いし、家は木と藁で作られているので、これまた茶色い。
住んでいる人は日焼けしなければ白っぽい肌なのだろうが、野良仕事で日焼けしているのでこれまた茶色い。
そこからすると、エランの町には色が溢れていた。
色とりどりの服や髪の色の人達、家や店も好みで色を変えているのか実にカラフルで、ミコトの目を楽しませた。
キョロキョロとお上りさん丸出しで歩くミコトであるが、服をもらえて本当に良かったと思った。
流石に毛皮の服を着こんだ少女なんてどこにも歩いていない。
町で市民や貴族に仕える奴隷はいるが、彼らはやっぱり茶色の服を着ている。
ミコトは奴隷を見る度に、更には奴隷が鞭で打たれているのを見る度に腹の底から湧き上がる怒りを抑えるのに必死になったが、何とか暴れるのを抑えて目的地を目指した。
宿屋『ドワーフの山』は色々な道具屋が並ぶ商店街の入り口にあった。
エランは山を背後にした半円状の形で、要の部分に領主亭があり、そこから扇状に素材屋、鍛冶屋、道具屋、武器防具屋等の商店区、居住区、駐屯地と別れている。
その商店区に宿屋や労働者のための飲食店などもあり、かなり栄えている。
カランカラン。
ドアを開けると、来客を店内に告げるベルが鳴る。
「1人かい?」
帳場からでっぷりと太った女将さんが声をかけて。
「あ、うん、はい。そうです。」
あまりの迫力に思わず奴隷時代の習慣で敬語が出てしまった。
もう自由になったので敬語は余程自分が本気で敬う相手にしか使わないと決めたのに。
「ここへ名前を書いて、って字が書けるかい?」
「ええ、大丈夫よ。」
実はまだ書いたことはなかったんだけど、兵士の技能を奪っていたから不安はなかった。
羽ペンを借りてサラサラと名前を書く。
「ミ・コ・トと。いい名前だね。何泊の予定だい?」
「ん~そうねぇ・・・・取り敢えず7日間でお願い。」
「前金で銀貨14枚、昼飯は付かないけど弁当が欲しければ別途銅貨10枚で請け負うよ。」
「銀貨14枚っと、はい。」
「確かに受け取ったよ。毎晩食事の後にたらい一杯の水と手拭いを渡すから身を清めたい場合は使ってちょうだい。」
「うん、早速フリーランスの仕事紹介所に行きたいんだけど、道を教えてくれる?」
「ああ、それなら入り口を出て要の方へ行けば領主邸の隣さ。直ぐに分かる。」
「ありがとう。」
部屋の鍵を受け取った私は早速要の方向に向かった。
来た方と反対だから迷うことはない。
途中で目に入る色々な道具や武器防具に目をときめかせちゃうけど、正直どれを買ったら良いのか悩むくらい沢山あり過ぎて困ってしまった。
稼ぐ見込みもないのにせっかくのお金が減ってしまうのは心細い。
買い物の誘惑を振り切って、どうにか要にある紹介所の姿が目に入った。
『町の人』として生きていくためには町でお金を稼ぐ方法を確立しないといけない。




