第12話 命名『生殺与奪』と初めての戦い
「なっ・・・!?」
凄い威力に驚き、高揚する一方で同時に軽い脱力感に襲われた。
「そっか、これだけの威力だもん、体力ごっそり持って行かれるのは当たり前だわ。でも、これをあんなに連発していたクロウベアーってやっぱり半端じゃないわね。ロッソ先生もこれを全部躱すとか、流石だわ。」
そして、改めて自分の得た力の凄さに戦慄する。
「これって凄いことじゃない?相手の命もスキルも吸い取って、奪うも誰かに与えるのも自由自在・・・まるで貴族や市民が私達奴隷にするのと同じような・・・・・・・・」
私の中に過去にされたり見聞きした非道がフラッシュバックする。
ちょっとしたことで鞭で酷く叩かれた。
初めての獲物は無理やり取り上げられた。
お姉さんは壊れるまで玩具にされた。
そして、子供部屋で散々叩き込まれたこの世界で生きるために必要な知識も一緒にフラッシュバックする。
ロッソ先生は何て言ってたっけ・・・生かすも殺すも自由・・・・『生殺与奪』
奴隷には何をしても許される。
奴隷は何があっても耐えなければならない。
奴隷の『生殺与奪』は市民と貴族が握っている。。。。。
そうだ、この力はまさしくそれだ。
奪い、与えることで生かすも殺すも好きに出来るこの力、『生殺与奪』と名付けよう。
--------------------------------------------
(ミコトステータス現状)
性別:女
年齢:10歳(数え)
職業:元奴隷(守護の役目)・・・現在失踪中
スキル:生殺与奪、ホワイトクロー、弓術 LV3、解体、料理
装備:クローベアーの毛皮の服、ナイフ、山刀、木の弓矢
--------------------------------------------
ちなみに、ホワイトクローを使った脱力感は生命の玉(極小)一つで回復したので、連続で打っても問題ないことが分かった。
私は自分の得た新しい力に改めて打ち震えた。
これならもう誰にも負けないのではないか?
今度は私達を虐げてきた彼らを私が好きにするだけの力を得たのではないか?
凄く興奮した、クローベアーの目に矢を叩き込んだときのような興奮だ。
「ふ~、ふ~、落ち着け私。あの時興奮のままに動いてどうなったか忘れた訳じゃないでしょう!」
危なくまた力に酔って無謀な行動に走りそうだったので、一旦気持ちを落ち着けた。
暴走した私を庇ってロッソ先生を喪った。
もう庇ってくれる人もいないし、何よりもまた何かを喪いたくない。
何をするにしても、その前に良く知らなくちゃいけない。
力は確かに得たけど、敵の力がもっと強かったら無謀に突っ込んでいったら死あるのみだ。
さあ、何から知る?
そもそも私はこれからどうしたいんだろう?
山で獣や魔獣の王様みたいになって1人で生きたい?
鞭で打った男や乱暴した兵士に復習したい?
奴隷制度をなくすために国を滅ぼしたい?
『町の人』になって町で生活したい?
貴族や王になりたい?
う~ん、正直良く分からない。
でも、美味しいものは食べたい。
綺麗な服だって着てみたい。
ユイちゃんとだってまた会いたいし、友達だってもっと作りたい。
そして、一緒に遊びたい。
だからもう山でこそこそするのは終わりにしよう。
まずは何をするにしても知らないといけない。
どんな強い人や魔物が世界にいるのか。
どんな暮らしをしている人がいるのか。
どんな食べ物があるのか。
私が知っている世界は奴隷の集落と山の中だけだ。
これでは何をしたいのかも、どうすべきなのかもはっきりしない。
だから私は山を下りることにした。
もちろん集落ではなく町へと向い、もっともっと色々なことを知るために。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私が意を決して町に向かって山を下り始めると、程なくして見回り中の守護の役目の仲間に遭遇した。
「おう、ミコトじゃないか!?お前、やっぱり山に入ってたんだな。居なくなったって集落で騒ぎになってたぞ。」
「はい、すみません。でも、もう私奴隷でいることに耐えられなくって・・・ロッソ先生と一緒にクローベアーに襲われて死んだってことにしてもらっていいですか?」
「う~ん、そうはいかねぇよ。集落じゃあ皆お前を久しぶりに見たって話題だったし、奴隷の逃亡は重罪だからな。兵士だって黙っちゃいないよ。」
「そうですか、困りましたね。私はもう奴隷を辞めて自由になろうと思ってるんです。」
「おいおい、そりゃ俺たちだってそうしたいけど、奴隷ってのは辞められるものじゃないのは知ってるだろう?もし逃亡なんてことがバレたら兵士はどこまでだって追いかけてくるし、集落だってただじゃ済まされないぜ。」
「ええ、ですからまた山に戻って、そこで死んだことにしておいてくれると誰にも迷惑が掛からなくていいかなって・・・」
「なるほどなぁ。でも、お前どうやって生きていくつもりだ?まあ、お前なら山で狩りして生きていくこともできるだろうけどよ。」
「まだ分かりません。町に行ってみて、色々分かればどうするべきかも決まると思うんですが・・・」
「う~ん、そういう訳にはいかねぇよ。町に行ったが最期、脱走奴隷として捕まって悲惨なことになるぜ。」
「でも、私奴隷の服も着てないし、あいつら私の顔なんて分からないんじゃないかしら?」
「は~、あのなぁ。俺らの背中には刺青があるだろう。そいつは俺らがどの町に所属する奴隷かってのが分かるようになっているんだよ。だから怪しいとなったら背中見られて終わりよ。そんなことも知らないで町に行ったら直ぐにお縄だよ。」
「そ、そうだったんだ・・・皆にあるから何も考えたことなかったわ・・・許せない!」
ミコトの怒りは益々蓄積されていく。
「まあ、悪いことは言わないから集落に一度戻って、また山で暮らせばいいじゃないか。今までと何も変わらないよ。お前は守護の役目としては特別優秀なのは皆分かってるから、問題にもならないさ。」
先輩のいうことは確かに正論だ。
やっぱり私には知らないことが多過ぎるし、先輩にここで会って話を聞いてなかったらどうなっていたか分からなかった。
しかし、かと言ってこのまま同じ奴隷としての生活を諾々と続ける気はもうない。
耐えられない。
「無理です。確かに私は何も知らないし、町へ行ったらトラブルになるでしょう。それに、山でならもちろん生きて行けます。でも、もうそんな風にコソコソするのも、鞭を恐れて貴族や市民にビクビクしながら生きるのは嫌なんです。」
男達は顔を見合わせて困ったような顔をしている。
「ご心配して頂きありがとうございます。背中の刺青についても教えて頂いて助かりました。これから背中の刺青を消して皆さんにも迷惑が掛からないようにした上で町に下りてみたいと思います。」
刺青が奴隷の証だと言うなら消せばいい。
邪魔は全部吹き飛ばせばいい。
私はもう生殺与奪を握られた奴隷じゃなくて、生殺与奪を握る側なのだから。
そう言って一旦刺青の対策をすべく山の奥に戻ろうかと思っていると、人が近付く気配があった。
「おい!お前達、クローベアーを見なかったか?ん、お前達は3人組なのか?普通は2人組だろう。」
5人組の兵士が山道を歩いて近付いてきて、ミコト達に向かって問い質してくる。
あの時の兵士達だ、私とユイちゃんから獲物を奪い、お姉さんをボロボロに弄んだ・・・
「ん、ああこの子はまだ小さいんで2人だと危ないんでこの子と組む時だけ3人組なんですよ。」
先輩がうまいこと兵士にとりなしてくれる。
「そうか、今はクローベアーが出たということだからな、しかも手練れのロッソが犠牲になったと聞く。流石に我らも役目上見回りをせん訳にはいかんのよ。もっとも、ロッソが相打ちで仕留めてくれているらしいから問題ないとは思うがな。」
「報告じゃあ小娘を護ってクローベアーと相打ちだったらしいな。ん?もしかしてお前がその小娘か?ロッソの奴は随分と小さいのが好きなんだな。ん?お前、服が奴隷の服じゃないな?奴隷が奴隷の服以外を着るのは禁止だと分かっているよな?」
私は頭に血が上って行くのを感じた。
「ロッソ先生を馬鹿にするな!ロッソ先生は私に『生きろ』って言ってくれたんだ。弱い者いじめしか能のないお前らなんかよりずっとずっと強いんだ。私が調子に乗らなければロッソ先生だって死ななかった。お前達が私達に武器や防具を持たさないから死んだんだ!お前らなんか・・・お前らなんか・・・私達からただ奪ってるだけじゃないか!」
「はん!当然だろう?お前たち奴隷は罪人で、俺たちはお前達の生殺与奪を全て握っているんだ。そんな俺たちに生意気な口をきいてただで帰れると思うなよ!」
兵士たちは一斉に杖代わりにしていた槍を構えてミコトに穂先を向ける。
ミコトとの距離は5M程だ。
間にいた守護の役目の先輩たちは木陰に退避する。
よくしなる木製の柄に鋼の穂先と石突を両端に付けた槍は、遠い間合いでも攻撃できる実戦的な武器だ。
腰に剣も装備しているが、それは接戦になったときや障害物が多くて槍が振るえない場合の予備である。
「冗談じゃない!あんた達なんかに私の人生を好きにされたくないわ。これからは私があなた達の生殺与奪を握るのよ!奪え!」
ミコトが兵士達に左手を向けて叫ぶと、兵士たちは突然の脱力感と疲労感に襲われた。
だが、視覚的に何かがされているのかが分かる訳じゃないし、平和ボケしてサボりまくっていたツケが登山できた、くらいにしか思わないかったし、何よりも目の前にいるのはか細い少女だ。
それも、まだ1人前と認められていないと守護の役目の奴隷達が言ったばかりである。
なので兵士たちは完全に舐めていた。
少女趣味はないものの、山の見回りと言うキツイ任務に当たることになった憂さをこの女を慰み者にして晴らしてやろうと下卑た想像をしながら間合いを詰めていく。
しかし、間合いを詰めれば詰めるほど脱力感と疲労感が強くなっていく。
槍を持つ手を上げるのも辛い、もう一歩も足を動かせない。
何かがおかしいと思った時にはすでに遅く、5人はほぼ同時に地面に倒れ伏した。
まだ息はあるし、意識も微かに残っているが、力が入らないし湧いてこない。
ミコトはスキルの発動を止めて油断なく近付いて行って槍や剣を取り上げる。
そして、先ほどロッソに対する暴言を吐いた兵士の顔に顔を近付けて背中に左手を添えて耳元でささやいた。
「ふふふ、どんな気分?奴隷の女の子1人に5人もの兵士さんが手も足も出ずに殺されちゃうんだよ。」
「ま、待て・・・待て・・・・助けてくれ・・・・俺には将来を約束した恋人が待ってるんだ・・・」
兵士の顔は恐怖に引きつりながら必死に最後の力を振り絞って命乞いをする。
「あなたが昔乱暴した奴隷の女の子も止めて欲しいって言わなかった?私の狩りの獲物を奪う時に私だって抵抗したよ?その時あなたはどうしたっけ?」
兵士の目は更なる恐怖に見開かれ、涙と鼻水にまみれてぐちゃぐちゃになっている。
そんな兵士の顔を満足気に眺めたミコトは、最後の言葉を耳元でささやいた。
「私はお前の全てを奪う。」
その言葉と『生殺与奪』スキルを発動し、残っていた兵士の生命を全て吸い切った。
絶望の表情のまま絶命した兵士の傍らには、具現化された生命の玉といくつかの赤い玉と緑の玉を握り締めたミコトがしばし立ち尽くしていた。




