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「ただいまー! あー楽しかった!」
「た、ただいま帰りました……あの、遅くなってすみません」
すでに帰宅していたヒューさんに挨拶をすると、ヒューさんはにっこりとやっぱり綺麗に笑う。
「お帰りなさい、どうせミレイが引っ張り回したんでしょう? お疲れ様でした」
流石同僚、行動は読めていたらしい。
まあ、ミレイさんが両手に抱えている荷物を見れば、すぐわかるかな……
私の部屋はミレイさんの隣に決まっていたので、まずそこに家具を置いていく。
掃除は先に帰ったヒューさんがしてくれていた。
ヒューさんとミレイさんの二人で寝台、机、椅子を運び入れ、配置している横で、私はカーテンをつけて、寝台に寝具をつけていく。
「まだ素っ気ないわねー……」
「いえ、十分だと思いますけど……」
「いいえ、あたしは納得できない!」
不満そうなミレイさんが叫ぶと、自分の部屋からいくつかぬいぐるみを持ってきた。
好きなの選んで! と言われて、犬と猫のぬいぐるみを選び、机の上に飾らせてもらう。
ここで長く働くことになったら、ラスさんに棚をつくってもらったら、自分でなにか買ってこよう。
そんな夢を持ちながら、はじめての自分の部屋という事実に胸がいっぱいになる。
「……と、隊長が帰ってきましたね」
不意にヒューさんが呟いたけど……音とか、したっけ?
でもミレイさんもそうね、とうなずいていたから、二人にはわかったらしい。
三人で出迎えに降りると、本当に扉が開いて、シジェス様とラスさんが帰ってきた。
「お帰りなさい」
「お帰りなさーい」
「お帰りなさい……」
二人にならって挨拶すると、二人とも笑顔でただいま、と言ってくれた。
こんなふうなやりとりははじめてで、思わず泣きそうになって、慌てて力を入れる。
「買い物は順調にすんだかな?」
シジェス様に問いかけられて、はい! と強くうなずいた。
「色々買ってもらって……その分は、ちゃんと働きます」
「そこは気にしなくていいんだが……難しそうだな」
苦笑いしながら、シジェス様の手が伸びて、ぽんぽんと頭をなでられる。
……こんなの、母にされて以来だ。
「今日は仕込みの暇がなかったから、適当に買ってきたよー」
言われてみれば、ラスさんは手に荷物を持っていて、しかもいい匂いがしている。
帰り際に総菜とかを買ってきていたらしい。
……たしかに、ずっと私の部屋の支度をしていたから、夕食の準備はなんにもしてない。
「一応、鍋にスープは作っておきましたよ」
簡単なものは作れるらしいラスさんは、帰宅後それだけはしていたらしい。
ということで、野菜たっぷりのスープに、ラスさんたちが買ってきたものと、山盛りのパン、それとラスさんと私でつくったサラダでの夕食になった。
昨日と同じ席順について、今日の買い物のことを話ながら、賑やかに時間が過ぎていく。
つい一昨日まで、こんな食事をするなんて想像もしてなかった。
こんなに楽しい夕飯は、母が亡くなってから久しぶりで……
私は何度も、泣きそうになるのを我慢しなければならなかった。
食後、ミレイさんと一緒にまたお風呂に入って、自分の部屋になった場所へ行く。
「眠れなかったらきていいからね!」
と、ミレイさんは言ってくれたけど……流石に二日続けてお世話になるのは気が引ける。
今まではずっと一人で寝ていたんだし、大丈夫だと思いたい。
真新しいベッドにもぐりこむと、ふかふかの布団に顔が緩んでしまう。
シジェス様は明日からゆっくり働くようにと言われたけど、掃除とか、絶対手が足りてないだろうから、頑張らなきゃ。
気に入らなかったら辞めていいって言われたけど、みんな優しくて、そんな気は全然起きそうにない。
でも、甘えたままじゃよくないから、ちゃんと働いて恩返しをしなきゃ。
旦那様に無能って怒られたから、役に立てることはあまりないかもだけど……それでも。
いつか、いてよかったって、言ってもらいたいから、できることからやっていこう。
私はそう決意して、目を閉じた。
──それから、私はシジェス様の家で、働いたり、色々なことを経験したりするのだけど。
それは、またいつか、機会があったら、お話ししようと思います。
そんなわけでヒロインが拾われるところまでです。
この先彼女を軸にあれこれあるはずですが、
私が書きたかったのがここまでなので、
ひとまずここで完結にしておきます。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
大人が少女を猫っかわいがりするの、大好きです!
全員分のルート分岐とか考えたりもしたのですが、
それは誰得なんだろう……とか。