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そして、繋がってゆく命

 勇者ヒーローの葬式は、盛大に取り行われた。



 今までの功績を考えてのことと、大陸中の者達が自らの財布を緩めお金を献上してきたからだった。



 彼が亡くなり、半年間は誰しもが喪服を身に纏っていたという。



 彼の墓は、家族の強い要望の為、住んでいた村が一望できる丘の上に作られた。



 生前から、勇者ヒーローはその場所に上っては村や森などを眺め、安全を気にかけていたという。



 だから。



 もう、気にしなくても大丈夫なのだと。それが伝わるように、そこに作られた。









 そして、十七年の月日が流れた。




 


 


 

 その日は、カラッとした晴天だった。


 青く、果てしない空がどこまでも続く、気持ちの良い朝だった。


 太陽が燦々と降り注いでいる最中、ある村の片隅にある小さな家から産声が上がり、今か今かと待ち望んでいたその村人達が目尻に涙を浮かばせながら、歓喜して村中でお祝いをしていた。



 その日の、真夜中。


 

 普段なら既に寝入っている筈の時刻。楽しげな喧騒が外から漏れて聞こえてきていた。窓から、外で使われているカンテラの明かりが室内に侵入してきている為、この部屋には小さな蝋燭の数本にしか明かりを灯していなかった。

 その部屋でたった一人、女性が生まれたばかりの赤ん坊を抱きかかえて体を揺らし、あやしていると暗がりにある扉が開かれて、一人の男性が入って来た。

 黒髪に灰色の瞳を持つ、優しげな雰囲気を身に纏っている青年だった。

 その青年が自分の傍に寄ってくると、赤ん坊を抱いた女性は優しい微笑みを向ける。

 「お疲れ様。赤ちゃんの名前考えなくちゃいけないね」

 生まれたばかりの子供の、柔らかい頬をぷに、と人差し指で優しくつつきながら青年は言う。

 「そうだな。男の子だし……」

 そう言葉を切って名前を考えつつ唸り始めると、赤ん坊の親であるその青年が、女性の腕の中に収まっている子供に腕を伸ばし、抱きかかえる。

 すると突然、赤ん坊が泣きだした。

 「っと……」

 青年は声を上げて泣く赤ん坊を優しく撫でながら、おしめを取り換えるために布団の上に仰向けに寝かせ、当てていた布を取り外してゆく。汚れたところを綺麗に拭き、仕上げに暖かいタオルで優しくトントン、と肌に当てたあと、新しい布を足の間に通して子供の向きを変え、腰に巻こうとした、その時。

 青年は、動きを止めた。

 子供の名前を決めかねてうんうん唸っている女性の傍らで、青年は目を瞠ったまま微動だにせず、それに数秒遅れて気が付いた女性が、声を掛ける。

 「フウノ。どうした?」

 「……ねぇ、これ……」

 そう言いかけた時、扉ががちゃりと開く音がして、男女が部屋に入って来た。

 「あ、父さん母さん」

 女性が入って来た者達を見て、そう呟くように言う。

 「お疲れ様、サリタン。よく頑張ったわね。そろそろいいかなーと思って、会いに来ちゃった」

 そう言ってにっこりと笑う母親に、サリタンは微笑みを向けた。

 父親であるバッシュは、リーサが娘と会話をしている間に、布団の上に背中を向けて転がっている孫を覗き込んでいたのだが、彼もぴたりと動きを止めていた。

 それに気が付いたリーサが、夫に問う。

 「どうしたの? あなた」

 「いや……、それが…………」

 ふと気づけばフウノの視線が自分に向けられており、サリタンも生んだばかりの子供の背中を覗き込む。

 そして、目を見開いたまま、言葉を失った。



 その子の腰に、まるで傷が塞がった跡のような、痣があったのだ。



 その瞬間、その場にいた全員が、同じことを考えていた。



 暗闇の中、蝋燭の炎がゆらりと揺れて、橙色の僅かな明かりの中に映りこんでいる黒い影も、揺れ動く。

 沈黙が室内を満たしていたが、それを破ったのは、フウノだった。

 「……いい名前があるんだけど」

 サリタンを含め、全員の視線が赤ちゃんの痣へ注がれる。

 「言ってみて」

 その言葉を聞いたフウノは、そっと口を開いた。





 「ヒーロー」


余談ですが、サリタンとフウノの記憶が残ったままなのは、忘れたくないと訴えられたレヒドルが罪悪感を感じていたこともあって消えてなくならないようにする術をかけたからです。  読んで下さった皆様ありがとうございました。よければ次の物語でも覗いて下さったら嬉しいです。

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