こ、これがシン○レラ城……あ、違う?
いやーっ、城ってこんな内装してんだな。
今までシンデ○ラ城しか入ったことないからわかんなかったよ。
今現在、俺たちは城にいる。
きょろきょろはしてないよ?
田舎者に思われたくないからな。
で、まず匂いから違うね。
鼻孔をくすぐるのはフローラルな香り。
そして、飾られる絵画や、壺。
あいにくと俺には価値がわからんが……安くはないのだろう。
すっげー、すっげー、まじすっげー!
「見回すな。それと、お前はここではあまり喋らない方がいいぞ」
十分きょろきょろしていたようです……。
マリアに注意されてしまった。
しかし喋らない方がいい、とは至るところ地雷だらけ、ってことですかね。
少し身構えていた方がよさそうーー
「やめろ、殺気が漏れている」
ーーではないですね。はい。
一気に見張りの人が柄に手をかけましたよ。
漏れだしていた量はそんな多くないはずだから、あまり勘繰られてはいないだろう。
入念な身体検査をされて、俺は謁見の間に通される。
この際に腰に帯びていた刃がとられなかったのは、俺が男だから非力と侮られていたからなのか?
まぁいいや。
目の前で重たそうな扉が開かれた。
「っ……!」
同時にビリッと肌を重圧が走る。
数はそんなに多くない。
中央に座った女王が一人。
その隣にローブと騎士の女性が一人づつ。
脇に護衛の騎士、魔術師が八名ぐらい。
あとは……殺気も重圧もない奴等ーー大臣とかか?ーーが数人ぐらいいるな。
俺に向けてプレッシャーかけてきたのは側近の奴らだな……。
そんな中マリアが一歩前に出た。
「マリア・リグレット。只今帰還しました」
手を胸につけ、片膝をつく。
お、俺もやっておこうか……。
すると、鎧を着た女性が顔をしかめたまま、口を開いた。
「報告を」
「はい、陛下の命の下、光の森の散策中サーベルウルフと遭遇しました」
すらすらと述べられる報告に、貴族たちが表情を崩す。
王の護衛たちも顔には出していないが、眉を潜めている。
「なんです?サーベルウルフ!?」
「都市は大丈夫なんですの?」
「光の森になどあり得ない……」
「黙れ!」
『………!!!』
女王の一喝に貴族たちが口を閉じた。
すげーな、女王サマ。
何がすごいって言うと文句なしに美しい。
あ、食いつくとこそこじゃねぇだろって?
もちろん護衛の人達も美しいさ。
この場所にいる人はみんな美しいんじゃないか?
あ、そういう意味でもない?
「報告を続けてくれ」
「はい、遭遇の後討伐。こちらにあるのがその首です」
マリアが俺に視線を寄越す。
ん、あぁ、この黒狼の首を出すんだっけな。
俺は女王によく見えるように首を置いた。
先程よりも大きなざわめきが広がる。
その時、一瞬だけ女王と目が合った気がした。
いや、目が合った。
女王はというと今はもう目を外し、黒狼を興味深そうに見ている。
別段不思議なことでもないだろう、とりとめもないこと。
だが、俺はその目になにかが引っ掛かった。
そのなにかを見つける前に、騎士は神妙な顔で口を開く。
「お前は騎士とはいえまだ未熟だ。Aランクの魔獣を倒せるはずがない。なら誰が倒した?」
「今は誰が倒したのか、よりも何故光の森に現れたのか?の方が重要なのではないのですか?」
「いいから答えろリグレット!」
騎士が口調を荒くする。
マリアの言ってることは正しいよな……。
おおよそ、自分の位が脅かされると思ったのだろうか。
Aランク討伐ってなかなか凄いことっぽいし。
じゃぁ、ここらへんが出番かな、っと。
俺はバッと手を上げた。
全員の目が俺に集まる。
「えーと、私。アオイ・ウサが討伐しました」
ん?口調おかしかったかな。
場が一気にして凍りついた。
なーんでマリアは「やってしまったか……」みたいな顔をしているのかにゃ?
と思っていたら爆発的に広間は声で溢れかえる。
なお表情を崩さないのは女王と、その脇のローブと騎士だけだ。
「男が?そんな私でも倒せてしまうような男が討伐ぅー?」
「馬鹿にするな!!!今すぐ殺されたいのか!」
「ひっひー。お腹痛いぃぃぃ」
「この男を捕らえる命令を!陛下!」
「今すぐ首を落としてくれる!」
「焼き加減はミディアムでよろしいので?」
「黙らんか!」
『………!!!』
貴族の笑い声と騎士達の怒りの声。
それはまたしても女王によって止められる。
しかし、今度は騎士に喋らせるのではなく自分で言葉を続けた。
「なるほど、主は自分がサーベルウルフを倒したと言っておるのじゃな?」
「ええ、そうです」
「ふ、ふふっ。あーっはっは」
「陛下……?」
どうしたんだ女王さんは?
嘲るような笑いではなく、本当に愉快そうに声を上げた。
剣を抜いている護衛が困ったような顔を向ける。
その護衛の中で、一番若い少女が俺を睨み付けた。
「このような戯れ言に耳を貸すことはありません!陛下、私に許可を!」
この広間でも、断然若いマリアと同年代。
いや、それよりも若いかもしれないな。
ってかなんの許可ですか?
穏やかじゃないようだけど。
「マリア!あなたには失望した!何の魂胆があるかは知らないけど見えすいた嘘を言って!」
少女は床を蹴り、俺へと突っ込んでくる。
って今あんた女王に許可求めてたでしょうが!
あれはなんだったんだよ!
血気盛んか!
叩き伏せようと腰に手をかけると、その前にマリアが動いた。
少女の得物であるレイピアを剣で弾く。
「甘いわッ!!!」
少女が叫んだ時だった。
弾かれたはずのレイピアが手元に戻っている。
驚いたな。
相手を殺傷しようと相応の威力で放たれた突き。
それを腕を伸ばしきった状態、技の終わりから一拍もせずに引き戻すことは並みの筋力じゃできない。
それはどうしても突き出す時より、引き戻す時の方が力を使うからだ。
その一連の動作を一瞬でこなすのは腐っても騎士ってことか。
「止めよ!!!」
少女がもう一発、突き出そうとしたところで女王の静止がかかる。
その切っ先は、マリアの左目の前で止まった。
危なかったな。
怪我じゃすまないところだったぞ。
少女の方が。
「くっ……」
少女は苦しげな表情をして呻いた。
あと一歩、マリアの目を抉ろうと踏み込んでいたら逆に自分が貫かれていたんだからな。
よく見ると少女の胸のプレートの半ばまで剣先が埋まっていた。
切断面が溶けていることから剣に火の付加でもかかっているのだろうか。
フレイムソードぉぉ!みたいな?
だがマリアの肉を切らせて骨を断つっていう意識は本当に驚嘆に値すると思うよ。
この世界は失明ぐらい魔術で治っちゃうのかもしれないけどさ、それでも人間目に飛び込んでくる物には反応するだろう。
それを恐れずに相手の命を取ろうってのはマリアさん、まじぱねぇっす。
すると女王は含み笑い。
そう、子供がいたずらをする前のような顔をしていることに俺は気がつく。
「ナタリア、お前が憤る気持ちもわかる。男が魔獣、ましてはサーベルウルフを討伐など考えられないからな。しかし、そこの男、アオイは自らが倒したと言う」
お、おや?なんだか雲行きが……。
そんな俺の疑念も知らずに女王は高らかに声を張り上げた。
「そこでじゃ!我が名、キャリアナ・ドール・ディアモンドの下、騎士ナタリア・アレグリアとアオイ・ウサの決闘を宣言する!!!……名案じゃろう?」