2人の少女
国王様たちとの戦いが終わってから、丸一日が経った。
今朝は早くから、黄昏の剣の3人が迷宮へ出掛けた。
今回の迷宮探索は、3日間かけて身体を慣らすのが目的みたいだ。
国王様たちは、一旦王都へ戻るとのことで、昨日の昼食後、ティアが乗せて王都へ戻ったのだけど……。
ギネヴ様だけは、何故かここにいる。
まぁ、「何故か」じゃないんだけど……。
「ほら、挨拶の練習!」
僕に礼儀作法を教えるのと、一般的な生活を教えるために残ったとのこと。
めっちゃ厳しい!
午前は礼儀作法。
午後は狩り。
夜は料理。
朝、起きたらすぐに掃除。
その間に、ギネヴ様が朝御飯を準備してくれる。
朝御飯を食べたら、食器を片付けて洗い、洗濯物を洗って干す。
終わったら、食堂の机で、この国の歴史や法律などの座学。
そのあと、礼儀作法の実践形式の教育を受けて午前が終わる。
昼食は、朝食時に一緒に作っていたらしいサンドウィッチやサラダなんかを食べる。
食べ終わったら、西の森で狩りや討伐。
ヒト形態限定。
魔法は身体強化のみ。
そして今日は、ゴブリンの集落が見つかったので、その壊滅が目的なんだけど……。
「はい、あそこに見える洞窟が巣穴よ。洞窟内は狭いから、剣の使い方を考えてね。
じゃあ、今からこの砂時計が落ちるまでね~。
いってらっしゃい」
ソッコーで、洞窟の入り口に立っていた2匹にショートソードを投げつけ、刈り取る。
ショートソードを抜き、血を払いながら洞窟の中へ突っ込んでいく。
罠はないみたいだけど、奥からワラワラと、緑色の体躯に小さな角のようなものを生やしたゴブリンたちが、棍棒や錆びた剣を持って飛び出してくる。
息を軽く吸い込み、ゴブリンたちに突っ込んでいく。
ゴブリンたちの隙間を縫うように駆け抜け、ショートソードに付いた血を振り払う。
首が落ちる。
身体が上下に別れる。
斜めにずれる。
全てを一刀で切り裂いていく。
刀……じゃなくて、ショートソードの切れ味が良すぎて怖い。
迷宮内と違い、そのまま死体が残るのだけど、魔石を身体から抜き取っても、それは変わらない。
今は、そんなことより奥に行かなきゃ!
か細い悲鳴が聞こえたんだ。
走るスピードを上げ、すれ違うゴブリンを空爪撃で薙ぎ払う。
そして、洞窟の最奥にある広場へ出た。
広場の奥には、格子の付いた穴がある。
人間の匂いがする。
広場には、ゴブリンの親分みたいなのが1体。
杖を持ったのが2体。
あとは、棍棒などの武器を持ったゴブリンが数十体。
『ギネヴ様、誰か捕まってるみたいなんだけど、ゴブリンの数が多すぎるんで、魔法使ってもいい?』
念話で聞いてみる。
『やり過ぎちゃダメよ! 人助けが優先』
コアII、囚われてる人数は?
『2人のようです。ヒト族の女のようです』
ここにいるゴブリンの殲滅に最適な魔法を展開して。
『ヤー、マム』
返事と共に、無数の氷と土の槍が浮かび上がる。
そして、一斉にゴブリン目掛けて放たれた。
――ドドドドドッ!
ゴブリンの親分みたいなのだけが、岩を盾にしたようで軽傷。
他のゴブリンたちは、次々と串刺しになっていく。
見た目、結構グロい……。
『ゴブリンキングのみ防御したようです。トドメを刺しますか?』
コアIIが聞いてくる。
だけど、言い終わる前に――
ゴブリンキングの頭が飛んだ。
ショートソードに魔力を注ぎ、風の刃を放ったのだ。
とりあえず、すぐに格子のところへ行って中を確認する。
似た顔の女の子が2人。
少し大きい方の子が、小さい方を庇っている。
姉妹かな?
「もう、大丈夫だよ。ゴブリンは片付けたから……」
言いながら、格子を外していく。
ゴブリンだけに作りが雑なのか、力一杯引き抜くだけで抜けた。
3本も抜いたら出られるのだけど……。
出てこない。
「ホントに大丈夫だよ。出てこれる?」
2人とも四つん這いで出てきたことには、ビックリした。
よく見ると、足の腱を切られているみたいだった。
そして、首には首輪。
とりあえず、1人をおんぶして、もう1人を抱っこして入口まで戻る。
途中、死んでいるゴブリンを見て、戻しそうになっていたけど、2人とも何とか耐えてくれた。
入口を出てギネヴ様のところへ行く。
周りには、串刺しになったゴブリンが数体転がっている。
「あら、お帰り♪」
「戻りました。この子たちが囚われてました」
子供たちを下ろし、座らせながら話す。
「ん? 奴隷の首輪かしら?」
ギネヴさんが呟くと、姉妹はビクッとする。
コアII、奴隷の首輪って?
『この世界において、奴隷は一般的です。
犯罪奴隷は犯罪を犯した者。
一般奴隷は、生活などに困り身売りした家族や個人ですね。
それ以外にも、戦争奴隷などが居ます』
ん~?
この歳で犯罪奴隷ってことは無さそうだから……売られたのかな?
「家族は?」
「父も母も殺されました」
お姉ちゃんだと思う方が、しっかりと答える。
「ごめん、嫌なこと聞いちゃったね」
「いえ、良いんです。私たちの歳なら、そう聞かれるのが普通でしょうし……助けていただいた方に、何も文句など出るはずがございません」
なんか、妙にしっかりしてる。
「とりあえず、家に戻ろうか……。
足を治して、お風呂に入って、ご飯を食べてから、ゆっくり話をしましょう?」
「そうですね」
「じゃあ、また抱っことおんぶお願いね♪」
ふぉっ!
そうかぁ~……。
ティアは国王様たちと王都だ。
よし!
気合いを入れて、2人をおんぶと抱っこして――
走る……走る……走る!
隣を見たら、少し浮いてる。
『浮遊魔法と風魔法の合成魔法のようです』
出来る?
『出来ますが……今はやめておいた方が宜しいかと……』
なんで?
『操作が難しく、2人を抱えている状況では、2人に危険があるかと……』
コアIIが制御したら?
『一度でも使った魔法なら威力や操作を制御できますが、使ったことのない魔法ですと制御が難しいので、ライザ様と同じような結果になるかと思われます』
ん、やめとこう。
そんな話をしていたら、西門に着いた。
門の兵隊さんが来たけど、ギネヴ様の顔を見た瞬間、ノーチェック。
顔パス!
これが、前世でもなかなか見ることのできなかった、伝説の顔パス!
家に入り、居間のソファーに座らせる。
「飲むもの持ってくるから、その間に首輪取っちゃってね~。
それ残してると、足の治療も出来ないから……」
丸投げ?
コアII、外せる?
『解析してあります。
特定の魔力による拘束。
それ以外の魔力に反応して、締まるようですが、ライザ様なら手に魔力を溜めて引き千切れます』
えっ、そんなんで大丈夫?
『はい。膨大な魔力を一瞬で注ぎ込めば、魔力回路がショートします。
あとは、その馬鹿力でなんとでもなります』
ば、馬鹿力……。
まぁ、良いや。
「じゃあ、とりあえず、その首輪外しちゃうね」
手に魔力を込めながら首輪に両手を掛けた瞬間――
パチッ!
音がした。
少し力を入れて首輪を左右に引っ張ると、案外簡単に外れた。
同じように、妹の方の首輪も外す。
喜んでいる2人に、回復魔法を掛ける。
「痛いところとかない?
大丈夫? 立てるかな?」
2人はキョトンとした顔をしていたけど、すぐに気付いて、立ち上がろうとする。
長い間、立てなかったからなのか、なかなか立てない。
お姉ちゃんに手を貸して立ち上がらせる。
ふらついているけど、きちんと立ててる。
妹ちゃんも同じようにして、立つことができた。
歩くのは、これからゆっくりかな……。
ゆっくり手を引き、ソファーに座らせると、ギネヴ様がお茶を持ってきた。
「お待たせ~。
足も治ったみたいね」
と言いつつ、お茶を並べていく。
真ん中には、サンドウィッチとクッキーが置いてある。
「好きに食べてね」
2人はサンドウィッチを頬張り、お茶で流し込み、クッキーも平らげる。
そして、ハッと気付いたように、ギネヴ様と僕を見る。
ギネヴ様は微笑んで、
「まだあるから、しっかり食べなさい。
慌てなくても、なくならないわよ」
そう言いながら、僕の方を見る。
あ~、持ってこいの合図と理解して、キッチンへ向かう。
まだサンドウィッチが置いてあったので、それを持ち、ついでに空いている皿も持って皆のところへ戻る。
「サンドウィッチのお代わりと、今朝買った串焼き!」
空いている皿に、アイテムボックスから今朝の散歩の時に買っておいた串焼き5本を出す。
それも食べてくれた。
お腹いっぱいになったのと、安心感からか、妹ちゃんはお姉ちゃんに寄りかかるようにして眠ってしまった。
「ありがとうございました。
久しぶりの普通のご飯で、美味しかったです」
お姉ちゃんが頭を軽く下げながら、お礼を伝えてくれる。
「うん、落ち着いたかな?
少し、尋ねたいこともあるけど、とりあえずお風呂に入って、明日の朝、ゆっくりお話をしましょうか?」
ギネヴ様がそう伝えると、彼女は、
「そうですね……申し訳ありませんが、明日の朝ゆっくりお話しさせてください。
今日は、出来たら簡単にお願いします」
まぁ、疲れてるよね?
変なところに囚われてたんだから……。
「そうね、少しだけお話ししましょう……。
その前にライザ、ギルドに報告して、ゴブリンの後片付けをお願いしてきなさい。
あのままだと、巣の再利用と死体目当てに魔物が集まってしまうから……」
「あ、はい」
返事をして、ギルドへ向かう。




