3 クソ、幕引きを早めなければならない
「深く考えるのはやめろ、不毛だ」
モグラさんが言ってた事を唐突に思い出した。あれ?さっき何を考えてたんだっけ?えっと……?瓶ビールを1本空けたせいか頭が回らない。うーんうーん…あれ、そういえばモグラさんはまだ帰ってこないのかな?
「ただいま…なんだ、やっぱり飲んじまったか。凜、そこに座れ。何度飲むなって言えば飲むのやめるんだ?」
モグラさんのお説教が始まってしまった、だってあるんだから飲んじゃうんだよ、なければ飲まないもん。どうせ言ったところでお説教が長くなるだけなのはわかっていますよーだ。
「わかった、ビールを買わなければ凜が飲めないって事だ。仕方ないがそうしよう、俺が飲むために冷やしたビールなんだけどな…」
お説教も早々と終えてモグラさんは寝る支度を始める。お風呂は入らないのかな?
「ねえモグラさん」
「……」
寝るのが早い、今日のお仕事そんなに疲れるようなものだったかな?いつも通り手早く済ませてたように見えてたけど、相手が重かったとか?だから若い私が手伝うって言ってるのに、モグラさんは頑固だから絶対言う事聞いてくれないんだ。でも私の好みは熟知してるし、エスパーみたいに心を読んでくれる。一回だけ依頼主の顔を見に行ったことはあったんだけど、あんまり覚えてないんだ。覚えてなくていいってモグラさんが言うから、じゃあ忘れちゃおうかな、で忘れられるのが私の長所だ。
あれ?そういえばビールを飲む前に何をしてたんだっけ?なんでビールを飲んだことがモグラさんにバレちゃったんだろう?隠したつもりだったんだけどな。わたしのうっかりが出ちゃったのかな、それにモグラさんはエスパーだから私の行動なんて全部わかってるのかな、きっとそうだろう。
「凜ちゃん、早くてあと5ヵ月、長くても9ヵ月持つかどうかだ。そろそろ決断すべきじゃないかな?」
いつもの医師に凜の状態を診てもらい、俺は絶望した。早過ぎないか、ってな。凜はきょとんとした顔で俺を見てる、何を言われてるかわかってねえ顔だな。まあ、わからないほうがいいだろう、こんな『自身の余命宣告』なんて。あいつの出自が不味かった、脳挫傷から始まっちまってるから1年は持たない。既に記憶障害は中程度まで進んでいる。それと安っぽい味付けが強烈に残るほど脳の機能は低下している。あれこれ考えたが、最終的には俺が始末するしか手がない。他の方法は今の医学進歩具合でどれだけ医学が『進化』をしようとも100年以上はかかるだろう。迫っているのは300日も満たない。やはり凜を眠らせてやることだけが凜を幸せにする方法か、クソ。惚れた弱みがこんな形で来るとはな。
「なあ、聞いているか?」
「すいません、考え事してました」
うっかりしちまった。こいつはまだ穏やかな方だが、他だとこうはいかないので気を引き締めて話を聞かないとな。凜のケツ持ちはしっかり俺がやるからな。
「そうか…まあいい、また連日ですまんが、次だ」
クライアントが次の依頼書を俺に投げ渡してきた。封を開けると、また中国人か…殺し方まで指定するとはな…派手に遊んだんだろう。
「今日中ですか?」
「一刻も早くだ、詳細は全て中に入っている。さっさと殺ってくれ」
追い返されるように事務所を後にしため息を一つ。せめて飲んで寝たい、しまった冷蔵庫に入れたままだ。凜は間違いなく飲んでいる。何度言っても聴かない理由が脳のダメージだからな…いうだけ無駄なんだが、あいつの実年齢を考えるとやはりまだ早い。しかし余命も速すぎる。だから、もうお小言だけは言わせてくれ。




