表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/128

マリア②

「好きだったからこそ。大好きだったからこそ。大切にしたかったからこそ」


「……っ」


「アレンはお主の頬さえ触れることを躊躇った。我を倒し、世界に光をもたらすという使命。それを全うする為に。己の恋慕さえもその糧として」


 染み渡る、ガレアの声。

 それにマリアは一筋の涙をこぼす。


 視線の先。

 そこに佇む、アレンの姿。

 そのかつて世界を救おうとした勇者の姿。


 〜〜〜


 "「勇者様。これからよろしくお願いします。私はマリア。共に世界から闇を祓いましょう」"


 "「あ、あぁ。お、俺はアレン。よろしくな」"


 仄かに頬を赤らめ、視線を逸らしたアレンの姿。

 それにマリアも、心が温かくなった。


 治癒が使えると言っても。

 薬草をたくさん買ってきて。


 まだ、二人だけだった頃。

 焚き火の番をすると言って、私の為にずっと一人で寝ずの番をして。


 どんなことがあっても。

 決して、私を責めなかった。


 それなのに。

 それ、なのに。


 〜〜〜


「アレン。あれん。わたしは、わたしは」


 呟き。

 涙を流し続け、マリアはガレアに懇願した。


「魔王様、お願いします。わたしに刃を。お手を煩わせはしません。このマリアの手で。自らに終止符をうたせてくださいませ」


 そのマリアの懇願。

 それに、ガレアはしかし応えることはない。


 ゆっくりと立ち上がる、ガレア。

 まるで、選択権は自分ではなくアレンにあると言わんばかりに。


 周囲の魔物たち。

 そして人間たちもまた、一言も声を発することなく成り行きを見守る。


 そこに再び響く、マリアの掠れた声。


「どなたでも構いません。私にわたしに。終止符をうたせてください。どなたでも。どうか、お願い。します」


 しかし、応えるものは居ない。

 いや、居るはずもなかった。


「……っ」


 泣き崩れる、マリア。


 そのマリアの姿。


 それを見つめ--


 力無く。

 アレンは、瀕死になったゴウメイを離す。


 そして。


 声を発することなく、アレンはマリアの元に歩み寄っていく。

 鞘から剣を抜き、その瞳にかつて愛した聖女マリアの姿をうつして。


 そのアレンの背。

 それを見つめ、クリスはアレンのとる選択を見届ける。

 その先。

 そこにたとえ、聖女マリアの死という結末があろうとも。


 マリアの前から身を退け、アレンに眼前を譲るガレア。


 アレンの意思。

 それに呼応し、風がアレンの頬を撫でる。


 その風を受け--


 マリアの眼前。

 そこに辿り着き、アレンはマリアを見下ろす。


「……」


 声を発することなく。

 闇に染まった眼差し。

 それをもって。


「勇者さま。終止符を。貴方様の手でなら」


 涙を流し微笑む、マリア。

 その笑顔。

 それは、はじめて出会った頃のマリアの笑顔そのもの。


 振り上げられる、剣。


「ありがとうございます、勇者様。これでわたくしは」


 だが、その剣は--


 マリアに振り下ろされることはなかった。


「死んで救われるのは。聖女てめぇだけだろ」


 吐き捨て。

 剣を鞘に戻す、アレン。

誤字脱字報告ありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 王家とこいつらには、誰が何をしたせいでこうなったか説明された人民の前にさらされる義務があるw
[気になる点] アレンには少しでも救いがあるといいですね。 [一言] これだけの事態を引き起こした元凶があっさり死んで終わろうなんて虫が良すぎますよね。マリアにはゴウメイと一緒にとことん思い知らせてや…
[良い点] 逃げは許されませんよね。アレンの断固たる決意を感じました。どのような贖罪を課されるか気になります。 [気になる点] これだけかけがえのない思い出や、当時の思いがあるにも関わらず、数話前まで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ