9,≪殺しようがない≫は甘くない。
冒険者006:芝野仁は片付けた。
冒険者007:若原和香は戦闘不能。あとで美弥にあげるとして。
最後は冒険者005:橋場重樹だ。
さすがに焦ってはいるようだけど、まだパニックというわけではない。さすがランクA。
「クソが! どうなっていやがる! まさか不死身ってわけじゃねぇだろうな!?」
「不死身らしいですよ。つまり、弟さんの仇を取ることは不可能です」
「信じられるかぁ、んなことがぁぁあ!」
《水地獄》が再発動され、僕の体は半分ほど消滅した。
そこでいったん《水地獄》が止まる。
地味に感動。
橋場重樹はこう考えたわけだ。僕を完全消滅させたら、どこに再出現するか分からない。だから体の半分だけを破壊し、再生したらまた破壊する。
それを続けていけば、いつかは再生が終わるだろうと。ようは持久戦に持ち込んだ。
ふむ。狙いは悪くないような気もするけど──
《殺しようがない》は、そんな甘いエクストラスキルじゃないんだなぁ。
「死ねクソがぁぁ! 俺はAランクだぞ! てめぇみたいな雑魚モンスターに足元すくわれるなんて、そんなことがあってたまるかぁぁ! 死にやがれぇぇぇぇぇぇ!」
30分後。
橋場重樹の攻撃が終わった。
両膝をついた橋場は、フルマラソンのあとのように疲れ切っている。
スタミナとMPが同時に底をついたようだ。
僕はゆっくりと立ち上がり、《地獄神》を改めて召喚した。
何となく口笛を吹きながら、橋場に歩み寄る。
僕を睨んでいるつもりだろうけど、そこにはすっかり恐怖がある。
「……てめぇ……殺して……やる」
橋場の頭頂部に《地獄神》のドリルビットを当てる。
「うーん。何か言おうと思ったけど──とくに思いつかないや」
スイッチオン。ぐぉぉぉ。
頭蓋骨を貫き、脳をずんずん進む。
橋場を片付けたので、美弥のもとに向かった。
負傷している美弥に肩を貸して、倒れている若原のもとに行く。
「……まいったわ……呼吸するのも苦しいんだけど……」
「じゃ若原さんのトドメは僕が」
「……まって……あたしがやる……けど爪は使えそうにないわね……」
《闇黒の爪》が消えている。どうやら美弥の体調などに影響されるようだ。美弥をフロアボスにするのは、まだかなり不安だなぁ。
「じゃ、これ使う?」
《地獄神》を渡そうとしたが、美弥が触れたとたん消えてしまった。
僕しか使えない設定なのか。セキュリティは万全だ。
美弥は強い意志が感じられる口調で言う。
「……なら気合いで……殺るわ……」
両手で、若原の口と鼻を押さえ込んだ。当然、呼吸ができなくなった若原は抵抗する。お互いに負傷している者同士だ。さて、どっちが勝つか。
頑張れ美弥。
かなり長い戦いに思えたが、ついに若原の抵抗がおさまった。絶命したようだ。
で、美弥も力尽きた。こちらは気絶しただけで。
「モンスターって病院に連れていけるのかな?」
ふいに若原が動く。
僕は美弥を突き飛ばして、自分が攻撃を受けるようにした。
若原から放たれた衝撃波で、数えきれない回数目の身体損壊。
同時に完全再生。
さては、これが若原の《怒反撃》か。
蘇生してからの、怒りの一撃が。
「あんたらは、絶対に許さブギゃッ!」
眉間にドリルビットを打ち込んだのだ。
今度こそ、若原は息絶えた。
さすがにランクの高い冒険者は強敵ぞろいだった。
今からSランクさんが楽しみですね。
★★★
美弥をおぶって戻ると、オリ子の姿はなかった。ぽつんと待っていたカナが、オリ子からの伝言を言う。
「飽きたので帰るそうです」
「あの上司っ!」
「それと負傷者が出たなら、第50階層にある野戦病院に行けとも」
【無限ダンジョン】内にモンスター専用病院があるのか。
しかし第50階層まで行くのは、かなり大変だぞ。オリ子がいないので転送もしてもらえないし。
「あとモンスター専用のエレベーターがあるそうでして」
「え、エレベーターまであるの?」
このダンジョンの、何気ないところでの近代化ぶり。
「はい、場所を教えていただきました。ただ起動するには、南波さんの掌紋認証が必要だそうで」
「武器庫のときも思ったけどさ。一体いつのまに、僕の掌紋データを取ったんだろう」
カナが向かったのは、ただの変哲のない壁の一隅。そこに僕が掌を押し付けると、壁がスライドして隠されていたエレベーター・ケージが現れた。
乗り込むと、自動で降下しだす。
行先は指定できないのかも。しばらくしてエレベーターが止まり、扉が開いた。
「じゃ行こう」
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。