5,皮をはぐ、それを僕は『カツオブシ』と呼ぶ。
反応がない。
インターホンの連続押しという、ほとんど嫌がらせをしたけど応答なし。
早苗さんが怪訝そうに言う。
「留守かな?」
「または居留守かな」
リビングまで行き、窓ガラスを試してみた。鍵が開いている。不用心なことで。
しかし最上級国民の家に押し入ろうというチャレンジャーは、そんなにいないのかもね。最上級国民への犯罪で捕まったら、ブラック・サイトという拷問施設に送られるそうだし。
いずれにせよ、モンスターには好都合。
リビングに入り、足音を忍ばせて進む。
ふいに美弥が現れた。ピザ一切れを片手にして。
「兄貴、遅かったわね」
ピザをかじる。
ところで僕の妹、全身血まみれなんだが。
「怪我は?」
「平気。ぜんぶ返り血だし──あら、兄貴の友達? いつも兄がお世話になってます」
早苗さんに向かって、ぺこりと頭を下げる美弥。
こう見えて美弥は、礼儀正しいのだ。
早苗さんが影から顔だけ出しているのはスルーだったね。
とりあえず美弥を残して、邸内を探索してみた。
まず台所に、八つ裂きにされた死体がひとつ。この家の奥方か。
続いて廊下に旦那さんの死体。
地下室への階段を見つけたので降りてみる。
そこは、いかがわしいことをするための部屋らしい。
半裸の男が3人、転がっていた。全員、20代かな。手足をスパッとされていたが、丁寧に止血されているので、まだ生きている。
美弥がピザを食べながら降りてきた。
「目覚めたら、そいつらがいたのよ。あたしにイヤらしいことしようとしてね。それで腹が立ったから、ついに《闇黒の爪》が覚醒したというわけ」
美弥の右手から、《闇黒の爪》がするすると伸びてくる。
「といっても、まだスキルは使えなかったわね。ただ鋭い刃にはなったけど」
「この人たちに何かされたの?」
美弥は首を横に振った。
「大丈~夫。汚い手で触られるまえに、切断よ」
「止血はうまくやったねぇ」
「漫画で覚えたのよ」
やはり最大の教育手段は漫画だよね。ホントに。
だるまの一人が僕を見上げて言う。
「た、た、助けてく、ください」
「殺してラクにしてほしいんだね? 了解でーす」
「ち、違う、そうじゃな」
頭頂部にドリルビット。
「あー、兄貴。まだ生かしておいてよ。あたしの肌に触れようとした罪は重いのよ。あたしに欲情しただけで、地獄行きよ。これから皮削りコースが始まるの」
「皮を削るの? まるでカツオブシのように?」
美弥の顔が輝く。
「さすが兄貴。いい表現するわね~」
「ところで、この中に守谷勝好はいないようだね。飯山家惨殺の主犯格のことだよ」
そもそも、ここに転がっている人たちは冒険者なのだろうか。
最上級国民なら、最低限の戦闘力は有しているはずだけど。
覚醒した美弥が強すぎて、手も足も出なかったのだろうか(別にうまいことを言おうとしたわけじゃないよ)。
美弥がだるまの一人、長髪の男を指さした。
「そこの男は、それなりに強かったわよ。炎の槍で、あたしを串刺しにしようとしたの。けど、なぜか炎槍は消滅したわね。そういえば、そのとき《闇黒の爪》が光ったような」
《闇黒の爪》の能力とは、敵の魔法攻撃を無効化するもの?
だとしたら、最強の盾であり、最強の矛というわけだね。
「仲間はキーと呼んでいたわ」
「ふーん」
《個人情報取得》によると、なんだBランクだ。
つまりSランクである守谷勝好の取り巻きの一人ということか。
僕はキーさんを抱えて、ベッドの上にのせた。手足がないので意外と簡単だった。
「さてと。守谷勝好さんがどこにいるのか、教えてもらえますか?」
「ふ、ふふふ、ふざけるな。オレにこんなことして、タダで済むと、おおお、思ってんのかよ」
「美弥、カツオブシ」
「O~K」
美弥の『カツオブシ』は、初めこそぎこちなかった。
だが、そのうちコツを覚えてきたようだ。カツオブシのあまりの薄さに、感動するくらいだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ死なぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ助げでぇぇぇぇあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
30分ほど、カツオブシ。
キーさんは、全身が赤いペンキで塗りたくったみたいになっていた。
「守谷勝好さんはどこですか?」
キーさんは死んだような声で答えてくれた。住所を。
ミカンの恩義に報いるまで、また一歩前進だ。
「兄貴、用は済んだ? カツオブシを続けていい?」
「好きなだけどうぞ」
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