14,コロンブスの卵な発想。
最上級国民ランクS。
すなわちSランク冒険者の方々。
これはリストがあった。国内では48名。
計算してみよう。全員殺したら24億円。
借金完済なんて小さな夢だったよ。24億円もあったら、お金持ちになっちゃうよ。
夢にひたっていたら、美弥の退院の日になった。
モンスター専用病院に迎えにいく。
「それで兄貴、あれから何人の冒険者を血祭りにあげたの?」
「2人……小梨くんがね。僕は0人」
「はぁ?」
来ないのだ。
冒険者が来ない。
もしかして【無限ダンジョン】って、もう冒険者たちに飽きられているのでは?
僕は心配になって、美弥を連れてオリ子のもとへ向かった。
ちなみにオリ子は、サーティ〇ン・無限ダンジョン支店でよく見かける。
今日もそこでアイスを舐めながら、半分寝ていた。
「オリ子さん、居眠りしている場合じゃないですよ」
「おお、我が期待の星ではないか。どうかしたのか、イコよ」
イコライザーが略されている! オリ子って、かなりの物ぐさなのでは?
「冒険者が来ないんですよ。日照りです。冒険者日照りです」
「落ち着くのだ、イコよ。お主にはまだ話していないことがあった。【無限ダンジョン】にはセーブポイントがあるのだ」
「セーブポイントって、死んだらやり直せるアレですか?」
「いいや。死んだ人間は生き返らん。
【無限ダンジョン】のセーブポイントとは、『その階層から再開できる』という意味だ。たとえば冒険者の太朗くんがここにいる」
「はぁ太郎くん」
「太郎くんは間抜けな名前でイジメられていた。むろん最上級国民の中でも、ヒエラルキーはあるからな」
「はぁイジメ。あの、喩え話なので、登場人物の背景とかはいらないのでは?」
「とにかく、太郎くんはイジメに負けず修行を重ね、Sランクに到達した」
「太郎くん、やったね」
「そして快進撃。【無限ダンジョン】を第54階層まで攻略した。するとそこにセーブポイントを見つけたのだ。太郎くんは明日も学校があることを思い出す。そこでセーブポイントを使い、地上に戻ったのだ」
「つまり、セーブポイントとは転送ポイントということですか?」
「うむ。だが、ただ転送して地上に戻るだけではないぞ。次回【無限ダンジョン】に入るとき、そのセーブポイントから再開できるのだ。太郎くんの場合は、第54階層からだな。
ちなみに第50階層のこの都市には、冒険者は入ってこられん設定だ」
「えーと。じゃあ、Sランク冒険者はもうセーブポイントを活用しているんですか? だから第1階層に来るSランクは、もういない」
「そういうことだ。だがイコよ。最も冒険者がやって来るのは、やはり第1階層だ。だからモンスターたちの不人気階層でもあるわけだからな。お主は第1階層のフロアボスとして、コツコツと冒険者を狩って行けば良いではないか。借金完済もすぐだ」
「けどSランクが来ることはまずないと。48人のSランクは、誰一人として──」
「うむ。Sランクの首は諦めることだな、イコよ」
僕の落ち込みがあまりに激しかったらしく、美弥に慰められてしまった。
美弥もオリ子と同じことを言う。
「雑魚の冒険者を殺していけばいいじゃないっ!」
そうだ。美弥の言う通り、のはずなのに。
これは僕の中で目覚めた向上心。
もっと強い冒険者を血祭りに上げたい。
という健康的な、さらなる高みを目指したい気持ち。
第1階層に行くと、コンビニ入店音がした。久しぶりの冒険者。しかし心は踊らない。
《個人情報取得》で見たところ、ただのCランク。
いまさら、Cランク?
Cランク冒険者の左眼球を《地獄神》で抉っていても、心は晴れない。
2時間後、Cランク冒険者がようやく死んだ。
「……兄貴、いたぶりすぎ」
「あぁ。僕はいまスランプに陥っているよ美弥。Aランクの橋場重樹を殺してしまった以上、いまさらBやCランクなんて──遣り甲斐がない」
「兄貴。仕事は楽しいものじゃないのよ。これまでのバイトだって、別に楽しくなかったでしょ」
「けどこれは天職だよ、たぶん。せっかくの天職なのに、もう行き詰るなんて」
「付き合ってられないわ」
第1階層の片隅で落ち込んでいると、カナさんがやって来た。ようやく腐敗防止スキルを身につけたらしい。そのためか、いつになく明るい。
「あの、知樹さん。わたしの恩師が言っていました。チャンスが来るのを待ってばかりではダメだ、と。知樹さんにも当てはまることだと思うんです」
「チャンスが来るのを待ってばかりではダメ?」
なんていう衝撃。カナさんの言う通りだ。
チャンスは、こちらからつかみ取りにいかないと。
「来てくれないのなら、こっちから行けばいいんだね。よし、Sランクを殺しに行こうっ!」
来ないなら行けばいいじゃない。
会いにいけるモンスターから、会いに来るモンスターへ。
この転換は、まるでコロンブスの卵な発想。
「……あ、すいません。そういう意味でもなかったんですけど。あの、知樹さん?」
最上級国民の素敵なところは、何か?
ネットで、住所が簡単に手に入ることだね。
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