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逆鱗のハルトⅢ  作者:
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思惑の交錯④

「ふむ……なにに、か。そうだな、なににでも使えよう。医療、製造、学術……我が帝国をよくするためにはなんでもだ」


 ウィルがそう答えた瞬間、ボーザックは携帯食糧にかぶり付こうとしていたのをとめて黒い双眸を見開いた。


 ……俺も同じような顔をしたかもしれない。


 だってさ――考えられなかったんだ。


 血結晶を『まっとうな』目的で使うだなんて答えが。


「――ふん。『冒険者』は面倒な思想を持っているな。戦争に使うとでも言ってほしかったか?」


 ウィルは横目でボーザックの表情を確認すると、つまらなそうに言って残りの携帯食糧を口に放り込む。


 その言葉にボーザックは眉を寄せて唇を引き結んだけど、俺は思わず鼻を鳴らした。


「別に『冒険者』は関係ないだろ。戦争のためなんて言ってほしいわけでもない。『俺たち』が魔力結晶をどう考えているか――そこの曲者から聞いてるんだろ?」


 そこで当の曲者――ストーが眉をハの字にして「まあまあ」と俺たちを宥める。


「すみません皆さん。けれど、アルヴィア帝国は魔力結晶の研究で大きくなった国――このとおり帝都は湖の遺跡の上です。先ほどのような事故も考えるとこういった道具を必要とするのも当然だとは思いませんか?」


「――それは思う。ごめん皇帝。ハルトもありがとう」


 ボーザックが座ったまま頭を下げたけど……俺は気に入らずにこぼした。


「そもそも事故じゃないだろ。なんの対策もなしに皇帝がのこのこと――さっき言ってたよな。〈爆風〉に助けられたって。ただの人災じゃないか」


「確かに皇帝がこんなところにいるのは私も詳しく聞かなければならない部分ですね」


 そこでストーが、なぜかにこにこしながら俺の言葉に同意する。


 本当に曲者だよな……この人。


 それを聞いたウィルは明らかに顔を顰め、ため息混じりにぱたぱたと右手を振った。


「はぁ。――わかった、わかったから。説明してやるから怒るな〈逆鱗のハルト〉。そんなだから〈逆鱗〉なのか? お前は」


「なっ……!」


 俺は喉を詰まらせ、思わずぶんぶんと首を振る。


「そ、その呼び方やめてくれないかな――」


「あながち間違いでもないんじゃないかしらね」


「あはは、ハルト君の逆鱗に触れると恐いもんね!」


 ファルーアとディティアがくすくす笑うので……俺は肩を落とすしかない。


「……ええ、ちょっと酷くないか?」


 心のなかでこっそり言っておくけど、ふたりの逆鱗に触れたほうが恐いからな絶対……。


「まぁそう言うなハルト。お前の頭も冷えただろうよ」


「はは。若いな!」


 今度はグランと〈爆風〉が笑うんで……俺は右手でこめかみをぐりぐりしながら首を縦に振った。


 確かにこんなところで腹を立てているだけってのも意味がない……わかってるんだけどさ、そんなこと。


「ああもう……悪かった、ごめん。ウィル、続けてくれ」


 するとウィルは鼻先でふっと笑い飛ばし、低い天井を見上げた。


「――この遺跡は『中枢』と呼ばれる皇族のみしか入れない場所がある。そこでは鈍色の海月くらげが飼われていてな――お前たちはもう見たんだろう? 奴らは魔力を喰い余分なものを排出する性質を持つ」


 ……さっき崩壊した部屋にいたあの魔物のことだな。


 そういえばストーが魔力を含んだ液体をぶちまけたときに飛び付いていたっけ――。


 そう考えながら俺が黙って聞いていると、ウィルは吊り上がった翠の瞳を細めて続けた。


「遺跡が崩れるとそこから湖の水が入り込む。水は必ず『中枢』に流れ込むよう水路が用意されているんだが、そうするとその海月くらげどもが一気に流れを遡っていくんだ。そして壊れた箇所に取り付き食事を始める。すると排泄物が固まって穴を塞ぐ」


 グランがそれを聞いてぽんと膝を打った。


「それがこの遺跡の自己処理ってわけか。……湖の水に魔力が含まれてんのか?」


 ……いや、でもそれだと……。


 俺は首を振って口を開く。


「グラン。さっきは魔力感知のバフかけてただろ。でも壁が壊れたときに水は光ってなかったと思う」


「……それは簡単です。魔力を含んでいるのは水そのものではなく、そこに生息する小さな浮遊生物たちなんですよ。寄り集まっていなければ見えないかもしれません」


 説明してくれたのはストーだった。


「へえー。海にも魔力を食べる海月くらげがいたけど……親戚かなにかかな?」


 ボーザックがそう言うと、ファルーアは眉をひそめて嫌な顔をする。


「あまり思い出したくはないわね」


 ウィルはなにが面白かったのかファルーアに向けて微笑んでみせると、さらに続けた。


「中枢では排水機能が働いていてな。水によって封鎖された区画は時間が経てばまた入れるようになる。そしてここからがようやく本題なんだが――さっきの魚の魔物。あれは鈍色の海月くらげが大好物なのだ」


「え、あの海月を餌にしてるのか?」


 聞くと、ウィルは神妙な表情を浮かべて瞼に合わせるように首を動かす。


「ああ。それで気になってな――ストーの持っている道具の試験がてら『中枢』を見にいった。皇族しか入れん場所だ、俺が向かうことに問題はなかろう?」


 そっか、皇族しか入れない場所じゃ……って、いやいや。


 納得しかけた俺はそこで思い直した。


 まだ全然情報が足りない。


「じゃあウィルはその『中枢』で〈爆風〉と会ったのか?」


 すると〈爆風〉本人が歯を見せてカラカラと笑った。


「どうやらそのようだ。この通路の先が『中枢』に繋げられていた。そこでウィルと……排水用の水路を上ってきた魚の魔物を見つけたわけだな。まあいろいろあったんだが、最終的には排水機能を利用して魚の魔物ごと湖に流してもらった」


「はぁ。〈爆風〉……あんた、さらっと言うけどさ……」


 水中で戦うとかなに考えてるんだよ……。


「ふふ。そうだよね、心配だよねハルト君!」


 近くに座っていたディティアが悪戯っぽく微笑むけど――心配してたわけじゃないからな!


すみません空いてしまいました!

テレワークが決まって通勤時間がなくなると意外にも書く時間の捻出に戸惑うという……


慣れれば大丈夫なので、できるだけ平日毎日は続けていきたい所存です。


よろしくお願いします!


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