表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルトⅢ  作者:
PR
11/77

思惑の交錯③

******


 アルヴィア帝国皇帝、ウィルヘイムアルヴィア。


 彼は俺たちが『災厄』を倒すために奔走しているあいだ、帝都で『紅い粉』の対応に追われていた。


 異常な行動を起こす輩が帝都に増えるなか、彼のとった対策は常駐する帝国兵を総動員して町を捜索させるという徹底ぶりだったそうだ。


 とはいえ、のちに『災厄』討伐や自由国家カサンドラ復興支援のためにかなりの兵を動かしたこともあり、結局は後手に回ってしまったらしい。


 ――ちなみに自由国家カサンドラはトレジャーハンター協会本部が置かれている国で、アルヴィア帝国北東部にある。


 俺からすれば……そうだな。


〈爆風のガイルディア〉が『災厄の毒霧ヴォルディーノ』から俺を庇って毒に侵された、苦い記憶のある場所ってところか。


 そういえば――毒のせいで〈爆風〉の体にはうっすらと蔦が巻き付いたような痣があるはずだ。


 不躾にじろじろと眺めていると、彼は腕を組んで飄々と言った。


「――なんだ〈逆鱗〉。そんなに見詰めても穴は開かないぞ」


「なんだよそれ、そんなことわかってるよ……」


 ランプの灯りだけじゃよく見えないだけかもしれないけど――もしかしたら消えたのか?


 そうだとすれば朗報だ。毒にやられたほかの人たちも回復するかもしれない。


 ――考えながら俺は揺れる影に目を落とした。


 話を聞きながら軽く食事をすることにした俺たちは思い思いに座っている。


 ずぶ濡れの〈爆風〉とウィルが自身の周りに水溜りを作り出しているから焚き火でもしてやりたいところだけど――遺跡の中じゃ無理だった。


 ファルーアの魔法で炙るってわけにもいかないしな。


 うん――消し炭にされそうだ。


 俺は知らずふるりと体を震わせた。


「それでウィル。魚の魔物のことは誰から聞いたんです?」


 ストーがトレジャーハンター協会で分けてもらった携帯食糧をウィルに渡しながら聞くと、彼は腹が減っていたのかがぶりと囓ってから目を閉じてもごもごと咀嚼する。


 俺は〈爆風〉に同じものを放ってから自分も口にして――首を捻った。


 携帯食糧はなにかを押し固めた厚みのある楕円形で、噛むとギュムっとした不思議な食感が頬の筋肉を刺激する。


 甘くもなければ辛くも酸っぱくもない――パサパサというよりはもさもさっていうか……なんだろうなこれ。果物か……?


 皆も変な顔をして食べているあたり、俺だけじゃなく皆も美味くは感じないんだな……と妙な安心感を覚える。


 ディティアは頬いっぱいにしてるけど――本当に小動物みたいだな!


 すると携帯食糧を飲み込んだらしいウィルが、鼻の上にぎゅっと皺を寄せて露骨に顔を顰めながら言った。


「んぐ――不味いな。漁師組合から上がってきた案件を生産大臣が持ってきたんだ。帝国宮ていこくきゅうの侵入不可水域に紅い光を放つ魔物がいるとな」


「なるほど、漁師組合ですか。で? なぜわざわざウィル本人がここにいるんです? 仮にもあなたは皇帝ですよ?」


 ――ストーのやつ、味のことはどうでもいいんだな。


 心底どうでもいいことを考えていると、ウィルが胡坐を掻いた膝の上で頬杖を突く。


「ふん。帝国宮ていこくきゅうの下で紅い粉が作られているかもしれないんだ、黙っていられるわけがないだろう? それにな、これの試験もあった」


 彼は顎を上げてベルトにぶら下がっていた袋を外し、ストーに投げて寄越した。


 ストーは頭上でなんとか受け止めると、思い切り反ってしまった上半身を立て直す。


 彼が防水処理が施されているのだろう鞣し革の袋から取り出したのは……俺の人差し指くらいの棒状の道具だ。


「なんだそりゃ」


 黙って聞いていたグランが声を上げると、ストーは「なるほど」と首を縦に大きく振る。


「これは咥えて使う道具です。ウィルの指示で水中でもしばらくは呼吸ができるようにと開発が進んでいたもので、魔力結晶を内部に組み込むことで空気を――」


「ちょっと待ってくれるかしらストールトレンブリッジ。いま……開発と言った?」


 そこに口を挟んだのはファルーアだ。


 彼女は艶めく金の髪が肩から滑り落ちたのを背中に流し、ゆっくり首を振る。


「魔力結晶を使った道具――ランプや街灯は光らせるだけだから別として、その仕組みは解明されていなかったはずよね」


「アルヴィア帝国はそれができる――そういうことですね」


「道具を作れるのか……⁉」


 ディティアが瞼を伏せて呟き、思わず声を出してしまった俺は手のひらに汗がじわりと滲むのを感じた。


 ――血結晶を使った特殊な道具がある……それは出土品からわかっていたことで、その研究が進んでいることも知っていたけど。


 まさかそんなに進んでいるなんて思わなかった。


 それはつまり現時点で『有限』の血結晶がより高騰する理由になるってことだ。


 そして俺たち[白薔薇]が知っているのは『血結晶』の製造方法という重大な秘密なのである。


 ストーは静かに頷くと、ゆっくり……じっくりと俺たちひとりひとりの表情を見詰めた。


「皆さんはやっぱりいい顔しませんね。『災厄』の糧となっていたものでもありますし。――〈光炎のファルーア〉さん、確かにアルヴィア帝国では道具の製造と開発にも力を入れています。この国には遺跡も多く、魔力結晶の産出量も相当なものですからね」


「俺は正直その結晶を使いたいとは思わねぇがな」


 グランがしきりに顎髭を擦りながら唸ると、ボーザックが冷めた声で続けた。


「それでその道具……作ってなにに使うつもりなの?」


すみません、ばたばたしていて遅くなってしまいました!


こちら9日分です。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ