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十二ヶ月の姫君様  作者: 桜二冬寿
第七章 あの日にあったもの
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Chapter 2-(2) 再会の低い声

 フードコートから出た悠馬は少し離れた場所にある休憩スペースに足を運んだ。夕食の時間帯であるためか周りに人は少なく、電話をするのにも適していた。

 悠馬は繋がったままの電話を耳元に当てて声をかける。返ってきた声は何度聞いてもお父さんのものだ。懐かしくも寂しい、低い声が悠馬の耳に張り付く。

『急にごめんな』

「ううん、大丈夫。……で、どうしたの?」

『ああ、いや……悠馬たちがどうしてるかなって』

 歯切れが悪くお父さんは言う。おそらくそれが本当の用件ではないのだろうが、悠馬はひとまずお父さんの会話に流れを任せることにした。


「まあ、普通に暮らせてるよ」

『そうか』

 安心した吐息の漏れが聞こえる。

「お父さんはどうなの?」

 家を飛び出してから動向が不明で、今もどこで何をしているのか知らない。お父さんにあるものは謎だらけだ。

『お父さんは仕事を見つけて、借金も返し始めたんだ』

「そっか。それは良かった」

 あれから仕事を見つけられないでいると、いよいよお父さんが何をしているか分からなかった。悠馬は心の底からホッとする。

 しかしそれからあまり会話は続かない。どちらも何を話せばいいのか分からないのだ。悠馬としてはお父さんがこのタイミングで電話をかけてきた理由を聞きたいところだが、お父さんの話し方を聞くに迷いがあるように思える。


『あのな、悠馬』

 その沈黙を破ったのは絞り出すように震えたお父さんの声だった。

『一度、悠馬たちと会って話したいんだ』

 それを聞いて悠馬の頬に汗が垂れた。やはり本題はお父さんからは切り出しにくいものだった。

 悠馬たちということは、結希や羽花、そして拓斗たちも一緒にということだ。悠馬はあの日の拓斗とお父さんの衝突を思い出したが、無理やり振り払った。拓斗も変わったから、きっと再会したとしても最悪な状況は起きないはずである。


 そして職を見つけて借金を返し始めた機会に電話をしたということは――お父さんが言いたいことはそういうことなのだろう。

「……とりあえず、拓斗たちに予定を聞いてみるよ。今外だからまた折り返す」

『そうか。じゃあ俺の電話番号を……』

 お父さんは自分の携帯電話の番号を伝え始めた。それを悠馬は伏し目がちにメモしていく。それにしてもまず非通知設定で電話をかけてくるあたり、自信の持てていないお願いだったのだろう。お父さんもかなり悠馬たちには後ろめたいものがあるようだ。


『じゃあ、連絡待ってるよ』

 そう言い、電話は静かに切れた。

 悠馬は携帯電話をしまい、早歩きでフードコートを目指した。突然、心に居座り始めた気持ち悪さを今すぐにでも吐き出したい。それを求めて悠馬の足は回転数を増していく。


 フードコートでは、さっきと変わらない席で祥也と治親が座っている。近づいてくる悠馬に気づいた二人は思わず立ち上がって到着を待った。

「悠馬、大丈夫――」

 と治親が言うのを遮って、悠馬は二人の肩にパンッと音を立てて手を置いた。驚いた二人は瞬きを繰り返して悠馬を見ている。悠馬の上がった呼吸にも何かがあったと思わせられる。


「治親、祥也……もうちょっと遊ぶの付き合ってくれ」

 鋭い目で悠馬は言った。更に驚きを重ねられた二人だが顔を合わせてニッと笑った。

「おう! 任せとけ!」

「今日は楽しんでおかないとな! 手始めに未来の曲で音ゲー勝負だ!」

「いや、できれば違う曲で頼む」

 三人はフードコートを後にして再びゲームセンターへと向かった。この瞬間だけ、悠馬はあれこれと考えるのを忘れていた。どうせ次の日には向き合わなければならないのだから。


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